2018年度の心理描写TVアニメ動画ランキング 2

あにこれの全ユーザーがTVアニメ動画の2018年度の心理描写成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年05月14日の時点で一番の2018年度の心理描写TVアニメ動画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

81.9 1 2018年度の心理描写アニメランキング1位
やがて君になる(TVアニメ動画)

2018年秋アニメ
★★★★☆ 3.8 (669)
2468人が棚に入れました
人に恋する気持ちがわからず悩みを抱える小糸侑は、中学卒業の時に仲の良い男子に告白された返事をできずにいた。そんな折に出会った生徒会役員の七海燈子は、誰に告白されても相手のことを好きになれないという。燈子に共感を覚えた侑は自分の悩みを打ち明けるが、逆に燈子から思わぬ言葉を告げられる──。「私、君のこと好きになりそう」

声優・キャラクター
高田憂希、寿美菜子、茅野愛衣、市川太一、野上翔、寺崎裕香、小原好美、中原麻衣、森なな子、小松未可子
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

そして、本当の自分になる

アニメーション製作:TROYCA、監督:加藤誠、
シリーズ構成、脚本:花田十輝、
キャラクターデザイン、総作画監督:合田浩章、
原作:仲谷鳰

思春期の少年少女が直面する大きなテーマ。
自分とは一体何者なのか ―――――――
そして、なりたい自分とは。

憧れの存在に一歩でも近づきたいという想いが
少年少女たちの生きる原動力となる。
「好き」が分からない小糸侑、
「好き」を歪な形で知る七海燈子。
二人の少女たちが自分探しの旅に出る物語。

OPの映像が意味深で美しい。
つながれた二人の手に落ちるピンクと青の紫陽花の花びら。
ピンクのほうは左側の手に落ちる。
青の花びらは二人の親指で挟み込む。
花に囲まれた教室で椅子に座る少女たち。
ひとりが少女に手を伸ばすが指先を掠めて消えてしまう。
プラネタリウムの機器からあふれる星の数々。
花に囲まれた廊下で少女たちが自分の顔を隠す。
最後に再び現れたふたりの少女は手をつないでいるが、
その後、棘のある蔦に絡まった仮面を付けた姿に変わる。
ふたりが消えた後にはハナミヅキとモッコウバラが残っている。

紫陽花の花言葉がひとつのキーとなる。
作中では、その答えを知ることはできないが、
視聴者は物語の展開で、意味を感じ取ることができる。
紫陽花は色によって花言葉が変化する。
青~青紫色は「冷淡、無常、高慢、嘘つき」など。
ピンク~赤紫色は「元気な女性」、白色は「寛容」。
少女たちの心を花によって表現している。

私はこれまで百合の物語を漫画でもアニメでも
ほとんど目にしてこなかったが、この作品に関しては
寿美菜子が出演していたのが視聴のきっかけだった。
2話の時点で興味を失い、録画しているだけの状況に
なってしまったが、交流のあるレビュアーさんが、
面白いと言っていたので、何となく続きを観ることにした。
そして、6話の展開で物語に完全に引き込まれ、
本当の魅力がようやく分かった。
この作品は百合の物語だけに留まらず、
普遍的なことをテーマにしているのだと。

女性作家らしい繊細なストーリー。
キャラクターの造形がしっかり作り込まれている。
主人公のふたりはもちろん、脇役の少女たちについても
その背景がきちんと考えられているのが分かる。
例えば、後半で重要な役割を果たす叶こよみが、
2話でリボンが嫌いで可愛いものは自分のカラーではないと
語るところなどは、とてもリアリティを感じさせる。
また表情や口元の動き、会話の「間」にも
こだわりが見られる。侑と生徒会副会長の佐伯沙弥香が
初めてふたりで帰るシーンのやり取りは、とても丁寧だ。
そういう部分では『リズと青い鳥』を彷彿とさせる。

印象と実際の人物像に違いがあるという話にも現実味がある。
佐伯沙弥香はフワフワした女性に見えるが、
実際は細部に目が届き、気づいていても知らないふりができる。
キャラクターたちの徹底的な作り込みは、
作品を引き立てる特徴のひとつになっている。

全体のストーリーで大きな要素を占めるのが文化祭の生徒会劇。
燈子がずっと求めてきた本当にやりたかったこと。
劇のなかで記憶喪失の少女は、一体どんな自分を選択するのか。
侑は現実の世界で、燈子に大切なものを選び取ってもらうために
虚構の物語の結末にこだわって奔走する。

{netabare}とても良い作品だったのだが、
最終回は楽しみにしていた分、完全に肩透かしを食らってしまった。
ラストで生徒会劇が行われると思っていたら、
侑と燈子の水族館デートで終わるとは全く予想していなかった。
そういう意味ではとても残念だった。 {/netabare}
また、1話や2話を観ただけでは、
燈子が侑を好きになる理由が分からず、ただの百合物語に見えてしまう。
そのため、挫折しかけたのだが、
6話を観ると、色々な謎が明らかになり、
物語の全貌を理解することができる。
沙弥香の本心、燈子の本音が明かされる
絵作りや展開には思わず息を飲んだ。
特に川べりの演出は鮮烈だった。
{netabare}「私のことを好きにならないで」というセリフは、
あまり自分のなかではなかった感情を呼び起こした。 {/netabare}

1クールという限られたなかで、しっかりと構成された物語は、
原作の良さが大きかったと想像するが、よく練られていた。
最終回が残念だったが、これも原作の問題だったのだろう。
最後を上手くまとめれば、個人的には今年の作品の
かなり上位まで来るような秀逸な出来だったと思う。
しかし、今後も続いていくのであれば、
少女たちの選択が何をもたらすのか、最後まで追ってみたい。
それにしても2018年は花田十輝に始まり、終わったという感じだった。

ちょっとした余談
{netabare}自分探しというと、私はショーン・ペンが監督をした
実話映画『イン・トゥ・ザ・ワイルド』という作品を思い出す。
裕福な家庭に生まれた青年が自分探しの旅に出かけ、
アラスカまで辿り着いて、ようやく大切なことに気づくという物語だ。
自分探しは、若者の特権でもあるのだが、
何かを掴もうと深く潜りすぎることは、悲劇を生むこともある。
この作品はどこへ向かっていくのだろうか。 {/netabare}
(2018年12月28日初投稿)

投稿 : 2024/05/11
♥ : 104
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

どうも開発された感がある

2019.01.04記


原作未読


これまで百合百合どうのこうのは未経験だったのと、花田十輝氏脚本で寿美菜子さんが先輩役をされているとの情報に誘われ視聴決定。
気づけば毎週の放送が楽しみな作品の一つとなってました。{netabare}3話でスイッチが入り、6話で沼に嵌りこんだ自分です。{/netabare}

“好き”を知らず、“好き”を知りたいと思いながらも誰にも“特別”な感情を抱けない高校一年生小糸侑。
一学年上で“特別”を求められ指向するも誰も“好き”になったことがない七海燈子。
この二人の「好き」「特別」をめぐるひとつの愛のかたちを丹念な心情描写で魅せる良作です。燈子の同級生で同じ生徒会仲間の佐伯沙弥香を含めるとトリプルヒロイン?になるかと思います。

抒情的な文学をよんでいるような作品でした。そして観てて疲れます。表情や会話の間、手足の動きにジェスチャー、光の使い方や背景、OPやED、直喩に暗喩いろいろ駆使した演出で、画面からひと時も目が離せません。
演出の一つで感心するのがサブタイトルの一枚絵カットでしょうか。毎回CM前後や大事なとこで印象的なセリフと一緒にサブタイトルが映されますが、ストーリーを追っていくと膝を打つものばかりです。
{netabare}例)6話サブタイ「言葉で閉じ込めて」
⇒橋のシーンで、侑の好きになりたいという気持ちを「好きにならないよ」という自分の言葉で蓋をする。帰り道に、侑が橙子を好きにならないように、橙子が「好きだよ。君はそのままでいて」の言葉で閉じ込める。{/netabare}

話の重ね方も惹きつけるものがありました。一つは物語が“上乗せ”されていくこと。“上書き(更新)”ではありません。
{netabare}・例えば燈子について、5話で忠犬ばりのデレ具合を見せてから6話での拒絶。5話の経緯から油断してた侑(視聴者もですね)に不意打ちを食らわせる。ただそれも3話で兆候は示されてる話であり幾重にも織り重なる構成です。{/netabare}
{netabare}・例えば沙弥香について、6話「私が無邪気に信じていると思った?」と侑にマウントを取りにきてからの7話沙弥香回でのネタ明かし。沙弥香に対して“怖さ”を感じさせて、次の回で“共感”させると揺さぶりをかけてきます。{/netabare}
そのキャラの持つ引き出しが増えていくイメージと言ったらいいでしょうか。

もう一つはむやみにイベントを作らないこと。
{netabare}・槙くんが口を割ったり二人に過度に干渉して一波乱起こすこともできたでしょうに。
・沙弥香が推薦人から漏れたことで彼女が立候補するまたは立候補言い出すなどかまってエピソードを挟むこともできたでしょうに。
・水族館デートを誰かに目撃されて一悶着とかとか、ありがちなイベントを挿入して物語の波を作ることを避けてます。{/netabare}
その分、尺を心情の極々微妙な変化や行ったり来たりの揺り戻しの描写に多くを割いてました。これで冗長さとか中弛みにならないところは素晴らしいです。

話の重ね方2点を含む演出といった技術的な特長をもって、それだけでも観る価値はありそうです。全13話は原作の4巻分に相当するとのこと。巻数だけから判断するとしてもあまり端折る必要のない話数であり、丁寧に掬いあげたんだろうことがわかります。



恋愛物語としては三人の心情を慮ると、

 『ひたすら切ない』

です。侑、燈子、沙弥香が報われることのない袋小路に迷い込んで抜け出せない。これは心が千々に乱れますよ。

{netabare}燈子が“特別”を演じる自分と弱い自分両方を肯定される「好き」があることに気づけば呪いは解けそうなのだが。{/netabare}

燈子を中心に侑と沙弥香が取り巻く構図です。自己肯定感がない燈子は二面性の人。特別であろうとする燈子を支える存在が沙弥香、素の弱い(なにもない)燈子を支える存在が侑。

●沙弥香
{netabare}燈子が誰のものにもならないことを理解してて、だからこそ「想いは叶わなくても一番近くにいられる」ことを支えにしてたのに、そんな燈子が他の誰かを特別に想い始めてることを感じる。
{netabare}お願いだからそのままの君でいて{/netabare}{/netabare}

●侑
{netabare}特別を知りたい。好きを教えてあげられるのは燈子だけなのに、その燈子は侑が好きになることを拒絶する。一方で燈子は侑に好きを全面にだしてくる。
{netabare}お願いだからそのままの君を好きになって{/netabare}{/netabare}

●燈子
{netabare}自己矛盾を抱えていることを理解しつつ、拠りどころの侑が離れていくことを極度に恐れている。{/netabare}
{netabare}いくら頑張っても他人にはなれないのに。合宿で、生徒会OBに今までの自分の理想や努力を否定されてアイデンティティが揺らぐ。
{netabare}お願いだから自分を好きになって(視聴者一同){/netabare}{/netabare}

三人とも本当の気持ちを飲み込む辛さを知っているのです。

ゆっくり時間をかけて進むラブストーリーは、その進行速度とは相反して緊張感を常に孕んでます。
演出が多岐にわたるということは考察しがいのある作品になるかと思いますので、登場人物の心情をいろいろ観察してみるとより面白くなりそうです。


なお、冒頭の百合百合どうのこうの、というのはいまだよく分かりません。女性同士の恋愛ということであればそうなんでしょう。
いたく心を動かされたので、百合適性が“開発された”のかもしれませんが、じゃあ他の!とすぐなるかでいえばそれはないです。


最後に、生徒会の濃ゆい面々の中で堂島くんの存在は貴重でした。彼がいたことでだいぶ和みます。だって、けっこうヒリヒリするやりとりの連続でしたから。



-----
2019.06.16追記
《配点を修正》


どうしても「百合」ってもったいないと思ってしまう私

投稿 : 2024/05/11
♥ : 86

えたんだーる さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

今のところとても面白いです。(顔がめっちゃ芝居する!)→第7話補完作品『やがて君になる 佐伯沙弥香について』(電撃文庫)絶賛発売中! BDにはスタッフコメンタリーも!

== [下記は第2話まで視聴時のレビュー: 以下、追記あり。] ==
現在2話目まで視聴済みです。

原作マンガはかなり有名作品だと思うのですが、未読だったのでアニメ放送開始前からとても気になっていたタイトルです。

大正時代にはやった(生まれてないから本当にはやったのかは知らん(笑))らしい「エス」(女学生同士の恋愛物)とかの継承者的な路線ですかね。40年以上前から少女漫画とかでは連綿と続く系譜の一つですよね。男性向けの深夜アニメのメインストリームからは外れた作品だと思うので爆発的には人気は出ないと思われます。

私としてはけっこう好みかも。キャラクターデザインも、わりと好きな方です。男性も出てくるのは今風なのかな?

気に入ったので推さないとと思って評価は仮に付けましたが、途中で変更すると思いますので悪しからず。
== [ここまで。] ==

2018.10.26追記:
生徒会選挙での演説前の一幕、最高でした。

後輩なのにメンタル強な侑の強キャラ感はめっちゃ好みです。侑のお姉さんもなかなか良いですね。

表情の作画、情報量が多くて凄く良いです。原作も良いのでしょうが、今のところどストライクで好みです!

2018.10.27追記:
第4話目まで視聴完了。煽りキャラの存在で話が動いてきましたね。原作未読だけど、とりあえず見つかった脚本のキャスト表が伏線だというのはわかりました。

2018.11.3追記:
第4話からの勢いで原作既刊分の単行本を全巻読破したところで、第5話を視聴終了。

原作を忠実になぞっているようで第3話の生徒会長選挙の演説が実はアニメで補足されていることがわかったりとか。実は花田先生が目立たず良い仕事をしている…?

第5話については、原作にもあるエピソードですけど怜ちゃん(侑のお姉さん)GJ(笑)!

2018.11.10追記:
第6話を視聴終了。ストーリー展開は原作にほぼ忠実ながらもオリジナルなシーンがけっこう入っていたような。

例の川での飛び石のシーンも含めて、監督・演出・脚本みんな良い仕事してますね!

2018.11.17追記:
第7話まで視聴終了。ここまでただの脇役と目されていた箱崎先生がストーリーに参加してくるエピソードが、ついにアニメでも放送でした!

なお、本エピソードで触れられた佐伯沙弥香と先輩の中学生時代のエピソード詳細を含む『やがて君になる 佐伯沙弥香について』が11/10に電撃文庫より刊行されております。

原作漫画『やがて君になる』のスピンオフ作品という触れ込みで、歪んだ女性キャラを書くことでは定評のある(?)、入間人間(いるまひとま)先生によるノベライズとなっています。

原作未読でもアニメ第7話まで観ていれば特にそれ以降のエピソードに関するネタばれ要素はありませんので、佐伯先輩に興味を持たれた方は是非お読みになることをお薦めします!

2018.12.29追記:
第13話(最終回)まで視聴終了。原作コミックス5巻の4割くらいを消費して、エピローグ的に今後の展開を期待させる映像での締めでした。(← 悪く言えば「おれたた」END(笑))

結局原作の各話サブタイトルはそのまま残されて、特に特定の回が跳ばされることなくアニメ化されるという『3月のライオン』に近い形でのアニメ化となりました。この構成で原作がまだ続いているので最終回をどうまとめるかはかなり大変だったかと思いますが、シリーズ構成・脚本の花田先生、お疲れさまでした。

そんな中、劇中劇の内容を練習という形で少し先取る形で見せて、アクロバティックに話をまとめてしまいました。このアニメの制作スタッフの恐るべき底力!

脚本だけではなく演出もハイレベルな作品でした。

2019.2.4追記:
12/21にBD 1巻、1/30に2巻が発売されました。

BDの初回特典として付くブックレットには対談形式のキャストインタビューが収録されており、他にコンテ各1話分が付きます。そして毎回特典ですがスタッフコメンタリーが付くのですが、これが1、2巻とも素晴らしいです。

1巻:
キャストインタビュー: 高田憂希・寿美菜子
キャストコメンタリー: 高田憂希・寿美菜子
スタッフコメンタリー: 加藤 誠(監督)・仲谷鳰(原作者)
コンテ: 3話

2巻:
キャストインタビュー: 寿美菜子・茅野愛衣
キャストコメンタリー: 高田憂希・寿美菜子・市川太一
スタッフコメンタリー: 加藤 誠(監督)・あおきえい(第6話コンテ)
コンテ: 6話

特に演出関連のスタッフコメンタリーが大好物な私としては、アニメ化のレベルの高さにふさわしいパッケージでBD 1巻、2巻ともに大満足。以降のBD 3巻、4巻も楽しみです!

投稿 : 2024/05/11
♥ : 82

87.3 2 2018年度の心理描写アニメランキング2位
色づく世界の明日から(TVアニメ動画)

2018年秋アニメ
★★★★☆ 3.9 (1132)
4828人が棚に入れました
物語の始まりは数⼗後の⻑崎。⽇常の中に⼩さな魔法が残るちょっと不思議な世界。主⼈公の⽉白瞳美は17歳。魔法使い⼀族の末裔。幼い頃に⾊覚を失い、感情の乏しい⼦になった。そんな瞳美の将来を憂えた⼤魔法使いの祖⺟・⽉白琥珀は魔法で瞳美を2018年へ送り出す。突然、⾒知らぬ場所に現れとまどう瞳美の視界に鮮烈な⾊彩が⾶び込んでくる…。

声優・キャラクター
石原夏織、本渡楓、千葉翔也、市ノ瀬加那、東山奈央、前田誠ニ、村瀬歩
ネタバレ

shino さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

こぼれたあの色

P.A.WORKS制作。

色彩を知覚できずモノクロの世界で生きる少女。
彼女は自分に魔法をかけた、
{netabare}わたしは幸せになってはいけないと。
17歳の未来の少女が、
時の魔法で17歳の祖母に出会う、{/netabare}
魔法が日常に存在する青春ファンタジー。

この物語には、小さな魔法があり、
心のサプリや探し物を見つけたりと、
日常にそっと寄り添う形で存在しています。
{netabare}少女はなぜ色彩を失ったのか、
少女に色をもたらした絵を描く少年との出会い。{/netabare}

夕焼け、朝露、夜空の花火と、
色彩の世界を描くだけに風景は美しい。
美しいものを美しいままに描く、
こぼれたことば、こぼれたあの色。
色の溢れる世界を取り戻す、
世界を肯定する物語になればと思います。

最終話視聴追記。
言葉より絵や色彩で魅了する作品です。
{netabare}テーマに沿って上手くまとめたのでは思う。
ただこの主題と絵の表現力があれば、
劇場版の尺で良かったのではと思ったり、
映画なら傑作に成り得たかも知れません。{/netabare}

美麗なOPが記憶に残りますね。

投稿 : 2024/05/11
♥ : 93
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3

煌めく長崎の街並みと青春の光

アニメーション製作:P.A.WORKS、監督:篠原俊哉、
シリーズ構成:柿原優子、
キャラクターデザイン・総作画監督:秋山有希

魔法使いの子孫でありながら
魔法が嫌いな月白瞳美にとって、世界はモノクロだった。
花火が行われていた夏の日、瞳美は祖母の魔法によって
60年前に飛ばされてしまう。
そこで出会った、葵唯翔の描く絵画は
瞳美が忘れていた色を取り戻させてくれるのだった。

日本のなかで最も好きな都市のひとつが長崎だ。
坂があり港があり、洋風の建物が点在する。
街には路面電車が走り、
日本中から使用されなくなった車体が集められて
再利用されている。
街並みは和風と洋風が融合し、とてもバランスが良い。
街は栄えていて、飲み屋街の思案橋には、
さまざまな種類の美味しい店が軒を連ねている。

個人的には仕事で何度も訪れた懐かしさがあり、
それがP.A.WORKSの美しい絵で堪能できることから、
1話目からとても楽しみにしていた作品だった。
序盤は予想に違わない出来で1話目の作りは、
ほぼ完璧ではないかと感じた。

そんな形で視聴を開始した作品だったが、
中盤くらいから違和感が頭を掠めるようになる。
話がどういう方向を目指しているのか見えてこない。
もちろん、瞳美が自分の抱えている問題を解決させ、
色を取り戻すことが最終的な目的なわけだが、
一向に話が進んでいる感じがしない。

原因のひとつは、世界の色を取り戻すことが
瞳美だけでなく、唯翔にも必要だったことだと思う。
主役のふたりが同じ悩みを抱え、しかも自分から動かないため
話が進んでいかない。ドラマチックな展開にならない。
だから、クライマックスでお互いが心を通わせるシーンでも
全く盛り上がらず、唐突な感じがしてしまう。
これが小説だったら、まだやり方もあったのだろうが、
アニメでふたりとも消極的な性格で、
同じ問題を抱えているため、展開を難しくしている。

その影響から物語が動かず、どこに向かっているのか
分からないように感じてしまう。
瞳美に積極性がないので、母との関係性についてなのか、
自分の時代に戻ることなのか、色を取り戻したいのか、
恋人を作りたいのか、友達を作りたいのか、
魔法への意欲を持ちたいのか、ほとんど見えてこない。

これは私の好みの問題でもあるのだが、
登場人物の想いをしっかり伝えて欲しいと思う。
この作品の場合、瞳美と唯翔が大切なものを
取り戻すことが大きなテーマになっているのに、
彼らの切迫感や渇きの心情がほとんど伝わってこない。
伝わってくるのは、諦めと苛立ちだけなのだ。
原因は、彼らの望んだ幸せな世界が
物語として、映像として表現されていないからだろう。
{netabare} 例えば、瞳美なら母の、唯翔なら祖父のイメージが
少しでも表現されたなら違ってきたのだろうが、 {/netabare}
終始ぼんやりしたお話になってしまっているように感じてしまう。

若者の閉塞感を表現したという点では、
リアルと言えるのかもしれない。
思春期の若者の心情を描いているのは、
分からないでもないのだが、イメージばかりを先行させすぎて、
物語に活かされていない。

それと、絵が美しいのは素晴らしいのだが、
あまりにも綺麗過ぎて、キャラクターの造形の粗が
逆に目立ってしまうのもマイナスポイントになってしまっている。
唯翔と千草のキャラデザが似すぎているのも良くなかった。
何となく観ていると、どちらか分からないことがあった。

目指したのはハインラインの『夏への扉』や
スピルバーグ監督の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』だろうが、
中盤があまりにも退屈すぎる。
このテーマで物語を作るのなら、安易に魔法などというものを
持ち出さないで、正面から取り組んだほうが個人的には好感を持てた。

難点ばかりを挙げてきたが、唯翔の描く絵画の世界や
そこから浮かぶイメージは挑戦的な作風だったと思う。
OPの美しさ、タイトル書体の選別、長崎の街並みなど、
美術面にこだわり抜いているのが感じられる。
描かれている世界は、とても鮮やかだった。
記憶に残る作品だったと思う。
(2019年2月3日初投稿)

投稿 : 2024/05/11
♥ : 92
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

全13話+“60年”の時の重みに思いを馳せてみる

2019.01.02記


P.A.WORKSによるオリジナルアニメ


前評判の良さとキービジュアル。数年前旅行で訪れたお気に入りの街“長崎”が舞台とあって、スルーする理由が見当たりません。
“眼鏡橋”“グラバー園”観光スポットもそうですが、地味に“石橋”行の路面電車や“思案橋”の信号機なんかも懐かしいですね。また行きたいです。
そして1話EDクレジットに島本須美さんの文字が! 断念する理由も無くなりました。


最初から最後までただひたすら美しい作品でした。作画や音楽だけではなくストーリーもです。棘の無いやや起伏に乏しい物語は物足りなさという弱みと裏返しでしたね。

見える風景がモノクロになり、自分の殻に閉じこもっている月白瞳美が主人公。「高校時代のあたしに会って・・・」と説明もそこそこに祖母である月白琥珀の時間魔法で60年前の過去へと飛ばされた後、高校生の琥珀とその友人たちと交流を重ねていくお話になります。
魔法/魔法使いが社会に受け入れられているのはファンタジーで、その魔法も私たちが想像するような仰々しいものではなく、“頭がすっきりする”“そこにない風景が見える”“ちょっと物体が動く”といったもの。祖母琥珀が使った時間魔法は上位魔法で習得難度が高いという設定はあるものの、普段使いの魔法は他愛のない、琥珀に言わせれば、

“日常を彩るサプリみたいなもの”

であり、魔法が全面にでてくるかというのとはちょっと違い、綴られた物語は高校生の青春です。
・なぜ祖母の琥珀(77歳)は孫の瞳美(17歳)を過去に送ったのか?
・なぜ瞳美は色を失ってしまったのか?
謎というほどではないかもしれませんが、{netabare}『瞳美が色を取り戻していく物語』{/netabare}作品のテーマとなります。


繰り返しになりますが、ただひたすら美しいです。

OP「17才」ED「未明の君と薄明の魔法」、2018年秋クールの中でも群を抜いてました。OPED両方とも一話たりとも飛ばさなかった唯一の作品です。
{netabare}最終話で「17才」イントロ流れた瞬間、歌詞の「虹がかかるよ」が頭に浮かび涙腺が・・・ 二番も良い歌詞です。{/netabare}
{netabare}モノクロから始まり、街灯のオレンジ色から街の夜景へと繋がるED画も神秘的でやなぎなぎの曲調もしっくりきます。{/netabare}

高品質な作画も最後まで安定してました。夕暮れ、夜景、太陽の照り返し、光の滲み具合。色使い・彩度の加減は下手な劇場版より綺麗かもしれません。モノクロと豊かな色彩の対比が物語の柱でもあるため、気合が入ってました。
{netabare}序盤第2話:夕暮れ時の校舎の風景作画は引き込まれました。岩崎良美「青春(タッチED)」がよく似合います。※年寄りは付いてきてね。{/netabare}
それと舞台が長崎ということで背景作画のハードル上がってたんじゃないかしら?
少しばかりの平地を除いて丘・山そして海。小高いところに建造物が立っている坂が多い街。風景絵が田舎なら青空+雲、都会なら定規でひけるビル群とかで済みそうなところが、そうはいきません。特に夜景は、空の黒と山間の黒そして海の黒とに区別つけた上で、適度に生活の灯りを散らさなければなりません。路地は曲がりくねった石畳ですし、作画班はほんとにお疲れ様でした。


肝心の物語は薄めです。キャラも心情描写をしっかり見せるわけでなく物足りなさを感じるほど。どちらかというと心象風景を見せる感じ。いかんせんヒロインの瞳美がわかりづらいし反感買いそうなキャラ。作画だけの作品なのね…残念、、、途中までの印象です。
風向きが少し変わったのが{netabare}11話と{/netabare}終盤で、最終13話の出来が良かったので少し考えをあらためました。
{netabare}この物語は、途中経過や最終話の締め方も含めて、いろいろ余計なものを付け加えると野暮になってた気がします。むしろあの程度と抑えめで良かった。{/netabare}


■最終話を観終わって ※以下ネタバレタグは視聴済みの方向け
良く出来た最終回です。そこに至るまでの過程に起伏があればさらに良しとしたことでしょう。ただしちょっと待ってください。これって完走後に、

{netabare}『瞳美が2078年に戻ってからの魔法写真美術部員の60年を想像して補完する』楽しみが残されてますよね。{/netabare}

全13話で完結というより描かれてない空白部分がむしろ重要で、そこの受け取り方で評価が別れるんだろうと思います。

{netabare}60年後、瞳美と魔法写真美術部員との再会がなかったことが空白部分を考えるきっかけでした。物語の舞台が2018年。自分に置き換えても2078年には生きていないでしょうから余計にそう思わせるのかもしれません。
瞳美が去った後、琥珀は、唯翔は、あさぎは、胡桃は、将は、千草はどんな人生を送ったのでしょう?瞳美がやってきたことでどんな変化を彼らにもたらしたのでしょう?

●琥珀:魔法の能力に目覚めた幼少期から「私は魔法でみんなを幸せにしたい」が信条だったのに、一番近しい人たちを救えなかったことは身を引き裂かれる思いだったことは想像に難くありません。娘の失踪と孫が色を失った理由はそれぞれその時に知ったのではないでしょうか?10話で瞳美は唯翔にだけ事情を話してますが、あの唯翔が琥珀に話すとはどうしても思えないのです。
瞳美が帰る時に自分の時間魔法の未熟さを実感して、以降腕を磨こうと研鑽を重ねただろうし、そのために最適な伴侶を選びました。瞳美がいなくなった後になぜ未来の自分が瞳美を遣わしたのかを考え続けた人生なはずです。
孫が帰還し一緒に母を探すと言ってもらえてどれほど嬉しかったことでしょうか。
「幸せになっていいんだよね?」孫から言われた時に70年越しの琥珀の思いが報われた気がしました。

※12話での瞳美「あれ?おじいちゃん?」の控えめリアクションが微笑ましい。
※年齢って英語でLEVELと表記するかは知らんが、「あんたはまだまだよ」的なエールは三つ子の魂百までの茶目っ気を感じる。すなわち“LEVEL17 vs LEVEL77”

●唯翔:瞳美は唯翔から、唯翔は瞳美から大事なものを受け取りました。彼が愛する女性に対してできること。“色を失った理由を直接聞いた(10話)”“魔法の中で幼少期の瞳美に会った(10話)”“幼少期一冊だけ色が見えてた絵本があったと直接聞いた(8話)”
「あの時俺が小さな瞳美に伝えたかったこと 自分を閉じ込めてほしくなかった 諦めないでほしかった」
必ず瞳美に届けたかった執念の絵本だったはずです。唯翔なら爺さんになって再開し思い出話に花を咲かせる気などさらさらなかったでしょう。進路も絵の道には進んだでしょうが、職業替えしたかもしれないし、結婚したかもしれないですが些細なことだと思います。
心を閉ざした“小さな瞳美”に伝えたかったことを伝える役目を果たした時に彼がどんな表情をしてたのかを想像するととても切ないものがあります。

※墓参は瞳美一人でした。琥珀が気を利かせたのだと思います。もしもお世話になった曾祖母ら月白家の墓なら琥珀は一緒に行ったでしょう。

●あさぎ-将くん:占い外れたみたいでなによりです。 “うさぎさんは犬さんのとなりに立って海のにおいをかいでます”

●胡桃-千草:不明。だけどお似合いでした。{/netabare}


{netabare}色を取り戻した瞳美はどんな人生を送るのでしょう?
最終話EDで、同級生二人に自ら声をかけ、その一歩を踏み出した瞳美。この二人、髪の色とかリアクションからしてどこかしらあさぎと胡桃らしき面影がありましたね。きっと孫娘なんでしょう。
彼女らは第1話で、浴衣姿で瞳美に声をかけてた二人でもあります。両シーンとも彼女らは瞳美に親しげです。受け取る瞳美側の心の持ちようが第一話と最終話では違うという対比にもなってます。{/netabare}


{netabare}“葵”“琥珀”“山吹”“あさぎ”“胡桃”“千草”、全て色を表す言葉。六色がもたらすものは、これまで“誰にも愛されてないと感じた夜”を幾重にも重ねてきた少女の心を溶かしました。物語としてはこれで万事めでたしめでたしです。
さらに、瞳美が色を取り戻す前の彼らと過ごした半年の時間でさえ、月“白”と合わせて七色の虹は架かっていたのです。この七人にとっての色褪せることのない大切な時間でした。唯翔が絵本を通して瞳美に残したかった想い。未来でも笑ってられますように、と。{/netabare}

やはり、美しい物語でした。
空白の60年間に想いを馳せると時の重みに切なさや愛おしさを感じる良作です。


しかしよくよく考えると、夏休みの最終日に宿題をあわてて片付けたと言えなくもない。



-----
2019.06.13追記
《配点を修正》


未来のお話って別世界の話として見る向きがあったのですが、本作は現在との繋がりを強く意識させるものでした。2078年には自分は退場しているはずでしょうが、孫かひ孫あたりの世代に自分の想いは伝わっていて、って素敵だと思ったわけです。

加点しときます。

投稿 : 2024/05/11
♥ : 91
ページの先頭へ