本屋大賞でノイタミナなおすすめアニメランキング 2

あにこれの全ユーザーがおすすめアニメの本屋大賞でノイタミナな成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年05月04日の時点で一番の本屋大賞でノイタミナなおすすめアニメは何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

81.9 1 本屋大賞でノイタミナなアニメランキング1位
図書館戦争(TVアニメ動画)

2008年春アニメ
★★★★☆ 3.7 (1982)
11546人が棚に入れました
時は2019年、公序良俗を乱し人権侵害の表現を取り締まる「メディア良化法」が施行された現代。
強権的かつ超法規的な「メディア良化委員会」とその実行組織『良化特務機関』の言論弾圧に唯一対抗できる存在、それが図書館だった。かくして図書館は武装し、良化機関との永きに渡る抗争に突入することになる。図書館の自由を守るために。

声優・キャラクター
井上麻里奈、前野智昭、石田彰、鈴木達央、沢城みゆき、鈴森勘司、佐藤晴男、田中理恵
ネタバレ

剣道部 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ただの良作ラブコメですが、何か?

[文量→中盛り・内容→余談が本論系]

【総括】
ジャンルは、(Wikiを見ると)SF、ディストピア、パラレルワールド、アクション、ミリタリー、ラブコメディと、多岐に渡る。

つまり、オンリーワンの作品。

図書館戦争という攻撃的なタイトル、原作小説の厚さや地味な表紙で敬遠しないでほしいな。普通に気軽に楽しめる作品ですよ、アニメも原作も。

《以下ネタバレ》

【視聴終了(レビュー)】
{netabare}
いわゆる、「言論の自由」「表現の自由」などをテーマにした社外派アニメ、なんだろうけど、私は単純にラブコメとして楽しみましたよ(笑)

ヒロインの笠原郁(熱血バカ)はかなり可愛いです!明るいバカって良いですよね♪ キャラデザも好きで、(個人的)歴代好きなアニメキャラで上位に入ります♪ 堂上篤(怒れるチビ)もナイスな奴で、こちらは、同ランキングの男性部門でもかなり上位です。珍しく、応援したい二人でした♪

他にも、小牧(笑う正論)や、手塚(頑な少年)、柴崎麻子(情報屋)など、この( )内の言葉がスバリ的中のキャラ達はみな魅力的です。う~ん、一期尺だったのが勿体ない。

変に社外派アニメと思い敬遠している方がいれば、勿体ないです。単純にラブコメとして、十分に良作ですので、是非、視聴してみて下さい♪
{/netabare}

【余談 ~皆さんは、ゴミクズみたいな人間が作った作品はゴミクズだと思いますか? ~】
{netabare}
まず最初に、「どちらの視点でもOKだ」と言っておきます。個人の好き嫌いで良いでしょう。

その上で、私の意見です。

一応、私は文学部出身ですし、今もまがりなりにも文章に関わる仕事をしているので、この話を酒飲みながらすると1時間は話すので、今回は手短に(笑)

文学を読むとき、「作家論」と「作品論」という2つの立場がある。

「作家論」とは、作品を読むときに、作者を意識して読む読み方。「この表現はこの作者の場合」という読み方。

一方、「作品論」とは、作品を読むときに、完全に作者を意識外に置いて読む読み方。作品自体を純粋に読む。

私は、「作品論」の立場をとっている。理由は、大学の時の師匠(ゼミの教授)がそうだったことと、志賀直哉が好きだから。志賀直哉は、「小説とは作品自体を純粋に評価すべき」という立場をとっていた。

作家を意識するのは、2周目かな。作家が誰かなんて、飲食店の卓上調味料のようなもので、味変に使うくらいがちょうど良い。

ちなみにこれは、私はアニメに関しても同じように考えていて、アニメを観るときは、可能な限り事前情報は入れないで観るようにしている(観終わった後に、色々調べる)。

話は変わるようで変わらないのだが、図書館行って「マジか?」と思うのは、夏休みの(小中学生向け)読書感想文コーナーに、「ノルウェイの森」が置いてたりすること。司書さん、ちゃんと中身読んだかい? 有名作だから、作者が有名だからと、これで感想文提出したら、先生赤面しちゃうよ(笑)

小説は、額縁で高評価も低評価してはいけない。読み、己の感性でのみ語るべし。

例えば、近代文学なんて、作者の人間性を求めたら、ほとんど読めない。太宰治なんてほぼ人殺しだし、島崎藤村の「新生」なんて、姪っ子に手を出してそれを小説にって、オイオイ(汗) しかもそれが、「名作」と言われ、崇められていり。

いや、私はむしろ、近代文学が好き。専門は芥川や川端、漱石、鴎外、志賀、太宰なんかだし、彼らの狂ってる感じをむしろ愛おしいと思って読んでる。

ところが最近は、あまりにも文学に道徳性を求め過ぎに感じがする。

元々、文学とは不道徳、否社会的なものだった。近代の小説家なんて、当時の社会ではアウトサイダーが多い。古典に関しては、庶民とは乖離したところに文学があったわけで、そこから人々が何かを学ぼうという概念すらなかった。

川端は、「小説には作家の孤独の影がある」と述べているが、正にその通り。元々(純)文学なんて、ごく個人的なもので、エゴイスティックなもの。だのに、いつの間にか、「良い話」を期待され、勉強の「教材」にされることが増えてきた。

文学なんて、酒や煙草と一緒で、嗜好品でしょ?

以前、私の好きな作家が逮捕され、全国ニュースになり、その後、書店から彼の本が消えた。私はそれに、怒りを感じた。

「作者に罪はあっても、作品には罪がない」「だったら芥川や大宰の小説も全部撤去しろや」と。

(勿論、彼の犯罪自体を肯定するつもりはない。被害者もいる。だから彼はきちんと捕まり、罪を償う必要があるが、だからといって、彼がこれまで書いてきた作品を、全て無かったことにするのが正しいとも思えないのだ)

きっと、こんなことが国会権力により、更に広範囲に行われるのが、「図書館戦争」の世界なんでしょうね。原作の有川さんも後書きで、「こんな世界は嫌だな~」と述べてますが、全くの同感です。

でもそれこそ、「嫌だな~」程度のもんで、銃をぶっぱなす程のことではない(笑) それに、「コンビニにエロ本」置くのは、私も嫌ですし。「成人向け書店で売れば?」とも思う。

まあでも、もし今規制するなら、本よりネットですけどね。有川さんには悪いが、悲しいけど本にはもうそこまでの力はない。スマホ買ってビックリしたけど、「これ(画像)を小中学生も普通に観られるのか~」と思うと、流石に「日本、大丈夫か?」と心配になってしまいますが(汗)
{/netabare}

投稿 : 2024/05/04
♥ : 40
ネタバレ

イムラ さんの感想・評価

★★★★★ 4.7

表現の自由のためにミリタリーで闘うラブのコメ

2021/5/29 追記>
今日「ノイタミナpresents シネマティック オーケストラコンサート」ってのに行ってきました。
ノイタミナ放送開始15周年を記念してのコンサートだそうで。
「図書館戦争」「四月は君の嘘」「約束のネバーランド」三作品のOP曲、ED曲、劇伴曲のクラシックアレンジをオーケストラで名シーンの映像とともにお届けする、というものです。

君嘘と図書館戦争好きなんで行ってきたんですが、予想外に良かった!!!

生のオーケストラはやはり迫力があります。
その演奏とテーマごとに丁寧に編集された映像がうまーくマッチしている。
タイミングもぴったり♪

図書館戦争の映像見るの久しぶりだったんですが、こうして見ると{netabare}郁と堂上{/netabare}の熱血ラブコメですね
熱量と糖度激高で成人病が心配笑。
久しぶりに視てみたくなりました。

<補足です>
こういうご時世、徹底したコロナ対策が施されてました。
会場に入る時、アルコール消毒、検温はもちろん。
座席は半分間引いて一列空け。
登壇者にMCなし。曲目の説明もなし。
淡々と映像を流し、ストイックに演奏する。
一曲終わるとオベーション。
聞こえてくる声は休憩時間を告げるスピーカーからの案内のみ、という徹底ぶり。
おかげさまで安心して楽しむことができました。

<2019/1/7追記>
CS-333(AT-X)で1/12(土)20:30から再放送が始まるそうなので番宣です 笑

詳細は去年書いたレビューが下の方にありますのでそちらでどうぞ。

設定に変わったところのある作品ですが、
とにかく甘いラブコメを堪能したい方は是非お試しください。

見てるとたぶん
「ここに乙女がいまーっす!」とか
「あっまぁーーーい!」とか
「ハンバァーーーグッ」とか
叫びたくなること請け合いです


<2018/4/27初投稿>

有川浩原作小説のアニメ化。
今からちょうど10年前です。

有川浩さんというと自衛隊三部作(「塩の街」「空の中」「海の底」)のようなちょっと不思議なミリタリー&LOVEが基調の作品をイメージしてしまいます。
「図書館戦争」はそんな有川浩さんの代表作。
表現の自由のためにミリタリーで闘うラブのコメです。

舞台は現在に極々近い未来の、でも現実とは少し事情のことなる架空の世界の日本。
(wikiで調べたら2019年ってことになってるんですね)

何が違うかというと、その世界の日本では"人権を侵害すると国が判断した"表現を規制する「メディア良化法」が施行されています。
メディア良化法に基づいて国は「メディア良化隊」を立ち上げあらゆるメディアの検閲を暴力的に行なっています。
プチ軍事力をもって。
恐ろしい。
(といっても現実だって知らんうちに言葉狩りが進んでいる昨今。事態はあんま変わんないですね。
暴力が付いて回っているか、いないか、だけの違い。)

そんな「暴力的な検閲」に対抗し「表現の自由」を守るため、図書館が立ち上がります。
その対抗手段が「図書館の武装」
法的な裏付けもとりつつ、図書館は図書隊を立ち上げ武装を進めていきます(マジかおい!)

つまりこの物語は
「武力による検閲に対する武装した図書館のレジスタンス」

最初見る人はこの設定にびっくりしてしまいますが、これにだんだん馴染んでくるとこの作品が楽しくなります。

この作品をこれから視ようという方は上記の突拍子の無い設定を予備知識で持っておいた方が良いと思います。


と言ってもですよ。
この作品の魅力の半分はさらに別のところにあるんですよ。

それは「ラブのコメ」

図書館の戦闘部隊「図書隊」の以下の5人を中心に物語は進んでいきます。

主人公:笠原郁♀「熱血バカ」22歳、身長170cmと長身
図書隊の新人。脳筋。意外と乙女。

堂上篤♂「怒れるチビ」27歳、身長165cm
郁の上官。真面目、誠実、責任感強い、よく怒る(郁に)

小牧幹久♂「笑う正論」27歳、身長175cm
堂上の同期で同僚、同チーム。穏やかで冷静、笑い上戸

手塚光♂「頑なな少年」22歳、身長180cm
郁の同期で同チーム。万能の優等生。

柴崎麻子♀「情報屋」22歳、身長157cm
郁の同期で寮のルームメイト。良いオンナ。ちょっと不二子っぽい。声も今の不二子でしたね。情報通。

他にも多数出てくる登場人物も交え、シリアスなエピソードに絡めるようにしてLOVEがコメディな感じで展開されていきます。
それもカロリーバカ高のとっておきに甘ーいやつ。
むしろこっちがメインじゃないのか。

人の気持ちの揺れ動きなども繊細に描かれていて、そうしたところも○

まとめると、
表現の自由という、現代社会がひっそりと抱える深刻な問題に焦点を当てながら、人間ドラマとミリタリーな濃厚LOVEコメが楽しめるという、無国籍料理のような味わいの一品です。

私はどハマりしました。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 66

にゃんた さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6

視聴スタンス次第

2011.4.18第1レビュー
2012.3.12第2レビュー
(原作未読)

★結論★
「教官!私はドジでノロマな亀・・・&戦闘シーンもあるよ!あ、あと、表現の自由は大事だよね!」

背後にあるメッセージに着目すると、あまりにも浅くてお粗末だが、
肩の力を抜いて、難しいコトを考えずに気楽なラブコメだと
思って観れば、満足できる作品だと思う。

★以下、詳細★
恋愛コメディ要素と軍隊バトル要素、青春成長要素を含めた作品。
すべての要素がある程度の作り込みで、一応満足できるが、
結局どっちつかずの印象もある。

もっとも、これが制作者の狙いなのかとも思う。

つまり、作者の伝えたいメッセージを、より多くの人に伝えることが目的なのであるから、
そのための手段として、多くの人に受け入れられやすい平均的で無難な作りにする必要があったのだと思う。

その点では、
「表現の自由の危機を、より多くの人に知ってもらう」
という、作者の目的は十分果たせたのではないだろうか。

ただ、肝心のメッセージ部分が浅くて薄い。
たしかに、多くの人に知ってもらうために内容を簡素化するのは、
1つの方法だとは思う。
しかし、そのために一番大事なメッセージ部分まで簡素化してしまっては、
本末転倒なのではないだろうか。
それとも、作者はこの問題について、この程度の理解で問題提起をしたのだろうか。

(或いは、原作者はしっかりと書いていたが、アニメ化するにあたり、
話数の都合で浅くせざるを得なかったのかもしれない)


この作品のメッセージ部分は、
「表現の自由が、国や自治体の規制によって危機に瀕している。
表現の自由を守らなければならない!」

という主張なのだが、
これが極めて一方的な主張に過ぎず、説得力が弱い。

ある主張をする場合には、自分の主張だけを声高に主張するだけでなく、
反対側の立場の意見を考慮したうえで、
さらにそれを上回る反論をして説得力を増す必要がある。

本作品には、そこがまったくない。

主人公サイドの掘り下げはあったが、敵対組織サイドの掘り下げがほとんどない。
敵側人物の掘り下げをすることで、メッセージの説得力も増すし、
アニメ作品としても面白さが増したのではないかと思うのだが・・・。

表現規制の合憲性という、最高裁でもたびたび争われてきた深い問題について、

表現の自由を守る側=善 規制する側=悪

という単純な構図で描かれていたように感じられたのが残念だった。


★さらに詳細(表現の自由に関する問題点)★

~問題点~
出版物について、
その内容や描写が「有害である」との指定をして販売を規制するのが、
問題となった条例のおおまかな内容です。

~規制する側の言い分~
エロ本、エロマンガ等を野放しにすると、
青少年の健全な成長に悪影響を与えます。
青少年は保護しなければなりません。
悪影響を与えるような本は、
「有害図書」に指定して、出版方法を規制しましょう。


~規制される側の言い分~
エロ本じゃなくて芸術なんだ。表現なんだ。
「有害図書」とか、お前が決めるな。
規制されるかもって不安があったら、自由に作品を書けなくなる。
また、青少年にも、色々な出版物を読んだり知ったりする権利があるんだ!
それに、一律に規制したら、関係ない成人にも影響するんじゃない?


両者の言い分は、どちらが正しいのか?
それらをどのように調和させていけばいいのか?


最高裁は、平成元年の判決で、
岐阜県の青少年保護育成条例について
憲法に反していない、という判断をしました。

この判決(の多数意見)は、条例が憲法違反となるかどうかについて、
明確な判断基準を示していないと言われています。

このような判決の下では、同じような条例がどんどん制定されたり、厳しく改正されやすくなるかもしれません。
表現の自由や知る権利が無防備に規制される可能性があります。
そして、東京都で改正された青少年育成条例の問題がマスコミ等にも大きく取上げられました。

ですので、このアニメの良化委員会が「公序良俗!」だけを理由にどんどん規制をしてくる姿勢は、
実は、このような不安定な状況まで含めて表現している、とも受け取れます。

・・・もっとも、この作品が、判例解釈まで含めた深い考察をしていたかについては、かなり疑問ではあります。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 26

73.7 2 本屋大賞でノイタミナなアニメランキング2位
舟を編む(TVアニメ動画)

2016年秋アニメ
★★★★☆ 3.7 (667)
2928人が棚に入れました
三浦しをんさんの小説「舟を編む」が原作。

玄武書房に勤める馬締光也(まじめ・みつや)が、辞書編集部で新しい辞書「大渡海」を編集することになる……というストーリー。定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる学者、徐々に辞書に愛情を持ち始める“チャラ男”など個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。

声優・キャラクター
櫻井孝宏、神谷浩史、坂本真綾、金尾哲夫、麦人、榊原良子、斎藤千和、日笠陽子
ネタバレ

ブリキ男 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2

色盲の人に色という概念を伝えるにはどう説明したらいいと思いますか?

原作は三浦しをんさんの同名小説。2013年には実写映画化もされたそうです。

辞書の編纂者として抜擢された、生真面目かつ※1エキセントリックな印象の馬締光也(苗字はまじめと読む。そのままじゃないか‥!)と、その同僚で、いかにも世渡り上手な軽~い印象の西岡正志、二人青年を中心に描くお仕事の物語の様です。

耳に心地良い言葉と言うのは簡潔な表現である事が多いもの。アニメとか映画を見ている時に、台詞を聞き逃したり、見逃したりする時、そんな場面には必ずと言って良いほど、独白や会話の中に耳慣れない表現や珍しい単語が含まれるものです。

複雑に入り組んだ言葉の連なりにはそれを口にする人の個性や心情が如実に表れ、時として人物描写をより精彩のあるものとして際立たせますが、一方で不明瞭な表現と取られてしまう可能性を多分に含んでおり、視聴者にとっては優しく無い表現とも言えます。比べるべくもありませんが、それよりもずっと酷いのは、簡潔に表現出来る事柄を難解な言葉で表現するという行為で、これは不合理この上無く、またひどく滑稽なものです。

辞書を編纂するという行為は上記の真逆。言葉の持つ本来の意味、精髄をいかに簡潔な言葉で短くまとめるかに重点が置かれた作業と言えます。

誰が読んでも理解出来る文章を作るというのは簡単な様で難しいもので、誰々だったらどう解釈するのかな?とか、子供だったらどう思うのかな?とか‥、出来得る限り他者との隔てを無くす必要があります。自身を他者に投影するのではなく、他者を自身に投影しなければなりません。独り善がりの表現は禁物なのです。

ブリキ男は過去に知人から「※2色盲の人に色という概念を伝えるにはどう説明したらいいと思う?」と質問された事がありますが、難しい質問だなぁと思った後、ちょっと想像力を働かせて、色盲の人になったつもりで考えてみる事にしました。すると自然と視点は変わり、色という概念を形状や濃淡などの視覚的な認識の一種として広義に解釈する事によって、どうにか説明に至る事が出来たのです。皆さんは"色"をどういう言葉で説明しますか?

作中にて馬締さんが"右"という言葉に与えた定義、これも同様で、"箸を持つ手"や"心臓の無い方"では不十分。左利きの人にも、心臓が右にある人にも、万人に分かる"右"で無くてはなりません。彼の"右"に与えた明瞭な表現、お見事でした。本編にてご確認下され。
{netabare}
馬締さんの"右"の定義、良く考えたら宇宙空間とか他の天体上(系外惑星とか自転していない星とか)では通用しませんでした(汗)壁掛け時計を正面から見据えた時の3時(左なら9時)の方向という言葉で端的に表せますが、エレガントではないですね‥まぁ宇宙で"右"の項引く人なんて皆無でしょうが‥(笑)
{/netabare}
2話の感想とあれこれ
{netabare}
「大渡海」編纂の志、とても崇高なものですが‥優れた辞書があっても言葉の海をすいすいと渡れるのはその辞書を持っている人に限る‥。値段張りそうだし‥。今ではオンライン辞書もかなり役立つし、こういう辞書手に取る人は限られるのかも‥。タウンページの配布とか毎年いらないから、5~6年に1回でもいいから、税金使って各家庭に一冊ずつ国語辞典の配布して欲しいとか思ったりしました。

ちなみに私が今良く使っている国語辞典は「明鏡国語辞典[携帯版]」。2003年出版の定価3000円のやつですが、今だったら中古で何と200~300円程度で手に入る! 古いからってあなどれない、中々のスグレモノなのでオススメです。常にネットにアクセス出来る環境をもっていないので、割と重宝しています。

本はあれこれ読んでいるけど人付き合いの下手な私は、馬締さんに他人とは思えない様な親近感を抱きました。見守っていきたいと思います。
{/netabare}
3話の感想
{netabare}
どんな男だって、夜ベランダで突然女性と出くわしたらびっくりするだろうと思いますが、朝玄関先で会ってもあからさまにたじろぐとは、馬締さん、どういう学園生活を送っていたのだろう? ちょっと気になりました。何というか、好きな子にばったりと出くわした時の高校生並みの反応‥。

作中で描かれた様な一目惚れを推奨する描写は、私的には手放しでは賛同はしかねます。周囲の人達も馬締さんの恋愛に関して全肯定で、当然の様に応援するし‥。なんかサザエさんとか、ちびまる子ちゃんとか、大衆向けアニメで描かれがちな本質の良く見えない恋愛観を見ている様でした。‥本をたくさん読んでいる人って、人の事を良く観察する癖が付いたり、懐疑的になったりする事が多いから、もうちょっとユニークな価値観を持っているのでは? とか思いました‥。

松本先生の辞書編纂に対する姿勢。恋愛も含め、視野を広く持つ必要があるという意見には納得‥でも終幕のテロップの恋についての説明が微妙‥。

「人を好きになり、いつまでもそばにいたいと思う気もち」

"いつまでもそばにいたい"って、相手の事がある程度分かってくればそうなると思いますけど、知り合ったばかりの片思いの段階では、話したり、顔を合わせるのが恐かったり、逃げ出したい気持ちになる事だってあると思います。大雑把過ぎる印象を受けました。

わたしが恋の項を書くとしたら「主に異性に対して抱く病的な好意、または独占欲。」とします‥が、こんな冷たい言葉で綴られたら恋という文字が可愛そうですね(汗)
{/netabare}
4話の感想
{netabare}
今回は西岡さんの有能さが発揮されるお話。この人もまた馬締さんに負けじと劣らず仕事熱心な人でした。「大渡海」編纂中止を阻止すべく奔走します。初回の印象からはとても想像出来ない機転と行動力を見せてくれました。適材適所とは正にこの事。誰かに出来ない事を誰かがやる。そうやって上手いこと歯車が噛み合う様に、人間関係が絡み合ったら世の中もっと円滑に回るのに‥。理想的なチームの一端を見た様でした。

でも西岡さんのやった様な会社の利益に関わる独断専行をしたら、現実ではどうなるのだろう? 私には分かりません。作中の人物の台詞にある様に「ただでは済まない」事になったりして‥。

続く馬締さんと香具矢さんのデートのシーン、偶然と、半ば強引に引き合わされた二人ですが、言葉の分かる異性と会話出来るって事は嬉しい事ですよね‥。二人を応援したくなる周りの大人たちの気持ちも何となく分かってきました。(大人の癖に何を今更‥)

そしてお約束の最後のテロップ、今回は「漸進」でした。

「漸進」の「漸」の文字は水の流れを切って徐々に導き通す事を意味し、そこから「だんだん」とか「次第に」という意味に変わっていったそうです。

作中では「立ち止まらず、少しずつ進む事」とありますが、前回の「恋」に続いてかなり淡白な表現という印象‥。導き通すという所が欠けていますが流れる水のイメージは感じられるので無難な解釈なのかも知れません‥。

言葉の意味を端的に表現する事は辞書編纂において重要な事だとは思いますが、要約が過ぎて本質から外れた意味を持たせると、言葉の精度が落ちてしまう気がします。かと言って複雑過ぎると編纂者の主観が強くなってしまう‥馬締さんの様に活字に耽溺した者のみが持つ微妙なバランス感覚が必要な様です。

「鏡の国のアリス」に登場するハンプティ・ダンプティは、言葉に給料を払えば、その言葉に好きな意味を持たせる事が出来ると豪語していますが、そんな話も少しだけ思い出してしまいました。

※:エンディングの語釈は「三省堂国語辞典」を参考にしている様です。シンプルな語釈で有名な辞書だそう‥。わたしは持ってません(笑)
{/netabare}
5話の感想
{netabare}
馬締さんの恋文は試金石の様なものかも知れませんね。受け入れてくれる人がいれば運命の人、そうでなければ縁が無かったという事‥。自分を偽ればいつか必ず綻びが生まれて後々大変な事にならないとも限りませんので、意外と相手の心を確かめる懸命なやり方なのかも(笑)

揺蕩う(たゆたう)‥ゆらゆらとゆれる。説明これだけでいいんでしょうか? これじゃあ"ゆらめく"と同じ気がします(汗)
{/netabare}
6話の感想
{netabare}
一目惚れに近い感じの馬締さんもそうですが、恋文なのか何なのか分からなかったのに、伝わってきた真剣さだけで「好きです」って言ってしまえる香具矢さんにもちょっと軽薄な印象を受けてしまいました‥。現実ではそうやって付き合い始める人も多いかも知れませんが、ちょっとこの物語にそぐわない恋愛の描き方だった様に思います。お互いの事をまだ良く知っているわけでも無いのに、決断が早過ぎて思慮深さに欠ける印象を受けました。

共振‥前回に続いて他の語に簡単に置き換えられてしまう語釈でがっかり。共鳴と置き換えても差異が全く無い表現でした。言葉を扱う物語なのだからこういう細かいところにも気を使って欲しい気がします。
{/netabare}
7話の感想
{netabare}
大渡海の執筆依頼を受けていた小田先生の原稿が届くお話。

小田先生、伝えられた執筆容量を無視している上に、馬締さんにダメ出しされまくり‥。この人、名声とかはあるのかもしれないけれど能力は甚だ疑問でした。それに人に土下座させて喜ぶ人の精神構造って、小中学生とかのいじめっ子並みに幼い気がします。要はどっちが偉いかという事を確認して喜ぶおばか思考‥。視野が狭い人の様です。

元々商売としての意義は見出せない大渡海編纂なんだから、権威は無くとも若い人の中から優秀な人材を探すべきだった気がしないでもないです。最初から足手まといにしかならないこんな人に頼まなきゃいいのに‥とか思ってしまいました。でも現実ではコネとかで物事が進む事は良くあるので、ある意味リアルな描写なのかも知れません‥。

馬締さんと西岡さんコンビの「西行」修正シーンは、この作品ならではの面白さを見出せて大満足でした。文字の海の中で戯れる二人の姿は素敵なおもちゃを与えられて喜ぶ子供の様でした。

「遍歴する人、流れ者」という拡大解釈を追記するに至った動機については、西岡さんの「この意味を載せれば心強く思う人がいる」という情に偏った意見に依存しますが、客観性をそれほど無視した選択ではないとも思われたので好感が持てました。

ただ今回の山場、西岡さんの小田先生へ向けた止めの一言「地球のコアより固く、マグマより熱い」という大仰な表現については蛇足気味で、あまり心に響きませんでした。こういう"してやったり"な展開自体わたしは好きではありませんが、最後の台詞がバトルものにありそうな大見得なのでさらに残念。人物や作風にそぐわない気がしました。
{/netabare}
8話の感想
{netabare}
馬締さんと香具矢さんいつの間にか結婚してる(笑)というのは置いといて。

終幕近くのシーン、辞書編集部に新しく入ってきた岸部さんの"右"の説明が1話の馬締さんのものと同じだった点には作為的なものを感じました。性別の違いも経験の違いもあるし、あれこれ違っても良かろうと思われました‥。違った説明を考えるのが面倒なのと、それに続く西岡さんの「君、辞書向いてるよ」という台詞を言わせたかっただけの様に邪推してしまいました‥。

お約束の終幕の語釈について、今回は"編む"でしたが、「文章・歌などを集めて本にまとめる」との事。編むには当然他の意味もあるので、いくつかある語釈の内の一つだとして、それでもかなり雑な印象を受けました。

先ず文章と歌という語が並列に扱われているのがおかしいのと、用例もそれに合わせて「辞書を-」となっている所に強引さがあります。

"など"と入っているので文章という語と用例の辞書からは離れて、歌と並べて記すなら"物語"とし(他に"思想"とかもあるけれど‥)、文章という語は完成品を指す語なので後に置くのが適切かと思われます。二つ例を挙げると‥

「物語、歌などを集めて本にまとめる。」

「物語、歌などを文章にして本にまとめる。」

となりました。まぁ、いつもながら要約し過ぎな気もしますけれど(汗)
{/netabare}
9話の感想
{netabare}
前回に続き製本までの流れを描くお話。

西岡さんのいたずらは端的に馬締さんの性格を伝えようとした試みかも知れませんが、ラブレターのコピーを無断で読ませるって結構ヒドイ気が‥。西岡さんだからしょうがないんですが(笑)

松本先生の"言葉を大事にする"の説明シーン、内容そのものはなるほどと思わせるものでしたが、先の恋文の話の続きとしてみると、流れが間逆の方向に進んでいる様で若干の違和感がありました。馬締さんは例の恋文の中で言葉を大事にしていたのだろうかと‥。

後半、あけぼの製紙の宮本さんが岸辺さんをデートに誘うお話と予期せぬトラブルのお話がありましたが、ドラマ部分はやはり、毎度の取って付けた感があり馴染めませんでした。後者については編纂作業にPCを導入していれば回避出来たかも知れない問題なので、辞書編集部の頭の固さに閉口(汗)作業効率も格段に上がるでしょうに何故そうしないんでしょう‥理由は不明。

文章について、専門書など特定の読者層を想定して編まれた本と違って、辞書やこのレビューの様に、不特定の読者に向けた文章というのは平易な文体を心掛ける事は元より、多くの人にストレス無く読んでもらえるよう、専門用語、難解な表現は極力避けて綴られねばなりません。かと言って平た過ぎる文章には面白みが無いし、情報の詰まった文章というのは面白いもの。やはりバランスが肝要‥。

万人に理解されうる文章にする為には語彙を限定せねばならず、そうすると必然的に表現の幅が狭まり、大まかな意味は伝わっても精密さの欠ける曖昧な文章となってしまいます。逆に馬締さんの恋文の様に知力を総動員して綴った文章では理解が困難になる可能性が生じます。

言葉は生き物と作中にありましたが、その生き物を使って生き物である人間に意志を伝えるという難しさ、今もまたひしひしと感じるブリキ男なのでした。
{/netabare}
10話の感想
{netabare}
大渡海に"血潮"が抜けていたので再チェックというお話。

これまでのお話で既に語られた、未だに用例カードの集積をデータベースとして利用しているという設定にも驚きましたが、今回の24万語の手作業によるチェック作業もかなりきつそうでした。作業量もさる事ながらヒューマンエラーによる問題が次々と出そう‥。時代設定が現代であるという事も相まってPCを利用せずに行う人員を動員しての力技にはやはり前時代的な印象がありました。

日本では辞書などの手書きデータの電子化は80年代あたりから着々と進んでおり、1985年三修社によって発売された日本最初のCD-ROMコンテンツ「最新科学技術用語辞典」を皮切りに、翌々年1987年には「広辞苑第三版CD-ROM版」が発売されていたとの事。当時富士通のワープロ専用機(価格が200万円位もしたらしい)のソフトとして利用可能だったそうです。

現場の事など何も知らないわたしとしては、上記の流れからすると電子化作業は現在ではとっくに完了している様にも思えてしまいますが、実際の所はどうなんでしょう? 近い未来に紙媒体の印刷物自体が無くなる事など、まずあり得ませんが、作業効率の向上や生産コストの削減という観点からすれば、電子化は必然の成り行きとも言えるので、今回の様な時代錯誤とも言える非効率なやり方にはどうしても疑問を抱いてしまいました。

終幕の語釈については特に思う所が無いので今回もはしょります。
{/netabare}
11話の感想
{netabare}
後半の松本先生の死、「大渡海」初版刊行のお話はエピローグ扱いと受け取り、私は前半の松本先生の家の縁側のシーン、延いては荒木さんと真締さんが駅のホームで言葉を交わすシーンをこの作品の終幕と受け止めました。

松本先生の話によれば、日本では辞書編纂に公金が使われた例は皆無との事、それゆえ権威付けや支配の道具として使われる事も無いという‥。以前私はこのレビューで"タウンページの代わりに辞書を配って欲しい"と考え無しに綴ってしまった事がありましたが、いつもながらに浅知恵でした。

日本では一般的な書に関しては、人権侵害や著作権の侵害による出版の差し止めを除き、検閲が禁止されているため、法制度上の発禁は原則として存在しないというのが建前だそうですが、菊タブーだの鶴タブーだのという、いくつかの言論の禁忌に当たるものも確かに存在し、それらを避けなければならない暗黙の了解もある様です。報道についてはその傾向が特に顕著だそうな‥。責任の所在はマスコミ自体にあるそうですが、暴力的なものも含め様々な圧力が掛かる中で公正な記事を書くというのも難しい事なのだと推察されます。

言葉によって綴られる文章の内容については言うまでもありませんが、言葉そのものにまでその様な規制が掛かってしまうと、さらに窮屈この上ない社会になってしまいそうですね‥。松本先生の懸念はもっともな事だと思いました。

「大渡海」出版を待たずして逝ってしまった松本先生でしたが、生前に自分の仕事を引き継いでくれる荒木さん、真締さん、西岡さんを始めとする何人もの人たちと出会えた事は幸運であったと思います。「循環する命の営みほど我々にとって励みになるものはありません。」と話した松本先生は、辞書作りには完成が無い事を誰よりも深く理解してました。世には辞書編纂に限らず様々な未完成品が存在しますが、個人の死により永遠に未完となるものもあれば、引き継がれ完成に至るものもあります。松本先生は引継ぎ先を、命のバトンを渡すべき相手を見つけ、心安らかに息を引き取っていった事でしょう。結果よりも過程に意味があると常々考える私はそう信じます。

人の命もまた、廃れ編み直される辞書の如きに死に生まれ行くもの‥。定まった目的に向かって進む事も時として大事ですが、毎日を悔いなく過ごす様に努める人生の方にこそ真に尊いものがあると改めて教えられたブリキ男なのでした。
{/netabare}

主人公の馬締さんの声を演じるのはサイコパスの槙島聖護役でも有名な櫻井孝宏さん。西岡さん役は、こちらも言わずと知れた人気者、神谷浩史さん。それにしても馬締さんど~りで堂に入った話し方をする訳で‥紙の本とはよほど相性の良い方の様です(笑)朗読とかドラマCDとかの語りが好きな方なら櫻井孝宏さんの淡々とした言葉運びを耳に心地良く感じる事でしょう。

起伏のあるドラマを期待出来る様な作品では無いと思いますが、台詞そのものと落ち着いた作風に魅力を感じました。目に楽しいねこさん作画、丁寧なお料理描写も相まって、最後まで飽きずに視聴する事が出来そうです。

最後まで観終えて、一足飛びで目まぐるしく進む展開には戸惑いを覚える事もありましたが、辞書編纂というお仕事の一端、それに掛ける人々の情熱、真摯さの伝わってくる素晴らしいドラマだったと思います。

アニメのキャラについつい敬称を付けたがるわたしですが、それも極々自然な事と今更ながら確認出来たアニメでもありました。松本朋佑というキャラに対しては"松本先生"と言う呼び方以外は考え付きませんでしたもの‥。本作の落ち着きのある作風を根幹から支える、自ずと敬意を抱きたくなる好人物でした。


※1:奇人、変人と訳される事もあるあまり有り難く無い言葉? 女性名詞"不思議ちゃん"もこれに含まれるらしい。

※2:知人は白と黒しか知覚出来ない全色盲を指していた様でした。

※:"舟を編む"と言う言葉、ちょっと不思議な響きですが、編む様にして作られる舟は実在します。私が知っている限りではアリュート・インディアンの作る伝統的な船"バイダルカ"がそれに当たります。無数のパーツを何本もの紐でしっかりと結わえ付けて作られる、剛性、柔軟性を備えたカヌーで、"バイダルカには間接がある"とまで称されています。

アニメとは全然関係ないけれど、ケネス・ブラウアー著「宇宙船とカヌー」に詳しい描写がありますので、ご興味が湧いた方は是非ご一読を。素晴らしい書です。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 56
ネタバレ

剣道部 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

「超エモい」は、「マジヤバイ」であり、「いとあはれ」でもあった。

[文量→大盛り・内容→雑談系]

【総括】
辞書作りに邁進する社会人にスポットを当てた、オンリーワンの作品。ノイタミナらしく、大人で、静かな魅力があります。

原作既読。アニメはかなり丁寧に、原作を大切しつつも、アニメーションとしての良さを出そうとして作られていた印象です。このアニメの出来自体にはなんの不満もないんですが、それでも言いたい。

「原作を読んでほしい」

レビューでは、その理由や、原作との印象の違い
アニメの感想などをざっくばらんに。


《以下ネタバレ》

【視聴終了(レビュー)】
{netabare}
日国(にっこく)と聞いて、何を思い出しますか?

そこで、「日本国語大辞典」という貴方は、さては文学部(もしくはよほどの国語好き)ですね(笑) 

「日本国語大辞典(日国)」は、全14巻(本編13巻・別巻1)、50万項目、100万用例を収録し、別巻には漢字索引、方言索引、出典一覧を収録する、日本最大級の辞書です。

あの重厚感のある深緑色の辞書は、学生時代にだいぶお世話になりました。小説を読んでいて、分からない言葉が出てきたらとりあえず日国を引く。今思えば、不思議とネットや電子辞書は使ってませんでしたね。身近に図書館があったのもあるけど、やっぱり私は、紙の本が好きなんですよ。未だに、電子書籍には手を出せてませんし。

という私にとって、元々興味があった作品。ただ、原作を読んだとき、「アニメにする必要はない」と思ってはいました。明らかに実写向き。それはアニメを観た後でも変わらないのだけど、それでも本作をアニメにする価値があるとすれば、

「なんか、良いよな、社会人」

と、子供達(高校生~大学生)が観て感じてほしいということかな。「職業に貴賤はない」という言葉があるけれど、働くことの楽しさ、やりがい、眩しさ。それを感じてほしいな~。

辞書編集なんて、本当に地味でこの上ない仕事を、ちゃんと熱く格好良く描けています。

子供達(小中学生)は別に良いんだけど、大学生くらいになってまで(実力も実績も努力も足りないのに)、「プロ野球選手になりたい」的なことを思っている、オシャレなところ、花形なところ以外は仕事だと思っていないバカがいますよね、いっぱい。

仕事なんてのは、(どんなものでも)必死にやっていくうちに段々面白くなっていくものだし、真剣にやっても何も面白さを見出だせないなら多分、自分が面白いと思っていたことを仕事にしたとしても、次第に楽しめなくなってくる人だと思いますよ。

だからこのアニメで、特に西岡を観てね、良いな~と思ってほしいな~。大人も充分に楽しいんですよ、人生は。

さて、原作好きからして、アニメとの違いだけど、細かなところは置いといて(以下は原作ネタバレありです)、

①西岡の活躍が増して、馬締めの心理描写が減った。
②佐々木さんが明るい

かな、気になったところは。

原作は小説媒体だけに、心理描写が厚い。特に馬締。

原作は掛け値なしに馬締の物語でした。

静かに、しかし情熱と拘りをもって辞書を作ります。香具矢への恋慕(ちなみに原作だと、香具矢が夜這いをかけて童貞喪失で、恋文の返事が夜這いというのはインパクトでかかったけど、不思議と魅力的なヒロインだったんですよね)、西岡との友情が、地味な作品を彩ります。

ただ、馬締は元々寡黙なキャラクターだから、会話文を拾っていけば、アニメのように少し薄味になってしまいますね。まあ、それを補うように西岡が原作以上に格好良く描かれていましたけど。

あと、佐々木さんは、原作だともっと地味で、居るのか居ないのか分からない、熱量もそこまで感じないんですよ、途中まで。だからこそ、少ない決め所をバチっと決め、契約社員だけれど熱意をもった仲間なんだよなという感じがして、好きなキャラでした。

アニメだと、口数が増えたというか、明るくなったというか、正社員感っていうか。

まあ、だから嫌ってことではなく、「アニメにしようと頑張っているな~」と、生暖かく観ていました。

岡崎体育さんのOPも、正直アニメの世界観には合ってないです。作中で文字が乱れ飛ぶような演出もあらましたが、それら全て、この地味な作品を、なんとかアニメーションの枠の中で表現したいと、制作の頑張りを感じました。

それでも、私が「原作を読んでほしい」としたのは、この作品最大の魅力が、三浦しをんさんの紡ぐ、透き通るような文体、日本語のリズムにあるからです。これは、上手く言葉にすることができず、ましてやアニメでは表現しきれない「小説の強み」と言える部分なので、実際に原作を読んで頂くしかない。

よくアニメ化される有名な小説家といえば、森見登美彦さんかなと思いますが、彼の、少し酔ったような、非常に個性的な文体(も勿論好きですが)とはある意味真逆で、とてもシンプルで読みやすい。スッと心に入ってくるような、透明感がありました。言葉の流れに無理がないから、小説の世界に没入できる。

この小説を読んだのが4~5年くらい前ですが、その年に読んだ小説としては一番楽しめました(ちなみに、この本の前に、「スクラップアンドビルド」「火花」と話題作を読んでいましたが、あの2作はあくまでアイディア賞であって、文章の上手さという点では、あまり感じませんでしたね。ただ、本作が楽しかったからその直後に読んだ「風が強く吹いている」では、ちょっと稚拙というか、そこまで美しい日本語の流れを感じなかったので、三浦しをんさんが本来持っているものというより、本作までに成長されたのかなと思いました)。

やっぱり、1クールのテレビアニメに一番向いているのは、1巻で完結している小説なんじゃないかなと思いました。小説原作のアニメ、もっと増えて欲しいです。

レビュータイトルにしたのは、最近読んだ新聞の記事から引用。当たり前だけれど、言葉は変化しながらも、人の心には変わらない部分がある。それを端的に表現しているなと思いました。

ただ、SNSや交通機関の発達により、言葉の変化はこれまでにない速度で進んでいます。これから、どこに行くんでしょうね、日本語は。

日本語を愛する立場としては、世界の中で1国しか使っていないこの小さな舟が、英語という大波に飲み込まれて沈没しないことを、切に願っています。
{/netabare}


【各話感想(自分用メモ)】
{netabare}
1話目 ☆4
作画は綺麗だな。渋い、小説より地味なアニメってどうなのだろう(笑)

2話目 ☆4
言葉は舟、全くの同感。追いやられたのではなく、残った。恋愛模様は、なんか思ってたのと違うな~。

3話目 ☆4
童貞は、辞書作りの障害(笑) 何気に、松本先生、好き者だよな(笑)

4話目 ☆4
デート。2周目(笑)

5話目 ☆4
なんか、良いよな、社会人。そう、子供達に思ってほしい。Cパート、このコピーのシーンが実は重要なシーンになるとは、、、誰も分からないよな(笑)

6話目 ☆4
実は必要とされてた、喜び。童貞卒業シーンは、描くのかな?

7話目 ☆4
彼女の足の短さを笑顔で見られるのは大事だよな。西岡、良いキャラだよな~。「はい、遅れないように行きます」の、真面目な文体は、西岡が本気で自分を見てくれたことに対する返答だよな。上手い。

8話目 ☆4
13年後。岸辺さん。まあ確かに、この部署にきたら引くよな(笑) この「ヌメリ感」って、印象深いな~。松本先生見ると、泣けてくるな。

9話目 ☆3
ラブレターのやつ、5話Cパートの伏線回収。原作ならもっと、グッときたのだけれど。

10話目 ☆3
う~ん、ここまで楽しかったとなるのは、やや違和感。

11話目 ☆5
間に合わなかったのがな。松本先生の手紙、というか、遺影の前にある日本酒から、少し泣いたな。
{/netabare}

投稿 : 2024/05/04
♥ : 24

ヘラチオ さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

ゆっくり

三浦しをん原作。読んではいない。
辞書制作に携わる出版社の社員の物語。人生の多くを費やし、ゆっくりと完成させる辞書だけにゆったりとした話の展開。時間がとんでも歳をとって見た目が変化する以外はそこまでの変化はない。

主人公がこれまたゆったりとした人で時間が経過しても香具矢との関係も出会った当初のままという感じ。それはそれで良い。

作中に挟んでくる教えて!じしょたんずは色んな有名辞書が擬人化して辞書豆知識を教えてくれる。

OP
潮風 歌 岡崎体育
ED
I&I 歌 Leola
Leolaの歌は初めて聞いたけど、EDにぴったりなゆったりとした曲だった。


1. 茫洋
辞書編集部員の西岡は、街の本屋でとある営業マンのお粗末な仕事っぷりを目撃する。それは、西岡も勤める玄武書房の社員である馬締(まじめ)という男だった。一方、辞書一筋のベテラン編集者・荒木は、定年を前に後任者を探していた。そんな荒木に何気なく馬締の話をする西岡。すると荒木は突然立ちがり、足早に営業部に向かった。突然の訪問者に戸惑う馬締は、荒木からの『言葉』に関する質問に自分なりの答えを語る。その瞬間、荒木は馬締のセンスを見抜き、辞書作りに向いていると確信する。そして、その場で馬締をスカウトするのだった---。

2. 逢着
辞書編集部へ異動になった馬締は、荒木や監修の松本先生の辞書作りへの情熱を知ることになる。編纂途中の中型辞書・『大渡海』への想い、そしてなぜ新しい辞書を作り続けるのか……。そんな馬締は、彼らの期待に答えることができるのか……という不安に襲われていた。しかし、下宿先の大家・タケさんは言う。「頼ったり頼られたりすればいいと思うよ」そんな満月の夜。下宿先のベランダで、馬締は美しい女性と遭遇する---。

3. 恋
馬締が、タケの孫娘・香具矢に恋をしたことが発覚。そこで辞書編集部の一同は、香具矢が板前修業をしている店を訪れることに。西岡の雑談にも程よく答えながら、真剣に料理と向き合う香具矢に見惚れる馬締。彼女もまた、辞書作りと同じ長く困難な道を極めようとしているのだ。帰り道、西岡と馬締は語る。馬締は、場を作るのがうまい西岡を尊敬していた。そんな馬締を変な奴だ…と呆れる西岡は、これから面白くなるかもな…という期待も感じていた。しかしそんなさなか、西岡は『大渡海中止』という噂を耳にしてしまう---。

4. 漸進
社内で噂される『大渡海中止』の動きを阻止すべく、辞書編集部は西岡発案の大胆な策を実行する。一丸となって奔走する一同。そんななか西岡は、今までにない生き生きした表情を浮かべていた---。数ヶ月後。久しぶりに休日を取った馬締は、タケの後押しもあり香具矢と二人で出かけることに。二人は観覧車に乗り、東京の街を見渡した。そして、料理への情熱を語る香具矢。感動した馬締も、自分なりに想いを伝えようとするのだが……。その夜。馬締は香具矢へ想いを伝えるべく、手紙を書き始めた---。

5. 揺蕩う
局長に呼び出された西岡は、『大渡海』続行の条件を言い渡される。それは、別の辞書の改訂と、西岡の宣伝部への異動だった---。辞書作りへの情熱を感じ始めていた西岡はショックを受ける。しかし、『大渡海』の見本刷りを見て喜ぶ編集部員たちや、既に条件である小型辞書の改訂作業を始めている馬締。そんな彼らを目の当たりにし、「異動までに俺ができることは全部やる!」と意気込むのだった。一方、恋文が完成した馬締は、勇気を振り絞り香具矢に手渡した---。

6. 共振
恋文を渡した翌朝、香具矢に遭遇した馬締は思わず逃げ出してしまった……。その日の昼、今後の対策について話しあう編集部員たち。そこで、西岡が自身の異動を告白する。衝撃を受ける一同。西岡さんが……と呆然となる馬締は、不安に襲われつつ帰宅するのだった。その夜、恋文の返事を香具矢に迫る馬締。絶対今日中に聞けと西岡から助言を受けていたのだ。しかし、動揺した香具矢は部屋に戻ってしまった。振られた……と肩を落とす馬締。しかし、恋文の文面を再確認してきたという香具矢は、馬締へ想いを告げる。「私も、好きです」---。

7. 信頼
大学教授から上がってきた原稿に問題が見つかり、西岡と馬締は修正案を作成する。そのなかで馬締は、大渡海には西岡が必要だと改めて感じる。そんな馬締に、西岡は力強く語る。たとえ離れても、お前をフォローし続けると---。数日後。修正に激怒した教授から連絡が入り、西岡は一人謝罪に向かう。露骨に不機嫌な態度をとる教授。しかし西岡は機転をきかせ、教授に今後の協力を約束させる。大学を後にした西岡は、晴れやかな表情で新たな道を歩き出した。そして馬締も、新たな決意を胸に一人作業を続けていた---。

8. 編む
13年の月日が流れ、新たな社員・岸辺がやってきた。しかし、入社以来ファッション雑誌を作ってきた岸辺は、なぜ私が辞書を……という悶々とした思いを抱えていた。そんななか岸辺の歓迎会をすることに。そこで馬締は、岸辺が「言葉を大事にする人」だと言う。しかし理解できない岸辺は、自分に辞書作りは無理だと店を飛び出してしまった……。そんな岸辺と遭遇した西岡は、ある質問をする。それはかつて、荒木が馬締のスカウトを決めた『言葉』に関する質問だった。岸辺の答えを聞いた西岡は、微笑みこう言った。「君、辞書向いてるよ」翌日。辞書編集部には、率先して仕事をする岸辺の姿があった---。

9. 血潮
新たなスタートを切った岸辺は、松本や馬締との交流のなかで、『言葉』や『辞書』についてより理解を深めていく。そんななか総仕上げの作業が始まり、並行して『大渡海』専用の紙の開発も続けられていた。来る日も来る日も机に向かい、黙々と作業をする一同。そして季節は移り変わっていく---。約一年が経過し、とうとう紙が完成した。そして同時に、営業や宣伝といった他部署との打ち合わせも重ね、日に日に大渡海の完成に近づいてく。そんなある日、重大なミスが発覚してしまう---。

10. 矜持
抜けている単語が見つかり愕然となる編集部員たち。そこで馬締は、24万語全てのチェックをやり直すと決断した。そんな矢先、松本が入院してしまう。焦る馬締は、いち早い『大渡海』の完成を目指し、黙々と作業を続けるのだった。そうして、編集部員とアルバイトたちの壮絶な合宿生活が始まる。昼夜問わず作業を続け、限界まで働き続けた。馬締は他部署との打ち合わせなどもこなしつつ、かつての自分を振り払うかの様に作業に没頭した。そして時は流れ……とうとう全ての再確認が終了した。西岡も駆けつけ歓喜に湧く一同。こうして、『大渡海』の完成が迫ってきたが---。

11. 灯
馬締と荒木は大渡海の刷り出しを手に、松本の自宅を訪れた。嬉しそうに紙に触れる松本。しかし松本は告白する。食道に癌が見つかったのだ……。そして初春を迎えた頃、とうとう『大渡海』の完成が目前に迫る。そんななか、編集部の電話が鳴り響く。それは、松本の死を知らせるものだった---。『大渡海』は完成し、華やかなパーティが開かれた。そんななか、荒木が取り出した手紙を読んだ馬締は涙を流す。そこには、松本からの感謝の言葉が綴られていたのだ---。そして……桜舞う春の日。馬締と香具矢が歩いている。馬締は、松本の言葉をかみしめながら、辞書作りについて思い巡らせている。「僕らはくり返し、舟を編む」香具矢としっかり手を繋ぎ、馬締は歩み続けるのだった---。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 5
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