時代劇で着物なおすすめアニメランキング 2

あにこれの全ユーザーがおすすめアニメの時代劇で着物な成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年05月10日の時点で一番の時代劇で着物なおすすめアニメは何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

72.1 1 時代劇で着物なアニメランキング1位
無限の住人 IMMORTAL(TVアニメ動画)

2020年春アニメ
★★★★☆ 3.6 (137)
598人が棚に入れました
武士というものがまだ存在していた江戸の世——。百人斬りと呼ばれた【不死身】の男がいた。その男の名は「万次」。万次は、父母を殺され復讐を誓う少女「凜」と出会う。凜は万次に、復讐の旅の用心棒になってくれないかと言う。初めは断る万次だが、凜に亡くした妹の面影を見た。一人では危うい凜の姿に、仕方なく手を貸すことに決める。しかし凜の仇は、剣の道を極めんとする集団——逸刀流。それは、不死身の万次すら追いつめる凄絶な死闘の始まりを意味していた。

声優・キャラクター
津田健次郎、佐倉綾音、佐々木望、鈴木達央、花輪英司、咲野俊介、桑島法子、ふくまつ進紗、秋元羊介、小原雅人、中田譲治、林真里花、白熊寛嗣、奈良徹、小林親弘、関智一、真山亜子
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

MUGE・ん…異能っぽい

原作未読 Netflixもの

なんですけどなんとなく

 なんかタイトル知ってる~

三池崇史監督でキムタクの実写版が遠くない過去にやってましたね。それでみたいです。マンガそのものは1993年から20年ほど連載し完結。これはきっとブックオフで見かけてますね。実物に触れるのはこのアニメが初です。


 限り無き世界の住まい人


のお話。八百比丘尼より不死を授かったおっさんを主役に据えた時代劇全24話。ちなみに終始物騒なアニメ作品ですよ。痛快さとはほど遠く『カムイ伝(白戸三平)』『どろろ(手塚治虫)』の世界観に寄せたような感じがします。自分は無条件で好きなタイプな作品なので抵抗はなくそのまま完走。おそらく第1話からして雰囲気はばんばん伝わってくることでしょう。

まあけっこう身も蓋もないのがいいんですよね。生命は限りなく重くそして軽い。

 {netabare}『この奥方は好きにしていい。ただし娘の方には構うな』

平気でこんなこと言っちゃってる世界だったりします。{/netabare}

エロ・グロ注意表現がテロップで流れますので推して知るべし。主役のおっさんを津田健次郎さんが演じられてるわけですが、朝ドラでツダケンを知って「あら、アニメもやられてるのね?」とうっかり迷い込んだ奥さまが卒倒するグロレベルではあると思います。
声優さんに触れておくともちろん名の知れた方もいるわけですが、そんなこと以上に、セリフの多い主要どころに無名な声優さんがけっこう配置されてるのが特筆すべき点でしょうか。“代表作無し:主役級無し”な声優さんがわんさかいます。それがいいです。人知れず生まれ人知れず死んでいく儚さをキャストから感じたのは私だけでしょうか。

そして理不尽な理由で生命を落とすなんてことはザラな物語です。それを具現する尸良(CV奈良徹)みたいなキャラもおりますが、その点でなによりウケたのはOP曲by清春ですかね。傍若無人なエピソードに事欠かないアーティストさん。その頃SNSがあったら日々炎上しまくってただろう方のお声を冒頭に聴けるのは幸せでした。あれ!?よくわかんないですか!?僕だけに響いてる感じでしょうか。 くすんだ色調のアニメの中で鮮やかにここだけ色づいてましたね。
なおEDはものすごく好きです。毎度変わるというのも良いのですが、作品世界を見事に表現してるといっていいでしょう。贔屓の引き倒しみたいになってきた(・_・;)


少しだけ具体的なところも。
ヒロインは浅野凜(CV佐倉綾音)。町道場の師範の娘だった彼女は目の前で父を惨殺され、母を凌辱された末に行方不明という憂き目にあう。犯人は勢力拡大中の一門“逸刀流(いっとうりゅう)”で面も割れてるところでヒロインが仇討ちを誓いスタート。道中「用心棒が必要じゃろうて」との婆(八百比丘尼)の助言から、万次(CV津田健次郎)と接触し助けを乞うみたいな導入です。そこに万次の不老不死という設定が絡んでくるわけです。
だいたいこういうのも暗黙の境界線みたいなのがあって、

【仇討ちもの】
 並:仕留めたぞ!ヒャッハー
 上:憎しみを超えたなにか
 下:{netabare}憎しみを超えたなにかに挑戦した似非ヒューマニズム{/netabare}

【不老不死もの】
 並:ゲットしてハッピー
 上:そう良いことばかりではない。むしろ…
 下: …

シンプルに夢見てウヒャウヒャする“並”は場合によっては清々しさが際立つ良作だったりします。そんな物事は単純じゃないのよってのを巧みに見せてくれると“上”。さらに「そうきたか!」と驚きのようなものがあると“特上”になるんだと思います。“下”は書くつもりありませんでしたが、“上”に挑戦したもののツメが甘くてうすら寒い作品の山が横たわってる現状を憂い一応書いときました。本作でもヒロインが正義感溢れる一本気気質だったので一歩間違ったらドン引きする展開が待ってたと思いますよ。でもまあそうはなりませんでした。ちなみに不老不死ものはあまりハズレを引いたことがない気がするので“下”相当は該当なしとしてます。

 ・死ねないことの苦しみ哀しみ
 ・寿命差で生じる死に別れの悲哀

あたりがお約束でしょうか。本作は“上”を狙って“上”を獲得した作品だったといえます。雰囲気や見た目もしっかりと世界観に合わせながら、変化していく仇討ちの意義を見つけようと凛が迷い悩み答えを出していく過程は納得感を得られます。不死である万次の諦観みたいなものには“もののあはれ”すら感じた私です。
難点は少しばかり雰囲気勝負だったところ。けっこうな登場人物数を回しきれたかも微妙なところ。おそらく詰め込んだ部分もあるのだろうと思われます。それでも破綻したとはならないのは、物語のエッセンスをきちんと抽出し省略せずに我々に提示してたからだと思います。しっかりと堪能しました。



※ネタバレ所感

■万次さんのここが良い

強くないところです。万次さんいつも殺されてるのに自信満々なんですよね。それが強がりだとわかってくると深みとコクが増してきます。

{netabare}どこだったかで「こんな(身体)になる前に100人斬ってんだぞ」と言ってたような。不死身の肉体なんて妖(あやかし)ないし化け物扱いです。だから無敵なんだよという目を向けられたのに反して出た万次の一言。人間の頃から強かったんだぞ!と叫んだわけです。
正しくは不死身ではなく死ぬこともある万次さんの肉体に本人はとうに嫌気がさしている。でもどうしようもない。自嘲気味ながら自分の体を呪う手前みたいなスタンスで己に向き合ってたかと思います。そんな諦観めいたある種の達観した境地までいったおっさんのように見えて実はそうでなくて「人間の頃の良かった自分」への憧憬めいた感覚が残っているところが面白い。{/netabare}

{netabare}剣術も最強ではない。おそらく“町(村)レベルで強い!”くらいなもんだったんでしょう。
手練れがわんさか登場する時代劇です。熟練の剣客同士の手に汗握る熱戦を主人公を主語にして展開されればわかりやすかったのかもしれません。
同時に流れるような達人の剣技を作画で魅せてくれれば拍手喝采だったでしょう。

だがそうではありません。最初私はそこが不満でした。気持ちよくない。
しかしながら、そこらへんにいる腕自慢のおっさんがひょんなことから不死を得てしまった悲哀を表わすにはベストな選択だったような気がします。最強剣士が不死になる設定なら不老不死の意義や意味なり目的がわりとはっきり見えやすいとなるはずのところをそうではなくしてるわけです。
死んだと油断させといて不意打ちするみたいなとこあるので、バトルとして見たら消化不良もいいとこですがこれはこれで良し。流麗な剣技は他の人に任せてるところあるのでそっちで満たしましょう。{/netabare}


■日本の風景

欧州を舞台にした作品だと100年前200年前と遡っても街の景色がそう変わらないことは多々あります。橋だったり教会だったり平気で築400年とかあって、この前観たルネサンス期を描いた作品では舞台のフィレンツェの観光名所ともなってる有名な橋がそのまま描かれてたりもしました。

 石造と木造の違い

日本とヨーロッパの違いです。日本は戦争で主要都市が焼け野原になったこともあり、文明開化や大正浪漫はたまた戦時を描いた作品での街の風景は今と異なり当時の建造物はほぼ残ってません。またそのことを特に違和感なく当たり前のことと受け止めてきました。

 切り取った時間軸で風景は変わる

{netabare}それが何話だったかの“白川郷”。江戸を抜けて金沢へ向かう道中ということで道程も合致する。作品で描かれた白川郷がそれこそ観光で訪れた景色そのまんまでいたく感動しました。なにせ時代劇において今現在見てる景色そのまんまという経験がなかったもので。歴史の縦の糸が繋がったかのような稀有な体験でした。{/netabare}


■いっとうりゅう

最終話でサラッと…

{netabare}時が流れてましたね。

「土佐で魚釣ってたらアメリカ船に連れてかれ」
「萩で牢に入れられ」
「京都で久々にいっとうりゅうの名を聞く」

ってそのまんま竜馬さんじゃないですか(笑) 投獄されたかは知らんけど萩行ってますしね。吉田松陰に会ったり新撰組連中と親交があったことを伺わせる最終回です。なんか歴史の影に万次あり!みたいな。これ個人的には微妙でした。歴史の本流にはかすりもしないところで徒花のように生きた人達の物語だと思ってたところがあったのでなんとなく腑に落ちなかったです。
※注)ジョン万次郎説もあるとのご指摘あり{/netabare}



万次と凛の仲の描き方もあれで良かった。
ごちゃごちゃ言わんでも目と目で通じ合うくらいの信頼関係はできてたんだと思います。実写版でキムタクを起用したのはそういうメタファーなんですよ(嘘)。



視聴時期:2020年4月~9月 リアタイ

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2020.09.16 初稿
2020.10.30 修正
2021.06.11 修正

投稿 : 2024/05/04
♥ : 40
ネタバレ

青龍 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

本当の強さってなんだと思いますか?

【リアルな最強(※本作の紹介のつもり)】
本作の主人公である万次は、天下無双の剣の使い手ではないけれど、例え腕や足を切り飛ばされても、不死身の身体(IMMORTAL)で最後にその場に立っている。

そんな「最強」とは、「勝ち続けることではなく、決して負けないこと」という「リアルな最強」をわかりやすく体現したのが本作の主人公。

例えば、ボクシングの世界チャンピオンは、勝ち続けることで最強の称号を手に入れる。しかし、いくら史上最強のチャンピオンであっても、いつかその座を譲る時が来る。チャンピオンを維持するには、勝ち続けなければならない。

他方で、「負けない」というのであれば、勝負から逃げたっていい(※勝ち続けるだと勝負になった時点で逃げられない)。そうやって自分に不利な状況をどうにか凌いでいる間に、相手の油断なり隙なりを待つなり作るなりして、確実に勝てる状況をつくりだす。相手と正面から向き合わず、相手の力をいなす、受け流す、状況に合わせて自分を変化させる。
正々堂々とは程遠いので、決して格好よくはないのだけれど、勝負に対するすごく泥臭い考え。

わかりやすい例でいえば、宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の戦いで、武蔵が大遅刻したことを卑怯と捉えるか、勝負に徹した狡猾な作戦と捉えるか。

本作は、時代劇ということで敵をバッタバッタと切り倒す殺陣を期待しているのなら、期待外れになるかも。しかし、どちらかというと実戦重視の武道をかじったことがある身としては、不死という設定はリアルではありえないものの、勝負に徹する「最強」に対する泥臭い考えには共感できる。

というわけで、本作の主人公は、一般的な格好いいとはちょっと違うかもしれません。


【武術の終焉(※本作のネタバレ有りの感想)】
剣術、柔術といった武「術」は、古来、もっぱら人を殺すための技「術」として発展してきました。

それが戦国時代という戦乱の世から江戸時代という泰平の世を迎え、暗殺術が流布すると治安上危ないという幕府の意向から、華道や茶道といった芸事と同じ「道」を探求する剣道、柔道(まとめて、武「道」)に変わっていったといわれています(先人は、武術のエッセンスを何とか残すため、何でも有りから礼儀作法や形式を重視することで、その危険性が弱まったことをアピールして、やむを得ず変化することを選んだともいえます。)。

最終話で、逸刀流統首天津影久は、{netabare}「逸刀流、何不自由ない泰平の世に武の隆盛と剣の再生を掲げて暴れたその剣によって、ほんのわずかでも何かが変わったのか。それを誰かに見届けて欲しかった。」と言っています。

とにかく相手を倒せばいいのだという逸刀流の剣術は、既に泰平の世である江戸時代において必要とされていなかったし、そのような殺人剣はこれからの世においてもない方がいい。
だから、凛は影久に対して復讐心から個人的な恨みを晴らしたというより、「そのような剣術を影久で終わらせる」(武術の終焉)という意味で彼を刺したのでしょう。
もっとも、影久自身も「ほんのわずか」と言っていることから、自分が分の悪い勝負を挑んでいることに気づいているし、本当に何かを変えられると思っているのなら見届け人も不要なので、敗北することも覚悟していた。
影久は、時代の流れに抗い、剣術の再興を夢見て江戸中の道場破りで一世を風靡するものの、やはり時代の流れには抗いきれず、儚く散っていく運命にあった。

彼とは対照的に、凛は、逸刀流に道場破りされた父親の道場を再建している。彼女は、親の敵である影久を追いかけるうちに、自分と同じように先祖の無念を晴らそうとする影久に自分の姿を見たのか、復讐心に囚われなかった。
時は、敵討ちが周囲から称賛され思考停止でその期待に応えて生きることが求められる時代である。その空気に流されることなく、彼女は、敵討という「生きている自分の人生」を「既にこの世に存在しない者」のために犠牲にすることの虚しさに気づいて立ちどまる強さを持ち合わせていた(現代においても復讐の連鎖はなくなってはいないけれど…)。
結局、生き残った者、最後まで立っていた者が強いを体現した一人。

最後に、幕府の役人である吐鉤群(はばきかぎむら)も、影久と同様に剣術の腕は作中最強格。世が世なら、侍大将として大いに活躍したことでしょう。しかし、残念ながら剣の腕で出世できる時代では既になかった。異常なまでの彼の出世欲は、生まれる時代を間違えたという焦りの裏返しなのでしょう。
もっとも、時代にあわせて変化することをよしとせず、あくまで武士(もののふ)としての生涯を貫き通そうとした鉤群もまた、その家族とともに滅びる運命にあったのではないでしょうか。


まあでも、影久と鉤群は、生まれる時代を間違えた者同士、対立はしていても内心この状況を楽しんでたんじゃないかと思うんですよ。
泰平の世に、殺人剣の使い手なんて、ただの危ない人でしかなく居場所なんかない。しかし、居場所を無理矢理作ろうとすれば、社会から拒絶される(彼らがやったことを見ればわかる)。それをわかっていて、変化するのではなく己を貫き通した。周囲は大迷惑ですけどね(笑)。


さて、影久たちの生き方には、日本人特有の無常観、常なるものはなくあらゆるものは儚く滅びる運命にあるという美学がありますが、これは破滅的な思考と表裏一体です。
確かに、影久や鉤群のように時代の流れに真正面から立ち向かうことも強さでありましょうが、万次や凛のように時代の流れを柳の木のように受け流すこともまた強さといえましょう。
時代が流転するならば、自分もそれに合わせて流転すればいい。

そんなリアル最強の万次が、純粋なゆえに時代にあわせて上手く変われなかった不器用な人たちの最期を見届け、死なない彼が彼らを思い出すことで弔う、そんなお話であったと思うのです。{/netabare}

投稿 : 2024/05/04
♥ : 4
ネタバレ

フィリップ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9

滅びゆくものたち

アニメーション制作:ライデンフィルム、
監督:浜崎博嗣、シリーズ構成:深見真
キャラクターデザイン:小木曽伸吾
音楽:石橋英子、原作:沙村広明

単行本が発売されて間もない頃から
20年ほど追いかけてきた。
初めて読んだときは、常識を覆す
大胆なストーリー、仇討ちと剣術に対する
哲学的思考、そして筆を用いたことによる
血なまぐささを感じさせるような
独特なタッチの絵柄に夢中になった。

『波よ聞いてくれ』を観た人なら分かると思うが、
沙村広明の作品は、キャラクターの魅力が秀でている。
主人公の万次はもちろん、天津影久や黒衣鯖人、
凶戴斗、乙橘槇絵、川上新夜、百琳など、
序盤に登場する面子と出会うだけでも気持ちが高ぶる。
カッコ良いし、奥深さを湛えているのだ。
それに加え、尸良や山田浅右衛門吉寛のような
狂気の人物が、読者を心の底から嫌な気持ちにさせる。
それも、また作者の特徴のひとつだ。

作品でいちばん惹かれたのは仇討ちに対して
主人公の浅野凜が何度もその正しさと
どうしようもない恨みの感情によって苦悩するところだった。
映画ファンだった私にとって、
仇討ちは西部劇やカンフーものの影響で常識的な思考。
ところが凜は、その正しさについてずっと自問自答する。
仇討ちを目指すのが万次ではなく、
女性である凛であるからこそ行き着いた
とてもよく分かるストーリー展開だった。
それが明確に表れているのが6幕の川上新夜の話。
敵討ちの連鎖を断ち切るために凜が苦悩するさまは
とても心に残り、普通にはない時代劇を感じさせてくれた。
この頃の物語の繊細さは、藤沢周平が思い浮かぶ。

凜が仇討ちをしようとする相手は逸刀流のメンバー。
彼らにも大義といえる理屈がある。
個人の想いと武術に対する志。
敵も人間であって、自らの信じる道を歩んでいるのだ。

型にこだわらず、本質にのみにこだわる。
それが逸刀流の美学。
武術の重要性が薄れつつある江戸時代において
真の力を追い求める者たちの究極の考え方。
それは人の命よりも重い。
「強さ」以外の理由で後継ぎになれなかった
父を見てきた影久の無念と恨みが滲み出てくる。

信じた道を突き進む天津影久は逸刀流を結成し、
江戸における道場破りを繰り返し、力を誇示していく。
しかし、それによって恨みが連鎖する。
所詮は烏合の衆である者たちゆえに起こる
下衆の行動と蹂躙によって、
被害を受けた者たちは怒りに燃える。
そのひとりが凜なのだが、
自分の追っている逸刀流の危機を目にするたび、
そして党主の天津影久という男を知っていくたび、
凜の心は揺れ動き、自分のやるべきことに
ためらいを感じるのだった。
また凜と話をすることで天津の心にも変化が生じる。

凜に手を貸すのが不死の運命を背負った万次。
旗本の不正を許せなかったことが原因で
100人斬りとして知られるようになった男は、
1000人の悪党を葬ることで罪滅ぼしを目指す。
その思考はとてもシンプルなものだった。

アニメのストーリー展開としては、
{netabare}1~12幕…凜の仇討ち、天津影久との2度目の出会いまで
13~19幕…万次捕縛&不死虐殺実験&救出まで
20~終幕…逸刀流vs. 吐鉤群の六鬼団と
分けることができる。{/netabare}

単行本のことを思い返して、改めてアニメを観た感想としては、
個人的には1~12幕が断然好きだ。
剣士としての矜持や生き様を感じさせてくれる。
しかし、それ以降はただの殺し合いになっていく。
好みの問題なので、そこが好きな人も多いと思うが、
私としては引き延ばしの感があった。

特にいちばんうんざりしたのが、
途中から作者が尸良に思い入れすぎて、
誰のための物語か、焦点がぶれてしまっていること。
また尸良の凄惨な過去がほとんど語られないため、
ただの殺人鬼が好き放題に暴れまわる
展開になっているのが少し残念。
これをやるのなら、尸良の過去をもっと
深く掘り下げ、しっかりと描かなければならない。
また、それは吐鉤群についても同様で、
幕臣である彼が剣士を排して、
平和を求めていたようには感じられない。
何を考えていたのかは、ほとんど見えてこない。

作画については崩れることもあり、
特に瞳阿の絵は安定していなかった印象。
この作品のなかではあまり重視されていなかった。
また最も重要と思われる斬り合いのシーンに
迫力がなかったのもマイナスポイント。
漫画のほうは、かなりこだわっていた部分なので、
そこも物足りなく思えた。
ただ、物語の構成は30巻分もある原作を
2クールでとても上手くまとめていた。
全体のバランス感覚が素晴らしかった。

ほとんどの侍が死滅した世界。
{netabare}万次だけは、江戸時代が終わっても生き永らえている。
滅びゆくものたちを間近で見ていた万次。{/netabare}
その目に映る世界は美しかっただろうか。
(2020年10月24日初投稿)

投稿 : 2024/05/04
♥ : 36

64.1 2 時代劇で着物なアニメランキング2位
百日紅 Miss HOKUSAI(アニメ映画)

2015年5月2日
★★★★☆ 3.8 (67)
274人が棚に入れました
舞台は江戸時代――。庶民が好んだ、江戸の風俗を描く〝浮世絵"。それを世に放つ江戸の浮世絵師として生涯、浮世絵を描き続け一世を風靡し、3万点を超える作品を発表し、今もなお世界中を魅了し続けている葛飾北斎と、その制作の裏側で北斎を支え続け、自身も浮世絵師として後に北斎名義で大量の作品群を残したと言われている娘、お栄(のちの葛飾応為)を通して絵を描く人間たち、江戸に生きる町人たちとの交流を描いた原作を原恵一監督が大娯楽群像劇として描き出します。遥か200年の時を越え江戸と東京が、今、ひとすじにつながる、全世界待望の大娯楽長編アニメーション大作です。

声優・キャラクター
杏、松重豊、濱田岳、高良健吾、美保純、清水詩音、筒井道隆、麻生久美子、立川談春、入野自由、矢島晶子、藤原啓治

けみかけ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

【死んだら地獄へ行くよ】江戸の四季、江戸の風俗、江戸の恋、江戸に生きる女を描く傑作【半鐘の音が聞こえると、じっとしていられねぇのさ】

『クレヨンしんちゃん』や『河童のクゥ』でお馴染みの日本を代表する名監督、原恵一の最新作
アニメーションとしては『カラフル』以来5年ぶり
間に挟んだ実写映画『はじまりのみち』からは3年ぶりのご帰還
1年前には『ARISE』にいた筈のProductionI.Gに太いパイプを持つアニメタがこっちにいたりで、原監督には初めての現場なのに色々凄いことになってます


原作は監督自身がファンだと公言している若くしてこの世を去った漫画家、杉浦日向子の代表作
江戸時代の浮世絵師、葛飾北斎の三女で葛飾応為こと“お栄”を主人公に彼女の視点から江戸の情緒や北斎を取り巻く人々を描いた時代劇です


主要キャストは本職の声優ではなく、これまた杉浦作品のファンであると言う杏がお栄を演じます
北斎(本名、鉄蔵)には何の因果か杏の父親役を度々演じる松重豊
北斎の弟子の一人で北斎やお栄と同居する若者、善次郎には原監督作品のファンだと言う浜田岳


これら俳優陣の演技は声優初挑戦ながらとても素晴らしく、特に杏はこの『百日紅』という作品をよく知っているだけあって気合の入れ方が凄かったようで、アフレコに着物で来たとか


また、アニヲタ的には矢島晶子と藤原啓二がカメオ出演しているのも面白かったのでぜひ探してみてほしいです


元々いくつかの短編を集めたものとして描かれている原作なので、この映画でも小さなエピソードの連続と共に移り変わっていく江戸の四季や登場人物の心情変化を描写しています
ココが今までの原監督作品と違うところなんです!


北斎とお栄の浮世絵師という仕事は現代で言うところのノンジャンルのイラストレーターに相当するもので様々な依頼に合わせて有象無象、虚実混濁、抽象、風景、人物問わず絵にしていきます


龍の水墨画、妖怪絵巻、地獄絵図、仏画・・・
それらに合わせて描かれる江戸の風景が大変美しい
時代考証に裏打ちされた両国橋や吉原の丁寧な描写は外国人に「これが江戸時代です!」と言い張れる完成度
さらにところところで画面レイアウトが【そのまんま北斎の代表作と同じ】になっているという遊びをそれとなく入れてくるのはニクイ


細かいエピソード毎の区切りが小気味良いテンポとなって原監督特有の「さぁ、泣いてください!」という湿っぽい雰囲気やあざとさを感じさせず、杉浦作品のドライな世界観と調和して高次元でバランスしていると感じました


そしてお栄が最も得意としていた春画(エロ絵)
北斎や江戸の浮世絵師を語る上では欠かせない春画、ですが年頃の娘であるはずのお栄(劇中では23歳)がなぜエロ絵を描き続けたのか
生涯未婚だったという彼女の青春に何があったのかを合わせて描く恋模様エピソードも見逃せない


そして物語全体の軸となるのがお栄の妹、そして北斎が無意識に避けてしまっている四女、お猶とのエピソード
じつはこのエピソード、原作の単行本ではクライマックスなんですが文庫版だと後日談が付け加えられてしまっています
これを原監督は蛇足と考えたのか、あえてこのお猶ちゃんを最後に持ってくることで原監督には十八番の“涙で〆括る”という体裁を取っていて、まあそう来るだろうとは薄々わかっちゃいましたがこれがまた自然な仕上がりですっかり乗せられました
いや、率直に素晴らしかったです


エンドロールには生前の杉浦が好んで聞いていたという椎名林檎が歌う主題歌
ただでさえ男尊女卑の時代を生きたであろうお栄という逞しく地に足着いた女性の姿を通して、作品全体に仄かに漂う女性応援歌の香りがこの曲で裏付けられます


江戸文化の丁寧な描写という面で観ても世界に発信するに相応しい一作でありつつ、流石に吉原とか遊郭が出てくるので小さいお子様連れ向けとまでは言わないが老若男女楽しめるエンターティメントに仕上がっている思います
文字通り傑作ですよ、これは








お猶ちゃんマジ天使、な

投稿 : 2024/05/04
♥ : 24
ネタバレ

さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

芸術作品

原作未読。映画館で視聴。

この作品は彼女達の生き様を示したいくつかのエピソードを連ねて纏めた物語となっていた。
雰囲気はサブカルとしてのアニメというよりも、伝記的な芸術という表現という感じ。北斎は誰でも名前くらい聞いたところがあるだろうが、娘がどんな人間なのかは知る人も少ないだろう。
ところどころで現れる有名な北斎の絵と、ただの伝記にはさせないファンタジーらしさがスパイスとなって物語をかざっている。
淡白だけれど、見応えのある映画になっていると思った。

病人を遠ざける北斎と、悩みどころの多いお栄と、目は見えないけれどいろんな事を悟っているおたるのやり取りが、人として重なる部分も多くて、突き刺さる部分も多かった。

声優は有名人を多用していたけれど、お栄を除けばとても自然な演技だった。
お栄役の杏さんは抑揚はついた喋り方ではあったが、役になりきるという点でもう一歩かなと思った。まあ、生い立ちをみればこれ以上の適役はいないと思う。

絵については、
制作がプロダクションIGということでどれだけ派手な動きが見られるのだろう!と期待していたのだが、北斎の絵を利用した絵は印象的であるが、ほぼ特別な動きはなくて少しだけ残念だった。
おそらく、日常の動きの再現度は高いのだろう。自然すぎて気付かないということはよくある。

【10/2の番宣を観て補足】
終盤のお栄が走るシーンは背動だそう。
あの物量と滑らかさは当然CGだと思ってたら、まさか、だった。
また、おたると男の子が雪で遊ぶシーンについても、粉雪を手描きで一粒づつ描いているそう。現状のアニメなら、CGで粉を出していることだろう。
やろうと言った原監督と雪のシーンを担当した井上俊之さんの力量は、完全に常軌を逸していると思った(褒め言葉)

劇中歌はロックできめて、かっこいい雰囲気を醸し出している。
主題歌は好き好みの問題だと思うが、個人的には微妙だった。まあ椎名林檎が好きならば良いのではないか

ところで、私にはこの物語に対する疑問が二つばかりある。
{netabare}一つは、おたるが逝ってしまったあと、北斎の作業場に吹いた突風に対して北斎が「一人でこれたじゃねえか」と行った理由。
お栄とのやり取りはまるで北斎がおたるを腫れもののように扱っている様に見えたのに、その言葉で北斎の人柄が分からなくなってしまった。本当はおたるを気にかけていたとでもいうのだろうか。

二つ目は、物語の最後に時が経って東京になったというくだり。日本の歴史を知らない外国人に対する説明だとしても、あまりに唐突で「え、だから何?」と思わずにはいられなかった。
{/netabare}
最後の最後で躓いてしまったが、全体的にみれば満足な内容だった。
一部エロいシーンがあるので小学生以下にはおすすめしないが、絵に少しだけ興味がある人、もしくは本数を見てきたアニメファンにはおすすめできる一本であった。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 7

かりんとう さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

声優が芸能人だけど…

北斎の娘、お栄が主人公の物語です。

まず声優の話ですが、お栄や北斎など芸能人が演じています。
普段アニメ映画などは芸能人を使ってほしくないって思うのですが、今回は別。

非常に上手く、聞いて違和感がなかったです。
お栄は女優の杏さん、北斎は松重豊さんで二人共素晴らしい演技でした。
前々から"声"に特徴がある方々だと自分的に思っていたので、納得しました。



映画は1話完結もので5~6話くらい短い話が始まりは終わりの繰り返しって感じです。
しかも以外と妖怪や幽霊の類いの話が多く感じました。ちなみに自分は最初の龍の話が好きでした。

作画は Production I.G。
もちろん素晴らしい作画で、ストーリーよりもそっちで見いってしまいました(笑)
ずっと見たかった井上俊之さんの作画パートが見れて最高でした…!!(子供二人が雪で遊ぶシーンあたり)

マイナスに思った点は、音楽です。
状況的に悲しいシーンにも関わらずロックな音楽が流れたりするので違和感を感じます。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 2
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