文化庁メディア芸術祭大賞で泣けるなアニメ映画ランキング 2

あにこれの全ユーザーがアニメ映画の文化庁メディア芸術祭大賞で泣けるな成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年04月27日の時点で一番の文化庁メディア芸術祭大賞で泣けるなアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

89.6 1 文化庁メディア芸術祭大賞で泣けるなアニメランキング1位
時をかける少女(アニメ映画)

2006年7月15日
★★★★☆ 4.0 (4030)
21138人が棚に入れました
東京の下町にある高校に通う女子高生・紺野真琴は、ある日踏切事故にあったのをきっかけに、時間を過去に遡ってやり直せるタイムリープ(時間跳躍)能力に目覚めてしまう。最初は戸惑いつつも、遅刻を回避したり、テスト問題を事前に知って満点を取ったりと、奔放に自分の能力を使う真琴。そんなある日、仲の良い2人の男友達との関係に、微妙な変化が訪れていく。

声優・キャラクター
仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、原沙知絵、谷村美月、垣内彩未、関戸優希
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

どうしようもなく、時は過ぎ去っていく

アニメーション製作:マッドハウス
監督:細田守、脚本:奥寺佐渡子、音楽:吉田潔
キャラクターデザイン:貞本 義行、原作: 筒井康隆

子供から大人になるとき、私たちは色々な痛みや哀しみを経験する。
そのことによって、私たちは屈託のない気持ちのままでは
いられなくなってしまう。
それは「良し悪し」ではなく、誰もがいつかは通る道だ。
ただ15歳のときに通る人がいれば、
40歳まで通らない人もいる。大人になるということは、
何か大きな洗礼が必要なのかもしれない。

『時をかける少女』は、真琴が子供から大人になる物語だ。
そういう視点で作品を見ると、テーマがより鮮明になる。
最初の真琴は、ただの子供だ。
とても明るく屈託のない性格が、多くの人から愛されている。
彼女は「今」の生活がとても気に入っていた。
「今」がずっとずっと続けばいいと思っていた。

{netabare} ある日、真琴は偶然に時間を戻す能力を身につける。
それによって夏休み前の楽しいひとときを繰り返せるようになる。
失敗してもやり直せる。考えなければならないことが起こったときは、
その問題が自分には起こらないようにしてしまう。
何が起こってもやり直せる世界は、とても居心地が良かった。 {/netabare}
しかし「今」という時を先延ばしにしたことで、
真琴の周りの環境は大きく変化していく。
多くの人の歴史が変わり、自分自身を含め、
たくさんの人が傷ついてしまう。
また、どれほど時間を戻しても取り戻せないものもある。
それは、いくつもの偶然が重なった瞬間だけに存在する、
人の気持ちだった。

未来は少しのことがきっかけで大きく変わってしまうこともある。
だからこそ、「今」という時間のなかで起こる出来事に、
真剣に向き合って考えることの大切さに真琴は気付く。

この作品はタイムリープの部分などで難点があるとは思う。
しかし、真琴の想いは、とても上手く表現できている。
誰かのために必死になって走る真琴の姿は魅力的だ。
そして奥華子の曲がシーンと絶妙に重なって、深く心に残った。
(2018年12月4日初投稿)

忘れられないシーン(2018年12月5日追記)
{netabare} 私はこの作品が大好きで何度もリピートしているのだが、
雀犬さんのレビューを読んで色々思い出したことがあったので、
少し追記したいと思う。

ひとつは、やはり坂道で転がっていくシーン。
ここは動きとともにとても印象的だ。
止め絵やスローモーションを効果的に使って、
転がってボロボロになっていく様子は衝撃的だった。
新海誠監督の『君の名は』にも同じようなシーンがあって、
観たとき、これは明らかに時かけのパクりだろうと思っていたら、
どこかのインタビューで監督が、あっさりと認めていた。
それほどインパクトのある良いシーンだった。

次にスクランブル交差点のシーン。
全てが止まったお互いの姿が見えない人込みのなかで、
真琴はこれからやりたいことについて、
千昭を探しながら会話を交わす状況がとてもせつない。
人込みのなかで、声だけが響くシチュエーションは
観ている者の心を動かすほどの哀しみを感じさせる。

また、奥華子の曲が流れる最後の跳躍のシーンも忘れられない。
時間を遡るなかで転校生としてクラスに来た千昭が喧嘩をしたこと、
仲良くなった功介と3人で雨の日にひとつの傘に入って
帰ったこと、千昭が真琴に告白をしたことなど、
これまでの色々なことを思い出していく。

そして、ラストの河原のシーン。
実写映画で使われるような望遠での固定カメラ。
煌めく川が流れ、車が左右にゆっくりと走っている。
真琴のそばを自転車が通り過ぎる。
どうしようもなく過ぎ去っていく時間のなかで、
ふたりが別離を迎えるシーンには心を揺さぶられた。
監督のこだわりがとてもよく分かる絵作りで、
これをやりたかったから、監督は作品を作ったのではないかと
思えてしまうほどの名シーンだ。
良い映画には、こういう心に刻まれるシーンが
たくさんあるものだと再認識させてくれた。 {/netabare}

投稿 : 2024/04/27
♥ : 92

MKT さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

夏に見たい青春アニメ

この映画がきっかけで奥華子さんのガーネットに完全にハマりました(笑)

☆時をかける少女 / ガーネット
http://www.youtube.com/watch?v=b_Y4XXkJDW0

いやぁ なんとも言えない切ない余韻が残るエンディングでした。
まさに夏に見たい青春アニメという感じです。

タイムリープで過去に戻れるかぁ。
俺ならいつに戻るかな?
小学生からやり直したいなんて欲は言わないから、
去年の夏に戻りたいかなぁ・・・。

でも戻れないしなぁ。

過去になんて戻れないこそ、後悔の無いように人生楽しんで行こう!と改めに思い返すきっかけになりました☆

投稿 : 2024/04/27
♥ : 20

せもぽぬめ(^^* さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

時を越えても良い作品なのですね!!

「時をかける少女」ってタイトルだけは昔から良く耳にしていたのですが、原田知世さんの映画を含
め、今までまったく見た事がありませんでした!!
アニメ化されてからも、観た記憶はなかったので、よし、観てみようと思って視聴を開始・・・・
(^・ω・^).....ンニュニュ?デジャブ!?
無機質で嫌な予感を感じさせる、商店街の機械仕掛けの音楽隊!!
・・・・・なんか知ってるよこれw
どうやら、ふとつけたテレビでちょうど放送されてた所をそのまま観たのだと思いますね♪
まったくもって覚えていなかったので、面白くなかったのかなぁ~などと考えながら見ることになっ
たのです♪
 
物語は、真琴(まこと)・千昭(ちあき)・功介(こうすけ)の仲良し3人組がいつものように野球をした
り、ごくごく普通の学校生活を送るはずだったのです。
でも、この日はちょっと不幸な1日だったのですね♪プリンを食べ損ねたり、家庭科で油に引火させ
たり・・・それだけでは終わらずに、帰り道に死を覚悟するような踏み切り事故に遭ったのです!!
その瞬間にタイムリープに目覚めた日でもあったのです♪
タイムリープを手にした日からの真琴の日常が劇的に変わって行くのですよ!!
 
■「時をかける少女」で外せないポイント♪\_(*゚▽゚)
・黒板に書かれた「time waits for no one」観終わった後でこの意味の重みを感じてくださいね♪
・真琴と千昭の関係に注目!!親友から恋心に変わるタイミングってどこだったのでしょうか?
 友達の友梨との会話なんかもヒントになりますね-(・0・。)
・魔女おばさんの言葉に注目!!「待ち合わせに遅れてきた人がいたら・・・」この言葉に真琴がとった
 行動とは・・・
・千昭の言葉「未来で待っている」に込められた想いとは・・・o( ̄ー ̄;)ゞううむ
 その後、真琴が功介言った「実はやることが決まったんだ」に答えが見え隠れしますね♪
 
色々突っ込み所は満載でしたけど、人間観察が好きな人ならきっと楽しめたはずですよ♪
タイムトリープ後の世界で微妙に違っている人間模様をぜひ堪能してみてください、そして、真琴の
心理描写を絶妙に表現・演出している所も、全体を通して注目して欲しいですね♪
何気なくすごしている、何気ない時間って、良く考えたら取り戻せないのですよね(゚-゚*)(。。*)ウンウン
「時は金なり」って言う言葉がありますが、まさに、時間は貴重であり有効なものであるから、無駄
に費やしてはいけないよって、改めて時間の尊さを教えられたような気がするのです♪
そんな貴重な時間を割いても、観て損はない作品だと思いますよo(`⌒´*)oエッヘン!
 
最後に、主題歌:ガーネットの歌詞は真琴の気持ちが込められていて、観おわった後に改めて聞くと
改めてジーンとなれますよ♪歌詞が千秋の言った言葉のネタバレにもなっているからなのかもw

投稿 : 2024/04/27
♥ : 42

77.3 2 文化庁メディア芸術祭大賞で泣けるなアニメランキング2位
クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦(アニメ映画)

2002年4月20日
★★★★☆ 4.0 (455)
2987人が棚に入れました
ある夜、野原一家は全員そろって時代劇に出てくるような格好をした綺麗な"おねいさん"の夢を見る。次の日、野原しんのすけが幼稚園から帰ると、犬のシロが庭を掘り返していた。その穴から見つけた文箱の中には、「おらてんしょうにねんにいる」と読める汚い字とぶりぶりざえもんの絵が描かれた手紙が。埋めた覚えはないのにと訝しがるしんのすけだが、「おひめさまはちょーびじん」という一文を見て朝の夢を思い出し、"おねいさん"に思いを馳せながら目を閉じる。

目を開けたとき、しんのすけは夢で見た泉の畔に立っていた。訳もわからず歩いているうちに、軍勢同士の合戦に遭遇してしまう。最初は時代劇の撮影だと思い込むしんのすけだが、偶然から一人の侍の命を救う。井尻又兵衛由俊(いじり またべえ よしとし)というその侍は、命を救ってくれた恩からしんのすけを自分たちの城、春日城に案内してくれるという。そこには、しんのすけが夢で見た"おねいさん"こと廉姫(れんひめ)がいた。
ネタバレ

れんげ さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

『おい…、青空侍…。』

劇場版クレヨンしんちゃんの、記念すべき第10作。
2002年公開。


【前置き】

原恵一さんの脚本&監督作品の第6弾にして、監督としてはシリーズ引退作にあたります。

その完成度から、文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞をはじめ、前作「オトナ帝国」以上に数々の賞を受賞。
実際、これまでの作品と見比べても全体的に大人向けな印象が強いシナリオ構成であり、掟破りの展開も待ち受けておりました。

公開から7年後、「ALWAYS~3丁目の夕日~」で有名な山崎貴監督が、本作を原作とし実写映画「BALLAD 名もなき恋のうた」を制作したことで再び注目を浴びたこともあり、シリーズを通し一番有名な作品かもしれませんね。
ただ、そういった背景からも、このシナリオは「クレヨンしんちゃん」でやらなくても良いのでは? という意見もチラホラ出ました。

ですが私は、「クレヨンしんちゃん」だからこそ、このシナリオが光ったのだ、と個人的に思っています。



【あらすじ】

ある夜、野原一家は全員揃って、時代劇に出てくる様な格好をした『綺麗なお姉さん』が泉に佇む夢を見ます。

次の日、突然シロが庭を掘り返した中から古い文箱を見つけたしんちゃんは、「おら、てんしょうにねん(天正ニ年)にいる」という自身が書いた手紙を見つけました。
埋めた覚えのない手紙に首を傾げるしんちゃんでしたが…次の瞬間、彼は夢で見た泉の畔に立っていました。

泉から出たしんちゃんは、近くの軍場で偶然から一人の侍『井尻 又兵衛 由俊(いじり またべえ よしとし)』の命を救います。

彼の厚意で春日城に案内されたしんちゃんは、ここが手紙にあった「天正ニ年」(1574年)であること知ります。
その城でしんちゃんは、夢で見た綺麗なお姉さん『廉姫(れんひめ)』と出会うのでした…。



【論じてみる】
{netabare}
戦国時代を舞台にとした作品は、第3作「雲黒斎の野望」でもありました。
実はこの2作、時代背景的に見ると年号はほぼ変わりません。
加えて、城の名前も同じ『春日城』なのです。
(ただ、この城は史実的には存在しません。同名の城はありますが、長野県にある全くの別物です。)

パンフによると、この「雲黒斎の野望」の事件で出来た時間の歪みが、本作に繋がったという裏設定があるとか。
後付け設定とは理解しつつも、そう言われるとシリーズファンとしてはニンマリしちゃいますね。


さて、本作が評価された理由の一つとしてまず、文献調査や時代考証に力が入れられ、当時の時代背景の描写がとても緻密であった点が挙げられます。
戦国時代の風景や生活、戦場での白兵戦など、どの時代劇でも中々見られない描写が沢山登場しました。

特に注目すべきは後半の『城攻め戦術』の一手一手ですね。
本敵の収穫を台無しにする「刈り働き」の描写。
火縄銃の着火から、次弾装填の時間を防ぎ矢で稼ぐ描写。
背面に母衣(ほろ)と呼ばれる、空気袋を着用した武士。

中でも、布で包んだ石や焙烙火矢(ほうろくびや)を遠心力で投げ飛ばす描写は、とても単純ながらかなり破壊力のある攻撃手段だなぁと見ていて感心しましたね。
当時の人間なら簡単に考えだしそうな手法ではありますが、当時を振り返るだけの視点では中々思いつかない発想な気がしました。

あと、歩兵の中に「太鼓を担ぐ役と叩く役」がいて、その音で兵の士気を上げる役割分担があるのも、見ていて面白かったですね。
実際、突入時に勢いをつけるには、かなりの効力があったのでしょう。
勢いだけでなく、今回のような長期戦では「退き貝」と呼ばれる貝が鳴ったら今日の戦は一旦終了だ、という明確なルールがあるのも、なんだか妙に納得しちゃいました。


同シリーズは、前々から舞台背景と世界観に沿った描写がかなり緻密でしたが、それが本作でも存分に発揮されたという感じですね。
私的には、本作のみがそういう感じに言われることが多くて少し悲しくなりますが……。

演出面においても、タイムスリップ作品として必要不可欠な過去へ行く描写が、本作は何のエフェクトも無く瞬時にワープしたりと、作中唯一のファンタジー要素を一切誇張せず物語は展開します。
この演出は逆に新鮮で魅力にも感じましたが、同時に本作があくまでリアリティを重視した作りであることも窺えましたね。


……と真面目に述べていますが、本作はあくまでも「クレヨンしんちゃん」。
合戦での血の描写もありませんし、途中には戦国時代に似つかわしくない野原一家のコミカルな描写も、しっかり描かれています。
焙烙火矢で建物に火がついた時の、しんちゃんとひろしが小便で火を消すシーンは、話が重苦しくなり過ぎないよう良い清涼剤となっておりました。

ここが、単発の実写映画では決して出せない、確立されているキャラクターが存在するシリーズとしての強みだと思いますね。
カスカベ防衛隊の先祖達の、あの「お約束の描写」も、単発映画では出来よう筈もありませんでしたし。

ストーリー展開としては、シリーズ中でも一番大人を意識した内容であるのは間違いありません。
ただ、同じ大人向けの「オトナ帝国」と違う本作の魅力は、このギャグパートがシリアスを邪魔しない程度に上手くブレンドされており、子供から大人まで終始退屈せずに最後まで見せてくれる、このシナリオ構成にあると私は思っています。
{/netabare}



【オマタのオジサンを中心に、シナリオを語ります】
{netabare}
さて、本作のもう一人の主人公と呼べる存在。
それが、この『井尻 又兵衛 由俊』でしたね。
(実際、本作のプロット段階でのタイトルは、「青空侍」だったそうです。)

今回は彼を中心にして、この身分の違う悲恋の物語を振り返っていきましょう。


彼は、戦場では「鬼の井尻」の異名を持つ屈強な侍。
ですがその内は、女性には奥手で、青空を見上げることが好きな、とても優しい武士なのでした。

15歳で大人と言われるこの時代。
しかし彼はその性格のせいか、30歳にして嫁の貰い手もなく周囲からは冷やかしの種にされておりました。
(勿論、親しみを込めて。)

ですがそれは…、幼馴染であり自国の姫でもある『廉姫』への、決して打ち明けることの出来ない想いのせいでもあったのです…。


ただ、それに勘付いたしんちゃんが、ストレートにこう言います。

「身分がなかったらどーするの? 廉ちゃんに好きって言う?」

そんな発想など微塵も抱いたことがなかったのでしょうね。
この問いに赤面するしか出来ない又兵衛は、とても人間味が溢れ出ていて、この瞬間から私は彼が大好きになりました。

ここで2人は、この秘密の想いを口外しないようにと、武士の誓い「金打(きんちょう)」を立てましたね。
(+皆知ってる「男同士のお約束ポーズ」も。)
以降2人が再び刀を並べ金打することは…、もうありませんでしたが…。


この恋模様が進展を見せるのは、しんちゃん達と廉姫が夢で見た泉で、野伏(のぶせり)に襲われた時ですね。
ここで颯爽と現れた又兵衛が、

『お の゛れ らあぁぁぁっ!!!!』

と、眼光見開いて野伏をなぎ倒していったシーンは、初めて見た時は鳥肌が立ちました。
しっかり廉姫の「殺すな!」の言いつけを守る辺りも、メチャクチャ格好良かったですしね。

ここで、廉姫からその想いを暗示され身を寄せられた又兵衛ですが、それでも彼は…

「どうか…どうか…、お戯れが過ぎます!」

と、その両肩を引き離すことしか出来ませんでした。
ただ、この廉姫を引き離した時にした彼の顔には、ただの安堵感だけではない感情もきっと含まれていた気がします。
と言うか、そう思いたいですね。
想いを知るしんちゃんからは「ウソツキ」呼ばわれされちゃいましたけど。

にしても、子供達(かすかべ防衛隊の先祖達)にとっては、とても刺激の強い一幕でしたね、皆固まってましたし。
と言うか、本シリーズでこのようなガチの大人の恋模様を描いたのは、後にも先にも今現在この作品のみです。


ここから、ひろし達と再開した一行は、持ってきた「自動車」に乗って城に戻るのですが、この時後ろから馬で走る又兵衛と、自動車でドンドンと先へ進み見えなくなる「廉姫」のシーンは、2人の近い未来が暗示されているようでしたね…。
本作を初めて見る方も、ここを見てなんとなしに、この恋が成就することはないと感じたのではないでしょうか。



終盤、廉姫との縁談を断られた大名「大蔵井高虎(おおくらい たかとら)」が、それを名目に春日に攻め込んで来ます。
これは、ひろしが図書館で見た歴史書の通りの出来事でもありました。
決戦前夜、城の周囲一面に敵襲の灯り日が立ち込めるシーンは、らしくないBGMも含めて先行きの不安を煽らせる見事な演出でしたね。

野原一家は、この決戦の最中に混乱に乗じて逃げ出す算段を整えてもらうのですが、ここでもしんちゃんがこう言います。

「ねぇとーちゃん、オマタのオジサン大丈夫かな…。

 お助けしなくていいかな? ねぇとーちゃん!」


討ち死に覚悟で軍勢に飛び出し、奇襲をかける又兵衛の軍団。

「倒れた仲間は見捨てよ、たとえそれが身内であってもだ!!」

こんなことを言ってのける時代が、日本にはあったんですね…。
実際、昔から知った顔ばかりの仲間達がどれだけ倒れても…、誰も…勿論又兵衛も馬を緩めはしませんでした。
「死ぬことだけが武士の道ではない」とは言われながらも、父も兄も弟も武士として戦で命を落としている又兵衛にとって、それは一種の美徳ですらあったのかもしれませんね。

ただ、現代人の私からしてみれば…、討ち死に覚悟で自分の命を投げ出す行為は…ハッキリ言って馬鹿馬鹿しくすら感じます。
でも、きっと…大切な人を守りたい、どうか無事に生きて欲しい、という想いの表し方が、この時代ではこういうやり方でしか表現出来なかったのかもしれません。
現代と比べて実行出来る選択肢が、あまりにも少すぎるのですから。


ですがそんな中、現代人であり安全な未来に生きる…、これからも数多くの安全な選択肢がある筈の野原一家が、皆が作ってくれたせっかくの退路をも引き返し、戦場の最前線に突っ込んで来てくれたんですね。


『春日部住民野原一家、義によって助太刀いたーーす!!

 いざーーーーーーーっ!!!!』


「野原一家、ファイヤーーー!!」という皆の掛け声からも、この選択が家族の総意であったことが窺えます。
わざわざ死地へと舞い戻ることに関しては、決して褒められた選択と私は思いませんが、それを実際に一致団結して出来る家族って、一体どれだけいるのでしょうね。
やっぱり、野原一家は最高だぜ!!
ここも結局は、ひろしが歴史書で見た「野原信之助とその一族らが奮戦」の通りとなりましたね。

しかしまぁ、とても緻密な時代考証の上で成り立っていた攻防を、横から思いっきりブチ壊すこの「戦国自動車?カローラ2000」の登場。
でもここは、違和感以上に見ていてとても痛快で、作中でも一番の盛り上がりを見せるシーンだったと思いましたね。

「どけどけー! ぶつかっても保険おりねーぞー!!!」

相手からしたら意味不明でしょうが、こんな戦国時代に自動車がクラクション鳴らしながら全速力で突っ込んできたら、そりゃ敵陣も恐れ慄きますよね。


2万余りの軍勢を払い除けたこの野原一家の活躍で、又兵衛の軍団は圧倒的な兵力差をひっくり返し、御大将の陣地にまで足を運ぶことが出来ました。

しかし、ここで大将を守る、大蔵井家の馬廻衆(今回では敵軍最高峰の地位)、真柄太郎左衛門直高(まがら たろうざえもん なおたか)が、これまた又兵衛に負けじ劣らずの強者だったんですよね。
この戦い(と言うか斬り殺し合い)のBGMがまた格好良いのですが、その中身は非常に泥臭いと言うか…切磋琢磨に斬り合いぶつかり合う様は妙に生々しくて印象強かったですね。
作画も、かなり気合い入ってましたし。

死闘の途中で、野原一家が総力で大将を打ち取り、

【○野原信之助 決まり手『金的頭突き』 ●大蔵井高虎】

彼らの戦いは勝敗がつかぬまま終わりましたが、自軍の敗北を知り「これまでだ、殺れ」という太郎左衛門に対し

「やらん! あんたは惜しい!!」

と、汗をかきながら良い笑顔で言ってのける、あの又兵衛は素敵でしたね。
彼らだって、決して好きで殺し合いをしているわけじゃないんですから。

ただ、敵の大将と言えば話は別。
高虎の首を切ろうとする又兵衛の行動は、この時代において至極当然です。
でも、現代人の特に子供にとっては、それはとても受け入れ難いものでした。
その気持ちを察し、そして何より討ち取った本人の意向を尊重するカタチで、又兵衛は「髻(もとどり)」というチョンマゲの「マゲ」の部分のみを斬ることで場を終結させました。

ですがコレ…、現代人からすれば「死ななくて良かったね。」で済みますが、この髻は武士の命ともいうべきもので、見方によっては死よりも辛い屈辱を本人に与えたことになるそうで……。
作中でそのことを暗示する場面はありませんでしたが、現代人の価値観を押し付けられた高虎が、少しだけ不憫に思いました。
うぅむ…、気遣いって難しいですね…。
{/netabare}



【子供向けのルールを破った、衝撃のラストシーン】
{netabare}
さて、本作が名作というカタチで世に広く蔓延したのは、何より本作のラストシーンがとても印象深かったからでしょう。
シリーズとしても、たった一度の掟破りでしたしね…。


敵陣からの帰り道。
又兵衛の馬上に乗せられたしんちゃんは、大手柄の褒美を問われ、「おじさんの小さい刀がいい」と、以前に金打で使った小刀をねだっていました。
又兵衛が「この右手差し(めてざし)は、父上の形見なのだ」と言い困っていた時、城の最前の天守閣にまで趣き、又兵衛を待つ廉姫が見えました。

自身を見据える又兵衛を見て、廉姫が大きな安堵の息を吐いた、その瞬間……。

急に響き渡る一発の銃声……。


馬上から、ゆっくりと転げ落ちる又兵衛に、しんちゃんは被せて貰った兜を払い除け近付きました。

「撃たれたらしい…。」

虚ろな目でそう呟く又兵衛から察するに、それが致命傷であることは明らかでした。
それを悟った時、又兵衛は初めて、しんちゃんがこの時代に来た真意に気付いたのです。


「しんのすけ…お前が何故、俺の元へやってきたか今分かった…。

 俺は、お前と初めて会ったあの時、撃たれて死ぬはずだったのだ…。

 だが…お前は俺の命を救い、大切な国と人を守る働きをさせてくれた。

 お前は、その日々を俺にくれるためにやってきたのだ…。」


大切な人の死を予感し泣き出しそうになるしんちゃんに、又兵衛は先に話した右手差しを渡し、最後にこう言いました…。

「お前の言う通り…、最後にそれを使わないでよかった…。

 きっと、姫様も同じ事を……」

ここで又兵衛は、その目を見開いたまま…その焦点が空を仰ぎ…、静かに息絶えました。

こういう視聴者に大前提として子供がいる作品ですと、目を閉じて死ぬ方が絵的にも残酷性を感じず、良かったように思います。
ただ、もしここで作画班が勝手に目を閉じさせたとしたら、原監督は激高したのではないでしょうか。
そう思わせるぐらい、ことだわりを持って描かれたシーンに私は感じました。

しんちゃんは、その受け取った右手差しを大粒の涙で濡らしました。
シリーズ中、メインキャラクターが死ぬこと…、そしてしんちゃんが泣く姿をしっかりと見せたシーンは、後にも先にもこの1回きりでした……。


さて、この弾を誰が撃ったのか…、一体どこから飛んできたか…。
これは作中、最後まで明言されることはありませんでした。

ただ、又兵衛の台詞からも察せるように、しんちゃんと共に歴史を変える働きをした又兵衛が、その役目を全うし終えた為であると解釈するのが一番正しい気がします。
しんちゃんと出会った当初から、又兵衛は歴史という名の下で、絶対に逃れられない死の運命の中…生きていたというわけですね…。

作中の至るところに死を予期させる描写がある中、彼がその運命を辿ることに対しては驚きはしません。
ただ、このように歴史に殺されることになるとは…、思ってもいませんでした…。



野原一家が未来に帰る間際、野原家とを繋ぐあの泉で、しんちゃんと廉姫はこう言葉を交わしました。


「廉ちゃんはオマタのオジさんと結婚したかった?」


「うん、こんなに人を好きになることは…、もう二度と無いと思う。

 だから、私はこれから先…誰にも嫁がない。」


廉姫の想いを聞いたしんちゃんは、又兵衛の気持ちを伝えようとしましたが…、それを廉姫は止めました。
きっと彼女は初めから、又兵衛の本心も、それでも自分達の恋が一生叶わないことも、全て悟って暮らしてきたのでしょうね…。
そう思うと、彼女のこれまでの台詞や立ち振る舞いにも、全て辻褄が合います。
………余計に悲しくなりますけど。

それに、小国の姫が今後結婚しないということは、春日の将来もまた安泰とは言えない未来が待ち受けているのでしょうね。
この春日が一切、歴史の表舞台に出てこないことからも分かる通り。


又兵衛との約束を思い出し、再びあの右手差しを手に取り、金打するしんちゃん。
彼女に又兵衛の本心を打ち明けることが、もう生涯無いことを意味していましたね…。


現代に帰った野原一家と、過去に同じ場所で佇む廉姫。
空を見上げると、そこには満点の青空と、又兵衛の旗にもあった小さな雲が見えました。


『おい…、青空侍…。』


涙を流しながら、その雲を見つめこう呟く廉姫の絵で、物語は終わります。
冒頭の、又兵衛の身を案じ空を見上げていた廉姫と ここのシーンが決定的に違うのは、彼女のその大粒の涙と…寂しい笑顔でした…。
{/netabare}



【総評】

シリーズとして、そして映画単体としても、非常に見応えがあり完成度の高い作品であることは間違いありません。
勿論あくまで私個人の主観ですが、そこだけは自信を持って断言出来ます。

ただ、クレヨンしんちゃんの映画としては、異質と言わざるをえない内容なので、そういう意味ではシリーズ中の評価としては非常に難しい作品です。
実写映画にもなった通り本内容は、しんちゃんがいなくても一応は成立してしまう作品なのですから。

ですが、その実写映画が本作のように後々まで語られる作品に成り得なかった事実を踏まえても、やはり本作はしんちゃん達がいたからこそ、完成度の高い作品に成り得たと言えるでしょう。
実際、ギャグパートのクオリティも、本作は決して低いわけではありませんから。
(冒頭で、夢で見た廉姫を想いチュッチュしていた しんちゃんとひろしが、みさえによって強制キスさせられるシーンが特に好きです♪)

シリーズ初心者の方、しんちゃん映画に興味の無い大人の方に、まず是非オススメしたい作品です。
ただ、シリーズのファンとしては、本作のような方向性で全体のハードルを上げちゃわないでほしいなぁ…なんて気持ちも正直持ちました。
変に大人向けを意識しなくても、意外と大人も一緒に楽しめるのが、本シリーズ(特に初期作品)の何よりの魅力なのですから。


さて、本作を見終えたら…無性に青空が恋しくなりますね。
日が出た朝焼けの空を見上げて

「今日は晴れそうだ…。」

なんて言ってる奴がいれば、それはきっと又兵衛か私でしょう。
気軽に声をかけて下さい。

ではでは、読んでいただきありがとうございました。


次回作は、第11作「嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」です。
(うぅむ…、次回は気楽にレビュー出来そうデス♪)


◆一番好きなキャラクター◆
『井尻 又兵衛由俊』声 - 屋良有作さん


◇一番可愛いキャラクター◇
『春日 廉』声 - 小林愛さん


以下、実写化された「BALLAD 名もなき恋のうた」について。
(どーでもいい記述なので〆ます。)
{netabare}
さて本レビュー内では、実写化された「BALLAD 名もなき恋のうた」について、本作と比べると微妙のような言い回しをしましたが、あちらも戦場の描写や草薙君の又兵衛も意外にも合っていて、とても楽しめました。
映画館で見たので、余計に迫力があったのもありましたが。

中でも、「新垣結衣さん」の廉姫のクオリティは、二次元を超えたとさえ思わせる出来でしたね。

この実写に限って私は、春日が高虎に攻め落とされ慰み物となる廉姫を、上映後の夜に思いっきり想像したことを、ここで正直に告白します。

本作が好きな方は、こちらも是非一度。

よいではないか よいではないか~♪グヘヘ♡
{/netabare}

投稿 : 2024/04/27
♥ : 31

さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

笑いと涙の調和する傑作

「おマタのおじさん」に惚れました。
決して顔は良くないけれど、優しくて賢くて強くて逞しくて、
私の理想とする男性像そのものです。
それだけに、あのラストには心から泣きました。
実写映画化もされましたが、私はあれは見ていません。
配役が気に入らなかったからです。
美形の男が演じるナヨナヨした「おマタのおじさん」なんて、見たくなかったのです。
美形の男と美人の女の組み合わせでは、結局、どこにでもある有り触れた恋愛物語になるだけです。
下ネタや敵将への急所攻撃、ボディブレードなどのギャクはカットされてるだろうし、
見たいと思える要素が一つもありません。

この作品は、「クレヨンしんちゃん」でなければ、名作とはなり得なかったと思います。
クレヨンしんちゃんの感動は、他の何者にも真似できません。
真似をしようと思ってはいけないのです。

投稿 : 2024/04/27
♥ : 5

石川頼経 さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

名作は色あせない・・・・・

クレしんの普段の絵柄とは思えないほどハードなドラマ性。
衝撃の又兵衛の最後としんちゃんの誓い。
そしてひろしの名言「しんじのいない世界なんかに未練なんてあるか」と親子愛も大きなテーマになってます。

この作品の大河ドラマ顔負けの歴史考証による合戦シーンは有名です。
ありがちな槍や刀が入れ乱れての合戦シーンではなく投石合戦から始まっています。
これはいわゆる「遠戦主体説」という学説が元になってます。
日本の合戦での戦傷の原因の統計をとると
戦国前期は弓傷が、後期には鉄砲傷がかなり多かったそうで、意外にも投石の傷もかなり多かったそうで、
日本の合戦の実像は鉄砲、弓、投石による遠隔武器の撃ち合いによるものが主体で近接武器が槍や刀はむしろ副次的武器だったらしいです。
正確に言うと崩れかけた敵軍にトドメをさすために最後に近接武器が使われたようです。
ちなみに長宗我部元親の自慢話しに「わが軍は鉄砲装備率が高いので、ほとんどの敵は近づく前に崩れ去る」と言った話しが伝わってます。

投稿 : 2024/04/27
♥ : 5
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