火星で未来なアニメ映画ランキング 2

あにこれの全ユーザーがアニメ映画の火星で未来な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年06月03日の時点で一番の火星で未来なアニメ映画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

73.5 1 火星で未来なアニメランキング1位
機動戦艦ナデシコ The prince of darkness(アニメ映画)

1998年8月8日
★★★★☆ 3.9 (435)
2161人が棚に入れました
先の戦争終結より3年が経った西暦2201年。地球と木星間に和平(休戦条約)が結ばれ、人類は再び一つになろうとしていた。そんな中、ボソンジャンプを新たな交通手段として使用する計画「ヒサゴプラン」のコロニーが次々と襲撃される事件が発生する。連合宇宙軍ナデシコB艦長ホシノ・ルリ少佐は、事件調査のためターミナルコロニー「アマテラス」へ向かうが……。

声優・キャラクター
南央美、うえだゆうじ、桑島法子、日髙のり子、三木眞一郎、伊藤健太郎、高野直子、岡本麻弥、飛田展男、小杉十郎太、小野健一、横山智佐、菊池志穂、長沢美樹、置鮎龍太郎、松井菜桜子、大谷育江、一城みゆ希、山寺宏一、仲間由紀恵

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8

テレビ放送編から5年…状況は大きく変化していました

この作品はTVアニメ版の続編に位置する作品です。物語の内容に繋がりがあるので、TVアニメ編を未視聴の方はそちらからの視聴をお勧めします。

火星での壮絶なラストから5年…物語は突飛なところから始まります。
ミスマル・ユリカの父が墓前の前でお墓に向かって話しかけているのですが、その相手が何とTVアニメ版の主人公とメインヒロインだったアキトとユリカなんです。

メインキャストを序盤でバッサリって…頭の中は?マークでいっぱいになりました。
「どんな展開になっていくんだろう…」
と思っていた矢先にナデシコが登場するのですが…艦長はなんと電脳美少女のホシノ・ルリだったんです。

ルリちゃんは16歳になっていました。
世間では「史上最年少の天才美少女艦長」と呼ばれており、大人から子供までもが知っている人気ぶりなんだとか…
そしてこの劇場版は彼女を中心に物語が動いていく事となります。

TVアニメ版のナデシコの乗組員は個性派揃いでしたが、憎めない人たちばかりでした。
劇場版で見たかったのはみんなの勇姿…けれども蓋を開けてみると当時の面影は僅かにしか残っておらず、みんな地球でバラバラになってしまっていたんです。

「ナデシコに乗り込む」という事は、危険に向かって自ら進んで行く事…
だから地球上で危険と隣り合わせではない普通の生活を臨んでも構わない訳ですし、自分がその立場なら間違いなく安全を取ると思います。

でも、全員が安全を選択したかというと必ずしもそうではありません。
ナデシコの新艦長であるルリちゃんが良い例です。
彼女はナデシコを自分の居場所とし、メインコンピューターである「オモイカネ」との繋がりをとても大切にしていました。
それにオモイカネも相変わらず茶目っ気タップリで応えています。

変わる事は決して悪い事ではありません。けれど、変わらない事を選択する勇気も大切だと思います。
彼女が変わらずナデシコに自分の身を置いているのは、この場所を守りたかったから…
アキトがいて…ユリカ艦長とみんなと過ごした大切な場所だから…
自分を変えてくれた場所だから…

改めて考えてみると、ナデシコに乗り続ける理由ってたくさんあるように思います。
自分の意思でそれを忠実に実行しているルリちゃんを見ていると本当に彼女は変わったんだなぁ…と思いました。

一方、物語の方は謎のコードネーム「OTIKA」がコンピューター上に表示されてから予想外の方向に転がり始めます。
ここで感じるのは5年の歳月がもたらした傷の深さ…だったと思います。

絶対変わりたくなかった…だけど変えられて…もう戻れなくなった…
時間の使い方は自分で決める…そんな当たり前の事すらできなくなった…
途切れない思いと行き場を失った思いが交錯する…答えなんて出せないくせに…

そしてルリちゃんは呼びかけます…
旧ナデシコ乗組員はその呼びかけにどう応えるのか…気になる方は本編でご確認下さい。

約80分の作品でした。ラストも綺麗な纏まっていたと思いますが、個人的にはそこまで綺麗に纏めなくても…と思ったのも事実です。
でもルリルリの衝撃発言や続編を示唆する伏線がたくさん残されています。
絶対続編を期待させる展開なのに…
大人の複雑な事情が色々あるようですが、続編が決まったらファンが大喜びする事間違いなしの作品だと思いました。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 18

nyaro さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

ホシノルリが美しい。ブラックサレナがカッコイイ。

 バブルが崩壊しているのにノリだけは引き摺って、真面目が間抜けと同義になったころの作品。アニメの演出も悪ふざけ的でそういった時代性が色濃くでています。
 ただ、初めは悪ノリが鼻につきますが、ワンカットワンカットがえっというくらい尻切れトンボで作られており、戦闘シーン、ナデシコ艦橋、SF的な設定などの確かさと相まってこのノリというかテンポが心地よくなって行きます。すぐに映画世界に引き込まれてゆきます。もちろんこのノリは昔のナデシコの続きである証でもあります。

 その後、地上での墓参りのシーンなどに象徴されますが、そういった悪乗りは抑えられて、物語のダークな部分を際立たせています。

 で、中盤の終わりの墓場のシーン。非常に印象に残っております。青空の下の喪服姿のルリルリの美しさはもちろんですが、レシピを渡すシーン。彼には未来の無いことをアキトはルリに宣言します。明示されませんがレシピが彼の人生の象徴なのでしょう。たとえユリカが救われても2人には将来が無いような予感がしました。ここが本作の一つのクライマックスな気がします。
 アキトとホシノルリの強い絆が伝わって来て、美しいながら悲しいシーンでした。

 このシーンを見て思い出すのが、ホシノルリもまた遺伝子操作された人間だということです。こういう非人間的な暗さを相対化するためにも、悪ノリが必要だったのでしょう。TVシリーズもノリの部分が強調されて明るいストーリーに見えますが、実はすごく暗い設定が根底にあるので、そこを強調したのだと思います。

 で、本作はボソンジャンプの支配権をめぐっての争いと陰謀がストーリーの幹になっていますし、それこそがアキトとユリカの悲劇的な状況の元凶ですが、これ自体はストーリーの本筋ではありません。
 やはりナデシコという戦艦に乗り込んだ人間たちが勝手な事をやっているように見えて一致団結して敵を倒すということ、何よりボソンジャンパーとしてのアキトの悲惨な現状と未来をちゃんと説明して結末を迎えるのが、この映画のメインストーリーだと思います。

 TVシリーズの続編として、ナデシコの世界を終わらせるストーリーは暗く悲しいストーリーですが、いい話だったと思います。2期の企画が駄目になった話をよく聞きますが、この映画の出来からいってこれでも良かったのかなという気がします。

 結論を言えば面白いと言うよりは非常に「いい映画」でした。時代性はありますがそれが素晴らしくて味わいたくなります。アニメの出来は最高水準でした。

 それにしても、ホシノルリは美しかったです。デザインもさることながら、演出や画が良くできていました。ナデシコ艦橋でほぼ立ったような姿勢で、指揮を執る姿はゾクゾクしました。
 あとはブラックサレナですね。音楽の良さと合わさって、鳥肌が立つくらいカッコ良かったです。
 ホシノルリとブラックサレナは出色の出来なので、これだけでもこの映画を見る価値がありました。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 2

lostmemory さんの感想・評価

★★★★★ 4.8

あまりにも衝撃的だった劇場版

当時リアルタイムで見に行ったけど
これほど出だしで衝撃を受ける劇場版も
まあそうないよなあという感じ
ネタバレは防ぐけど、ちょっとだけ。
普通アニメで主人公務めたキャラはそのまま
劇場版でも主人公なのが当たり前だが
主人公が交代した時点で驚きに値する

なおアニメの方を見てないと分からない
ところだらけなのでアニメの方は先に
必ず見ておこう。

作画は今見てもかなり高いレベルで良い
ちゃんと色々設定を練り込んで作ってある
のが良い。あと音楽。個人的に最高だった

ロボットアニメではあるけど主役はタイトル
通り戦艦。こういのって宇宙戦艦ヤマト以来
な気がする。それはともかく戦艦も一応活躍
するけど、それ以上に多くのキャラクターの
群像劇がこの作品の最大の魅力。パトレイバー
とか思い出す。ロボットや戦艦はあくまで
引き立て役というか。個人的にロボットアニメ
の理想がソレなんだよねえ

多少脱線したがアニメを見て気に入ったら
こっちも見ておいて損は無い。凄くショック受ける
人もいるかもしれないが、個人的にはここまで
挑戦した意欲的な劇場版アニメはそう無いので
高く評価したい。よくあるアニメで人気でたから
勢いで劇場版も作りました!みたいな軽いノリの
作品ではないので。むしろ重すぎる


※追記※
この作品の終わりに納得出来ない人は、ちょっともう
手に入りにくいですがキャラデザと作画監督努めた
後藤圭二氏の画集でルリがドレス着ているのが表紙の
やつを買ってください。これの巻末に後藤圭二氏自ら
描き下ろしの後日談の漫画があります。これが凄く
良い内容で、何故これを映像化しなかったんだ!と
言いたくなるくらい綺麗な終わり方してます。
本作ではメインヒロインから交代したユリカがしっかり
メインヒロインに戻ってるのが素晴らしい。
ただ画集自体はナデシコは半分くらいなのでそこは注意。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 2

74.2 2 火星で未来なアニメランキング2位
ARIA The AVVENIRE[アリアジアッベニーレ](アニメ映画)

2015年9月26日
★★★★★ 4.3 (265)
1680人が棚に入れました
capitolo1 その 逢いたかったあなたに・・・先輩の灯里に同乗してもらい、今日もゴンドラの練習に励むアイ。そのさなか、灯里は運河を行き交うゴンドラの中に藍華とアリスの姿を見つけます。プリマ・ウンディーネになってからというもの、忙しくてなかなか会うことができないでいた3人。ほんの短い時間とはいえそれが叶った“みらくる"に、灯里は過去のある出来事を思い出し、アイに語り始めます。capitolo2 その 暖かなさよならは・・・ある日のこと、アイは興奮気味に灯里に話し始めました。練習中にとっても“みらくる“な体験をしたというのです。見慣れぬ路地の奥で目撃したケット・シーの影…そして、ゴンドラを降りてその影を追った先で出会ったのは、姫屋支店とオレンジぷらねっとで修業中の二人のシングル・ウンディーネだったのでした。capitolo3 その 遙かなる未来へ・・・今、再びの未来をご一緒しましょう。

声優・キャラクター
葉月絵理乃、斎藤千和、広橋涼、大原さやか、西村ちなみ、皆川純子、水橋かおり、川上とも子
ネタバレ

猿の尻尾 さんの感想・評価

★★★★★ 5.0

心の中で輝きを放ち続ける宝箱

 原作者である天野こずえ先生により執筆されたAQUAという漫画は日常に散らばっていて普段は気が付かないたくさんの『素敵』に形を与えてくれた作品です。
 いろいろあり掲載誌が変わりタイトルもARIAとなりましたがその後も変わらず様々な『素敵』を届けてくれました。

 そして2005年にサトジュンこと佐藤順一監督によりアニメ化されていき計3度のTVアニメ化と1度のOVA化がされていきました。
 そしてそして、最終シリーズとなる第3期の放送が2008年ですから約7年の歳月を経て、今作ARIA The AVVENIREが発表されました。

{netabare} これ以上ない程綺麗に、完全無欠にしっかりと物語としての着地を決めた作品なので、最初新作の発表を見た時はどう作るのか、あの先を描くのは野暮なのではないのか、という不安とまた彼女達の日々をこの目で見れるなんて、という嬉しさが心の中で同居しどういう反応をすればいいのか正直分かりませんでした。

 ですが続報がだんだんと明かされていき、サトジュンを初めとするキャストスタッフのメッセージやPVを観ていくうちに不安だったものが徐々に徐々にいなくなり、逆に期待や嬉しさがどんどんどんどん膨れ上がり、ああきっと大丈夫なんだ。という安心感が私の心を満たしました。

 それは制作陣のインタビューやメッセージがARIAへの『想い』で満ちていてキャストもスタッフもみんな本当にARIAを好きでいてくれてたんだと思えたことだったり、PVから感じた安心感がTVシリーズと何も変わらずそのまんまだったりしたからなんです。

 実際、ARIA The AVVENIREは本当に本当に素晴らしいアニメでした。
 思い出として心の中にいてくれて、現実に挫けそうになる度に支えてくれていた作品がまたこうして私の胸に光を、そして力を与えてくれている、その事実だけで涙が溢れてしまうくらいでした。
 私にとって一生の宝物です。
 心の底から出会えて良かったと思える作品。それが私にとってのARIAなのです。

 では、前置きはお仕舞いにしまして感想にうつります。
 ……すみません本当はもっともっと言いたいことたくさんあるのですがここあにこれですしそろそろ自重いたします。
 こうなってしまうから公開初日に観た癖してレビュー投稿が今になってしまったのです。
 ふっきれてネタバレタグで隠せばいいか、なんて思って結局長々書いてしまっておりますが(笑)。
 もし感想でもなんでもないブログでやっとけ的な駄文を読んでくださった方がいるならありがとう。一緒にARIA観よう!語ろう!と言っておきます。
 いや、本当にありがとう&ごめんなさい。{/netabare}

 さて今作は原作の未アニメ化エピソード2つと、天野先生書下ろしによる原案漫画を元にした完全新作1つの計3本のエピソードで編成されています。
 前者2本はプリマとなり後輩を持った灯里の回想として描かれていますから割と新作感ありありです。
 オレンジプラネットや姫屋にも新しい後輩が出来ていて、藍華アリスそれぞれにもやっぱり新後輩ちゃんが出来ています。
 もちろんデザインは天野先生書き下ろし。
 喋り始めて3分でARIAの世界にすんなり馴染んでいくので新キャラ感が薄いです。
 新キャラの筈なのにずっといたような感覚にさせられたのには素直に驚きですしすこぶる嬉しいですね。

 まず最初のお話はアリシアさんの裏誕生日のお話です。
 アクア(火星)は公転周期がマンホーム(地球)のほぼ倍なので1年が24ヶ月あります。
 その為誕生日の12ヵ月後の同じ日を裏誕生日として祝う習慣があるそうで。
 そんなアリシアさんの裏誕生日に晃さんがやってきて……。
 というようなお話です。

 シングルからプリマになり毎日が忙しくなっていくことでだんだんと3人で逢えることが貴重になっていくからと寂しそうな表情を浮かべる晃さんとそんな先輩の為に頑張った灯里のもとにARIAらしい素敵な奇跡が舞い降りてくる。
 可愛い晃さんやかっこいい晃さんがたくさん見れるエピソードですから晃ファンは必見です。
 NATURALのバーベキュー回、同じくNATURALの愚痴回、ORIGINATIONの通り名回に並ぶマイベスト晃さんが見れる話なのでアニメ化されたことは個人的に超嬉しいです。

 大切な人に当たり前に逢えるということの素敵さ、それがどれ程ミラクルなのかということに気づかされるお話でした。

 そして次のお話はケット・シーとお別れをするお話です。
 アクアに来てから様々な不思議に巻き込まれ、時には助けて貰ったり、時には一緒にお祭りを楽しんだり、時には銀河鉄道に招待されたりと、アクアの心なのかもしれないケット・シーに触れていられた灯里。

最近逢えないんだと打ち明けた灯里に対し、大人になっていくんだからそろそろケット・シーとお別れをしなくちゃいけないんじゃない、と藍華は言います。

 灯里は、それならせめて最後にもう1度だけ逢ってちゃんとお別れを言いたいと思い……。
 てな感じのお話です。

 今回から新キャラちゃん達が喋り始めます。
 ケット・シーっぽい影を追いかけたら友達が出来たよ!これってミラクル!(超要約)という話をアイちゃんから聞いた灯里が最後の出会いを思い出すといった構成で、その友達というのが藍華の後輩であるあずさとアリスの後輩であるアーニャなんです。

 なのでアイちゃんあずさアーニャという新後輩トリオの掛け合いがあるんですけども、びっくりするくらいARIAなんですよ。
 本当に新キャラか?と思ってしまうくらい馴染んでいて、ああこの3人が紡ぐARIAも観てみたいなと思ってしまいました。
 多分私だけじゃなくて見た人全員思ったんじゃないでしょうか(笑)。

 もう逢えないのは寂しいけどあなたを忘れなければずっとここ(心)で一緒ですね。
 と灯里ちゃんはケット・シーに微笑むのですが、これ、私達ファンのARIAに対する想いとシンクロしている気がしませんか。
 原作で馬鹿みたいに泣いちゃったセリフでして今作なんか更にシンクロ度が増していたもんですから劇場でボロボロ泣いてしまいました。

 灯里に相応しい相手はやっぱりケット・シーだと思いますねぇ。いいかあかつきんお前じゃねぇからな!


 出会いってのは別れの始まりですからどうしてもお別れのときは来るものですが、そんな寂しさを和らげてくれるようなお話でした。


そしてそして最後は天野先生がORIGINATIONの最終話、アリシアさんの引退式の様子を見てアリシアさん目線で1つ書いてみたいと思い、書いて満足して閉まったまま忘れていたプロットがあったというなんじゃそりゃな事実から生まれた完全新作エピソードです。

 因みにそのプロットをきちんと漫画にしたものがAQUARIAというタイトルで劇場パンフレットに掲載されているのですが、とにかくアリシアさんが美しい。
 そして天野先生らしい素敵なセリフがたくさんで、泣かずに読むのは無理です。

 今話はその漫画をもとにガッツリ肉付けをして、奇跡のような完成度のお話になっています。
 なかなか集まれない先輩達の為に新後輩トリオがあることを利用してみーんな集めて食事会を開きます。
 そんな奇跡を噛み締めながら楽しむ一同に更に素敵な奇跡が訪れるのですがこれは観てのお楽しみですね。

 ゴンドラ協会でアリシアは何に尽力しているのかが語られたり、グランマの名言が1つも2つも増えたりします。
 叶わなかった願いの種は、胸の中に潜んで希望の光を放ち続ける。
 実は1人だけオペラ歌手としてのお仕事で来れなかったアテナさん。その寂しさに対し、グランマがそう言います。
 そうしてわくわくしていられるんだと、それもまた得がたいことだと、言うんです。

 そしてもう叶わないと思っていたことも姿や形を変えて顔を出すこともあるのだと彼女は言うんです。
 ハっとさせられるような言葉ですよね。

 願いが叶う。もちろんそれは素敵なことだしかげがえのない感情を与えてくれます。
 でもたとえ叶わなかったとしても、その願いは種として心の中に植えられ、いつかまた叶う時を夢見てずっと輝いてくれている。
 そして当初思い描いた形じゃなくても、ひょっこりと花を咲かせてくれることだってある。それだって何にも負けないくらい素敵なことですよね。

 ARIAは、考え方を変えるだけで世界は素敵に満ちているんだよ、見方を変えれば景色はいつだって輝いているんだよ、と何度も教えてくれましたが、ここでもまた気づかされてしまいました。

 流石は名言製造機グランマ。全ての人類のグランドマザーといってしまっていいと個人的には思っています。


 そして忘れてはいけない言葉があります。
 どうしても想いを綴りたいセリフがあるんです。
 食事回の最中、日ごろの疲れからかアリシアはうつらうつらとしてしまい、昔のことを夢に見るんです。
 それは弟子をとると決めたきっかけでもあり、灯里とアリシアの出会いのきっかけから始まり、そしてある決断するまでの夢。
 灯里との生活があまりにも心地よいからと、決断を先延ばしにしていたアリシアがふと灯里に聞きます。

 夜光鈴とのお別れは寂しくなかったのかと。

 それに対しケロっと「寂しかったですよ」と灯里は答えるのですがその後にこんなことを言うんです。
 
「お別れは何時だって淋しいです。でも、それはたぶんいいことなんですよ、アリシアさん。
 淋しければ淋しいほど、悲しければ悲しいほど、それは大好きな存在ができた証なんです。
 だから、この切ない想いもまた幸せモノの証なんですよ」

 これはもうまさにARIAが好きな人全員にシンクロする強烈な一撃でした。

 どんなに好きでも、どんなに大切でも、必ずくるのがお別れで、こんなに寂しい想いをするのなら知らないほうが良かったと思うことって人生の中で多かれ少なかれあると思うんです。
 私自身何度もありましたし、正直に言えばARIAに対してもORIGINATIONを観終わった直後や、原作最終話を読み終えた直後に、ほんの一瞬ではありますが、そう思ってしまったことがあります。

 作品じゃなくても好きな人だったり、ペットだったり、お別れのたびに辛くて辛くて仕方が無い経験をしていました。

 でもその寂しさが、その辛さが、その苦しさが、大好きなモノがいた証だと、幸せモノの証だと言うんです。
 この言葉を聴いた瞬間、本当にその通りだなと思うと同時に体中の水分が全て涙に変わりました。

 …………完全新作が製作されるということは、灯里ちゃん達の未来が見れるということは、また別れの辛さを乗り越えないといけないんだ。
 なんて、実は新作発表を見た瞬間思いました。
 そしてそんなことを劇場のイスに座り、放映が開始して、この言葉が流れる直前まで思っていました。

 私が夢のような時間が終わった後、胸を張って心地よく、すがすがしく家路につけたのは全てこの言葉のおかげです。

 これから生きていく中できっと何度も私を支えてくれる言葉になるだろうと思います。
 
 本当に本当に素晴らしい奇跡のような映画でした。
 そもそもBD-BOX3つにそれぞれ特典として新作映像をつけようという企画から、劇場で3つつなげて放映しようとなったのが今作なので、そこからもう奇跡だよなと思います。

 本当に素晴らしいのでARIA好きなんだけど観にいけなかったし、BOXも手がでないと言う人もせめてORIGINATIONのBOXだけでも手にとって欲しいです。
 どうまかり間違っても損はしません。絶対にです。

 なんかレビューというよりブログの感想みたいになってしまいましたがそこはどうかご容赦ください。
短くまとめろと言われても無理です。これでも何回もバックスペース押しまくってますし、書き始めてから何か知りませんが2時間半たってしまいました。

 それくらい本気で、ここ「あにこれ」で私の想いを書きたかったのです。
 もしARIAに触れたことがない方で少しでも興味が沸いた方は漫画でもアニメでも視聴してみてください。
 あんまり宗教的な勧誘の仕方は好きではないのですが、この作品に対してははっきりと言えます。
 人生観が変わる、と。

 なんでもないことが素敵に思えたり、ネガティブな感情が一転ボジティブになれたり、落ち込んだ時にはそっと支えてくれる杖に、迷った時には行き先を示してくれる道しるべになってくれる作品です。

 少なくとも私にとってはそうです。
 そしてそんな人が増えてくれたら一ファンでしかない私ですが、でっかいでっかい嬉しいのです。



 長くなってしまいましたがここまで読んでくださった方ありがとうございます。
 そしていつか語り合おうぞお前達!

 この素晴らしい作品に出会えたことに感謝をしつつ、レビューを閉じさせていただきます。

 願わくばいつか、ARIAが好きで仕方がないあなたと夜通し語り合えることを夢見て。

 

投稿 : 2024/06/01
♥ : 6
ネタバレ

テナ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6

踏み出した未来が個々に。

最初に海のシーンと青空のシーンが続きます。
そのシーンは特に綺麗で海に空の蒼と曇が反射して水が透き通っているように見えて第一印象は素敵です(´艸`)*

そして、始まる灯里ちゃんとアイちゃんの物語。
そして灯里ちゃんのARIA company

灯里ちゃん凄く先輩していましたね^ ^
そして、皆さん忙しい様で皆んなに中々お会いできないみたいで…一瞬だけ再開したアイカちゃんとアリスちゃんに喜ぶ灯里ちゃん。

【裏誕生日の話】

やっぱりお仕事が始まるとお友達に中々会えなかったりするのは灯里ちゃん達も同じなんですね。

{netabare} そして、今回のエピソードは過去編で、アリシアさんの誕生日をお祝いしたいと思ったアキラさん、一緒に祝おうとしたアテナさんも予定が入り、なんとアリシアさんも忙しくてARIA companyに帰れなくなり、仕事中のアリシアさんを探しに行く灯里ちゃんとアキラさん。

3人で会える時間は大切だったと言うアキラさん…そんな中、奇跡が起こります。
アリシアさんを見つけた後に偶然アテナさんも現れる。
{/netabare}

それは、ほんの数秒の奇跡。
{netabare} 言葉すら交わしていないし、目が合ったのは数秒…それでも3人は心が通じっているから。
全てをわかっているし、きっとあそこで大切な友達に会えたのは彼女達が積み上げた時間の奇跡の結果。{/netabare}

友達とは中々会えなくなるかもしれません。
同じ地元に居ても時間が合わなかったり、もしかしたら別の地域に離れたりも…でも、私達が友達や仲間とつなぎ合わせた時間は確かにそこに在って、離れていても心は通じ合える。
会えなくても確かな絆がそこにある証でもあるんだなぁ〜と感じました。


そして、次は【ケットシーの話】

実はこのエピソードも原作にあるエピソードなのですが、私はこのエピソードが中々好きで3期ではカットされてて少し寂しかったのですが、こちらで制作してもらえたのは良かったです♪

{netabare} そして、ケットシーはアイちゃんをも導いてくれました。
ケットシーの姿を追い掛けたアイちゃんが行き着いた先はアズサちゃんとアーニャちゃんが居る場所。

アイちゃんはマンホームから来ている為に同期の友達が居ませんでした。
だからこそお友達が欲しいと思っていた矢先の出来事で、灯里ちゃんの大切な後輩のアイちゃんをケットシーは導いてくれたのかもしれません。
ずっと見守ってるよって伝えたかったのかもです。

そして、話は過去になりケットシーとのお別れの話
灯里ちゃんはケットシーに中々会えず寂しく感じていました。
もしかしたら、もう会えないかもしれないと思いながらも、それなら最後に一度くらい会いたいと。 {/netabare}

そうですよね。
誰だって知らない間にお別れしているより、最後に挨拶くらいしたいですよね。
伝えたい事も感謝も沢山ありますし

{netabare} そこでアリスちゃんの提案で七不思議の不幸の石の場所へ行きます。
そこで石を踏むと……何も起こらず…
そして、灯里ちゃんは寂しい気持ちを言葉にすると彼女はアクアの空高くに放り出されます。

落下する彼女が周りを見渡すとケットシーが現れてくれたのです。
灯里ちゃんは嬉しい気持ちを伝えるのですが…ケットシーから灯里ちゃんは雰囲気を読み取ります…もぅ二度と会えないのだと…気付いてしまいます。

でも、ケットシーは灯里ちゃんの心にいると言ってくれます。
そして、ケットシーから贈り物も。{/netabare}

灯里ちゃんはもしかしたらケットシーに恋をしてたのかな?
{netabare} ケットシーがくれた時間はワクワクでドキドキで楽しい素敵で、灯里ちゃんが見せてもらった景色もまた特別でそんなケットシーに憧れていたのかもしれません。 {/netabare}


次のエピソードは凄く新鮮でした。
【アリシアさんが灯里ちゃんに出会うまでのエピソード〜現在までの物語】

このエピソードはファンの皆さんが見てみたいエピソードではないのでしょうか?
アリシアさんのARIA companyの始まりの物語。
エピソードゼロと呼んでもいいかもしれません。

{netabare} アリシアさんはアテナさんやアキラさんが後輩を指導してる姿を見て目を輝かせます。
きっと、アリシアさんは楽しみだったのでしょうね。
自分にも後輩が出来たらあんな素敵な関係になれたらと…そして、灯里ちゃんが来てくれた。
アリシアさんはそれを運命だと感じていた。 {/netabare}

OVAで灯里ちゃんは「アリシアさんは何故、私を選んだのだろう?」と言う疑問を浮かばせますが、ここに答えがありました。

で、アイちゃん達が素敵なサプライズが用意していました。
{netabare} なかなか会えない中
灯里ちゃん達3人で会うのすら難しく…
アリシアさん達を入れた6人でとなると更に難しく…
グランマをいれた7人がとなるともっと難しくなる…{/netabare}

それをアイちゃん達は時間を作ってくれた。

そして、話は変わりますが
{netabare} ウンディーネへの昇格はかなり難しいらしく、才能を認めてもらえず辞めていく事が多いそうです。 {/netabare}

これは実は、重大な問題だと思います。

{netabare} 例えば、特定の先輩に認めてもらわなければ昇格できない…つまり先輩に目をつけられたら一生ウンディーネになれない場合もある。
そんな事が増えて行けばウンディーネ業界も人数不足で停滞して行く事にもなります。

特定の先輩に認めてもらえないとウンディーネになれないと言う事は他の先輩に変えてもらえたりもないのでしょうね。

そこで立ち上がったのがアリシアさん。
そんなプリマ昇格制度を始め欠点を変えようと頑張っているそうです。 {/netabare}

出会いは本来素敵なものだと思います。
{netabare} でも、その出会いが悪ければ…それでもプリマ制度のせいで将来有望な子達が夢を諦め去って行かざる得ない事態、凄く辛いですよね。
力が及ばない、向かないから諦めたではなく出会いの段階で夢が閉ざされる可能性がある。{/netabare}

アリシアさんは灯里ちゃんに会う前からゴンドラ協会に入る事を決めていたそうです。
最初は断っていたらしいのですが、それはアリシアさんのやってみたい事に変わって行った。

なぜ、アリシアさんは、この制度を改革しようとしたのでしょうか?

これは、あくまでも私の妄想ですが。

アリシアさんは元々そう言う話を知っていたのかもしれません。
そこに灯里ちゃんは3期のトラゲットの話しをアリシアさんにしたのかもしれません。
先輩に恵まれず夢を諦めようとしていた子の話しを…それを聞いて確信にかわった。

協会に移動したアリシアさんの元に届く情報で、灯里ちゃんから話しを聞いていたからこそ問題が浮き彫りにして見えたのかもしれません。
それで改善へと踏み出したのかも。

↑完全に私の妄想です。

アリシアさんは、出会いに恵まれています。
同期のアキラさんやアテナさんを始めて、グランマに先輩にアリア社長…そして灯里ちゃん。

{netabare} アリシアさんは素敵な出会いが続いて今がある。
出会いが素敵だからこそ、その素敵が壁になる可能性もある事実が辛かったのかもしれません。

それでも、アリシアさんは悩んでいた。
灯里ちゃんとARIA companyで過ごす事で灯里ちゃんと過ごす時間が特別になり大切で愛おしい時間。
掛け替えのない時間…止められるなら時を止めたいと……

アリシアさんは悩んでいたのでしょう。
灯里ちゃんと出会った日々が楽しくて幸せだったのでしょう。
何故彼女が悩んだか… {/netabare}

彼女には2つの道が目の前に道がありました。

{netabare} 1つ目は…アリシアさんの選んだ道。
結婚と引退とゴンドラ協会のお仕事。

2つ目は…灯里ちゃんとARIA companyを経営する。
アリシアさんにとって灯里ちゃんとの日々は特別で…結婚もゴンドラ協会で働く事は凄く素敵な事で…そんな未来を天秤に掛けても、それ以上の価値がある時間で灯里ちゃんと過ごす日々が輝いて…失いたくない…時間に変わりつつあった。
だから、彼女は灯里ちゃんの昇格試験を伸ばしたのです。 {/netabare}

そんな未来も素敵ではありませんか?
だって、この時間を止めてしまいたいと思える時間ですよ?
この時間を手放した先に幸せがあるとは限らないのですよ?

それでもきっとアリシアさんは悩んだ…多分…私の予想では灯里ちゃんと居る未来をアリシアさんは選ぼうとしていた気がします。

アリシアさんは3期のラストで、灯里ちゃんの昇格試験を伸ばしたのは「私の我儘」と表現しました。

でも、気付いてしまった。
そんな幸せの時間のもぅ一つの裏側を

そして、やっぱり背中を押してくれたのは灯里ちゃんでした。

{netabare} 「寂しければ寂しい程、悲しければ悲しい程、それは大好きな存在だったからなんです。
これは一生ものだと思えるこのアクアでキラキラ輝き続ける愛おしい存在、だから切ない想いも幸せの証なんですよ。」{/netabare}

このセリフを聞いたアリシアさん。
もし、この時間を止めてしまえたら灯里ちゃんと今のまま関係は続く……

でも、時間を止めると言う事は未来を閉ざすと言う事です。

灯里ちゃんがプリマになる未来
ARIA companyの新しい未来
灯里ちゃんが新しい後輩を迎える未来
アリシアさんの結婚の未来
アリシアさんの婚約者の未来
ゴンドラ協会の未来

他にも沢山の未来。

時間を止めるとは未来を選ばない事と同じ
仮に一時的に一緒に長く居ても必ずどの様な形でもお別れは来る…
でも、お別れは悲しいし受け入れられない事もある…それでも…どうせいつかは別れが来るのなら…そのベストタイミングは…お互いが踏み出せる…今…

灯里ちゃんの言葉で時間を止めていたアリシアさんの魔法は解けて行き時間が動き出す。

アリシアさんのような人でも遠回りをする事がある…誰だって遠回りをするし立ち止まる…そうして未来を選んでいく。
踏み出す勇気を教えてくれる様な物語となっています。

そうして選んだ未来がこの作品The AVVENIREです。
未来へ踏み出した結果はいかがでしょうか?

私には皆んなキラキラしていたように思います。

{netabare}「さぁ、漕ぎ出そう私達の未来へ」 {/netabare}


最後に作品全体について少し。

この作品のファンの方は見てみたかったのではないでしょうか?
アリシアさんの決意した未来と灯里ちゃんのARIA company

彼女達の最終回からの後日談に先輩になった灯里ちゃんの姿。
それをファンの方は見たかったと思うんです。
それを制作してくれた制作側も素敵なチョイスだと思いました。

完成した原作完結作品に後日談を作るってかなり勇気がいると思うのです。
当時の物語と同等以上の物語を制作しないといけないプレッシャーもあったと思います。
ファンの方は作品が大好きだから素敵な事も喜んでるくださりますが、同じくらい大好きだから受け入れられない人もいるものだと思います。

でも、今回の作品を見てファンの方は素敵を感じる人の方が多い気がするんです。
私も素敵な続編だと感じています^ ^

こうして続編を出していただける事が凄く嬉しいです。
これから1年先でも5年先でも10年先でもいいです。
少しずつでも続編を続けて欲しいと思わずにはいられないのです。

そうしてくれたら、その度に私は劇場に足を運びます。
そして、ARIAと言う作品を通じて灯里ちゃん達と一緒に成長し未来へ進んでいける様な気がするのです。

なんだか恥ずかしいセリフを吐いてしまいました…でも、それくらいに暖かい作品であるARIAに私自身も素敵な気持ちにされてしまっていたのです。

今回も素敵に丁寧に作られた作品だと思います^ ^

投稿 : 2024/06/01
♥ : 19
ネタバレ

kochiro さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

その、永遠に会えない人は…

季節は“冬”

これは水の3大妖精のひとり、セイレーンと呼ばれるウンディーネが若くして急死した後のお話。

{netabare}
アテナ・グローリィの急な訃報から一週間が経過して、ネオベネチアにはもういつもの穏やかな日々が流れているのですが、アテナの指導を受けた唯一の後輩であるアリス・キャロルだけはずっと部屋に引き籠ったまま。びっしりと埋まっていた予約をすべて断って、後輩のアーニャちゃんを指導する役目も会社に返上し、もうゴンドラに乗ることすらできなくなっていました。

カツカツカツ。

「晃さん、ちょっと待ってください。」

ドンドン!

「アリス、いるんだろ。早く開けろ!」

ガチャガチャ、ドンドンドン!

「ちょっと、まだ早いって言ってるじゃないですか。もう少し待ってからでも。」

「ええい、離せ藍華。こんなドアなんてぶち壊してやる!」

ドカドカドカ!ババン!

「晃さん、無茶しないでくださいって、あ~あ。本当に鍵を壊しちゃった…。」

晃が扉を開けると、部屋の隅にはただ呆然と座っているアリスの姿がありました。

「おい、こんな暗い部屋に閉じこもって、おまえ何やってるんだよ。」

「…」

「…、覚えているか?オレンジプリンセスのゴンドラに3か月も前から予約して、お前のゴンドラに乗ることをすごく楽しみにしていたお客様がいただろ、今日な。代わりに私のゴンドラへ乗ってもらった。…、私のとっておきの場所をたくさん紹介したけれど、結局、帰り際にお前の長期休業中ってのが本当に心配だって言われてな、とても不安そうな顔をさせてしまったよ…。」

「…」

「アリス、私達の仕事はただの観光案内じゃない、お客様に喜びを感じてもらうことが仕事だ。わかっているだろ?」

「…」

「…そうか。お前はウンディーネ失格だ。」

「…」

「私からNo.1の座を奪うのはお前だと思っていたのだが…。見込み違いだったようだな。………残念だ。」

そう言って部屋を出る晃さん。扉の隙間から、ぴょこぴょことまぁ社長がアリスの部屋に入って扉が閉まります。
部屋の外にいた灯里と藍華は、アリスの部屋に入ろうとしますが。

「もうほっとけ、ほら行くぞ。午後のお客様、二人とも予約入っているだろ。」

「でも。晃さん酷すぎます。」

「そうだな。…だが、酷いのはあいつの方だ。ほら行くぞ。」

灯里と藍華は心配な顔をしつつも、この場は晃さんの言葉に従います。
扉の前には部屋に入ることができず、扉を見つめるアーニャちゃんだけが残されました。

部屋の中では、まぁ社長がアリスに優しく寄り添います。

「まー。 まぁー。」

「…、まぁ社長。」

「私。もっとアテナ先輩に恩返しがしたかった。なのに。まだ私なんにも返せてないのに。もう二度とアテナ先輩に会えないなんて……。う。ううう…。」

「…、まぁー。」

その頃、アリシアさんはゴンドラ協会でアリス・キャロルの今後の対応を話し合っていました。その場でアリシアは晃がアテナとアリスの二人が抜けてしまった観光案内の穴を埋めるため、代役として朝から夜中まで休みなくびっしりと働いていることを知ります。
このままでは晃の健康状態が心配です。そこで、多過ぎる仕事量をゴンドラ協会加盟の各社で協力して分散させることとなりました。

その会合は夜までかかり、アリシアは晃のこと考えながら帰宅している途中で偶然ゴンドラに乗っている晃を見かけました。
晃は疲労困憊でゴンドラを漕ぐ手も体も震えていました。うつむいている晃にアリシアは声をかけようとしましたが・・・震えていたのは疲労のせいなんかではありませんでした。

晃の頬には涙が見えました。

「……。 なんだ、アリシアじゃないか。」

「晃ちゃん…」

「変なとこ見られちゃったな。仕事に夢中になっている間は全然、大丈夫なんだ。でも、こうして気が抜けるとすぐ悲しみに負けちまう…。今日な、仕事を放棄しているアリスを怒鳴りに行ったんだが、どうやら私もっ… 私も偉そうなことを言えるほどまだまともじゃないみたいだ。何かしていないとダメみたいでな。…本当に情けない、情けないよな・・・・。」

「…晃ちゃん。」

二人とも、何も言葉が出てきませんでした。ただ、お互いの姿が涙に滲み、アテナのことを思い出していました。

次の日、プリマとして自由な時間が取れない灯里や藍華に代わって、まだシングルの後輩3人組がどうすればアリス先輩がまたゴンドラに乗れるようになるか、アリア社長、姫社長も協力して作戦会議を行います。
そして、アーニャちゃんの意見からまずは笑顔を取り戻すことが重要だということになり、作戦指揮はあずさが担当、アーニャはアリス先輩のお気に入りなどの情報収集を担当、アイは素敵なことが起きる予感にさせる素敵担当、兎に角、どんな素敵でもいいからアリス先輩に見せて笑顔になってもらおうとしました。作戦名は、「アリス先輩を笑顔にする大作戦」。そして、作戦が開始されました。

しかし、打ち合わせ通りにはうまくいかず、空回りばかり・・・。

「ふいにゅ~。ふいにゅ~。ぶい、ぷいにゅ。ぶいにゅ~~!!!」

アリア社長がまぁ社長に自ら“もちもちポンポン”を噛むように仕向けるという体を張ったとっておきも、かじられ損に終わりました。

もうダメかも、と弱音を吐くあずさに、どうしてもなんとかしたいアーニャ。仕事を終えた灯里先輩と藍華先輩も加わってアリス先輩に兎に角、ゴンドラに乗ってもらおうと皆でアリスの腕を引きますがついに振り払われてしまいました。

「もう皆さん、私のことなんかほっといてください!」

アリスもみんなの気持ちがわかっているのに、どうしようもできない自分が許せなくなっていました。

「アリスちゃん。でも、そんな悲しそうな顔をされたら放ってはおけないわ」

「え?」

と、そこにやさしい声がしました。

「久し振りね。アリスちゃん。」

「・・・グランマ」

グランマの後ろにはアリシアも立っていました。
憧れのグランマに今の姿を見てほしくない、アリスはその場から逃げようとしますが晃が逃げ道を阻みました。
「お前からグランマに何も言わなくてもいいのか?」

晃にそんな言葉をかけられて、アリスは重い口を開こうとしました。

「…グランマ、あの…もう…私…」

アリスちゃんがグランマに打ち明けることができずにいると
グランマがアリスのゴンドラを眺めながらゆっくり話しはじめました。

「このアリスちゃんのゴンドラは何人乗りかしら?」

「え、あの…。最大で7人です…。」

グランマは頷いて話を続けます。

「ゴンドラは乗れる人数が限られるから沢山のお客様と出会ってばかりではいられないわ。出会う分だけ、お別れしないといけないでしょ。お別れした後、後悔もしたりするわね。でも、そのお客様と一緒に過ごしたかけがえのない時間を失うことは絶対にないの。」

藍華や灯里は頷いていますが、ちょっと難しい話なので後輩3人はついていけていない様子。アリスはしっかりグランマの目を見て話を聞いています。
(そんなアリス先輩の姿をアーニャちゃんはじっと見つめていました。)

「アリスちゃん、永遠の別れは何時訪れるか誰にもわからないものなの。だから、もしかすると明日、急にグランマがアリスちゃんたちみんなとお別れしないといけなくなってしまうかもしれないわ。」

「え、そんなの絶対嫌です!」

「それは誰にもわからない。でも、グランマはね。今、アリスちゃんと一緒に話しているこの時間を絶対に失うことはないの。だから大丈夫。」

グランマは不安そうなみんなの顔を見回してからまた問いかけます。

「アリスちゃん、もうひとつ聞いてもいいかしら?アリスちゃんにしかわからないことなの。」

「え、は、はい…、なんでしょうか?」

「もしも…、アテナちゃんが今のアリスちゃんに言葉を掛けるなら、なんて言うかしら?」

「アテナ先輩が、今のわたしに…」

「アテナちゃんと過ごした時間が一番長かったあなたですもの。わかるんじゃないかしら。きっと、アリスちゃんの心の中にはアリスちゃんしか知らない、アリスちゃんだけのアテナちゃんがいるはずよ。」

アリスちゃんはしばらく考えてから、不安そうな顔をしている灯里先輩や藍華先輩、後輩のアーニャ、みんなのことを見回します。

「グランマ。私…」

グランマはそっとやさしく微笑みます。

「私…、またアテナ先輩に心配ばかりかけてしまっていたみたいです。」

アリスちゃんの潤んだ目を見てグランマは頷きます。

「そう、でも、これからは大丈夫みたいね。ほら、アリスちゃんはもうアテナちゃんを見つけることができたのだから。」

「グランマ。・・・はい。 あ、あの、みなさん、ご迷惑をおかけしてでっかいすみませんでした。」

涙目の灯里と藍華が笑顔でアリスに抱きつきます。

「おかえり、アリスちゃん」

[newpage]

そして、季節は“春”。

花咲きほこるサン・ミケーレ島にあるアテナ先輩のお墓には、お花を手向けるアリスの姿がありました。

「アテナ先輩、今、私、会社から改めて後輩を指導してみないかって話を受けているんです。落ち込んで、みんなに迷惑かけてばかりのダメダメな私にはもう無理なんて思ったりもしたけれど……。」

と、アリスは木陰からずっとこちらを見つめていたアーニャちゃんの姿に気が付きました。

「でも、私にはアーニャちゃんっていう先輩想いのかわいい後輩が既にいるからでっかい無理です。って、断ろうと思っています。アテナ先輩から教えてもらったこと、ちゃんとアーニャちゃんに伝えたいって思うから・・・見ていてださい。・・・アテナ先輩。次はプリマに昇格したアーニャちゃんと一緒にまたここにきます。でっかい楽しみにしていて下さい。」

アリスは立ち上がるとアーニャちゃんに声をかけました。

「でっかい盗み見禁止です。合同練習はやってないんですか?」

「ごめんなさい。でも私、アリス先輩のことが気になって。」

「仕方がないですね。ほら、行きましょうか。今日、夜は予約が入ってないから練習に付き合ってもいいですよ。」

「はい。お願いします。」

アリスはゴンドラに乗ります、手にはアテナ先輩が愛用していたナンバー「36」のオール。オレンジ色に染まった夕暮れのネオベネチアの街並み。飛び立つ鳥たち。アリスちゃんは優しく微笑み明日へ漕ぎ出します。

アリスのカンツォーネ「ルーミス エテルネ」が春風に乗って町中に広がり、歌声に気が付いた晃さんが笑顔でゆっくりと空を見上げ呟きます。

「そうか・・・、私にもついにゴンドラから降りるときがきたのだな。」

灯里や藍華達にもアリスちゃんの歌声が届きます、そして・・・本当の笑顔がネオベネチアに戻ってきました。

そうそう、気になるアリスちゃんが元気を取り戻したアテナさんの言葉。

{netabare}

それはARIAのことが大好きなファンの心に残っているアテナさんの言葉そのものです。

恥ずかしいセリフ禁止!

アテナさん、あなたの言葉にはたくさん助けられました。ありがとうございました。

また今日も平和な日常を過ごせたことに感謝しつつ、現実世界にしかないたくさんの素敵を見つけながら楽しんで生きていきましょう。
{/netabare}
{/netabare}

投稿 : 2024/06/01
♥ : 8
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