2016年度の科学TVアニメ動画ランキング 3

あにこれの全ユーザーがTVアニメ動画の2016年度の科学成分を投票してランキングにしました!
ランキングはあにこれのすごいAIが自動で毎日更新!はたして2024年06月04日の時点で一番の2016年度の科学TVアニメ動画は何なのでしょうか?
早速見ていきましょう!

62.3 1 2016年度の科学アニメランキング1位
タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~(TVアニメ動画)

2016年夏アニメ
★★★★☆ 3.4 (128)
514人が棚に入れました
中学2年生の早瀬真理は、何事にも一生懸命で元気な女の子。
3年前に失踪した世界的科学者である父・永司からもらった ペンダント・アーミラリーコンパスをいつも大切にしている。
ある時真理は、親友の水城和花の兄・旬の部屋で、 かつて永司の研究室で見かけた本(『磁石と電気の発明発見物語』)を見つける。
真理は開いたその本からあふれたゆらぎに包まれて、タイムスリップしてしまうのだった。
アーミラリーコンパスが示すタイムスリップの先々で、 真理は様々な科学者たちと出会い、和花や旬と共に行方不明の永司の足跡を追ってゆく。
そこへ、同じく永司の行方を追っていた実業家・御影丞の動きが影を落とす。
現代での永司失踪をめぐるドラマが縦軸に、 過去で真理たちと科学者が繰り広げる発明・発見に関わるドラマが横軸に展開され、 それらが次第にシンクロしていく。

声優・キャラクター
豊崎愛生、寿美菜子、木島隆一、森川智之、坪井智浩、戸松遥、井上喜久子、山下大輝、高垣彩陽、福緒唯
ネタバレ

ブリキ男 さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

家族揃って、お茶の間で楽しく学べる科学アニメ

土曜の朝7時からテレビ東京で放映されている科学アニメです。

科学をテーマの中心に据えたアニメというのは意外な事にとても珍しく、NHK教育では過去にエレメントハンターとかマリー&ガリーなどがありましたが、それ以来?という印象を受けました。

方位磁針の針の色の付いた部分が常に北を指す理由を詳細に説明出来る人は日本中あるいは世界中にどれだけいるでしょうか? そもそも地球の組成って何? とか、そんな私達の身近にありながら、見落としがちの科学的疑問を、考察の余地を残しながらも丁寧に解説していくアニメの様です。

科学技術とは切っても切り離せない生活を、当たり前の様に、吸っては吐く空気の様に受容している私達にとって、知るべき事、知らなくてはならない事は沢山あると思います。なぜならそれらは全て、何かを犠牲にして贖われているものなのですから‥。残念ながら、それらの事は学校で全て教えてくれる訳ではありません。なのでこの様なアニメの視聴をきっかけにしてでも、少しでも多くの人が、そんな身近な不思議を不思議と捉えて欲しい。化学好きのブリキ男はそんな風に思ってしまうのでした。

とは言え、お勉強アニメとしての色合いはそれほど強くありません。幼馴染との友情や恋、お菓子作り、失踪したお父さんの謎、※悪の組織?による陰謀などの王道設定が、タイムトラベルという冒険を交えてすいすいと展開される見やすいアニメです。家族揃ってお茶の間で視聴出来る、楽しい科学番組になっているのではないでしょうか?

第1集(1話+2話)はウィリアム・ギルバート、次回はベンジャミン・フランクリンのお話です。

以下は各話の感想。

3話 ベンジャミン・フランクリン
{netabare}
フランクリンのお話は1話で終了。欲を言えば前回と同じく2話欲しい所でした。でも宗教、奴隷制度の問題にもちょこっとだけ触れながら物語が描かれており、充実の内容と言えました。1話にあった本編終了後のおまけコーナー「マリワカのクイックサイエンス」が復活していたのも良かった。来週はボルタです。
{/netabare}
4話 アレッサンドロ・ボルタ
{netabare}
アレッサンドロ・ボルタの回。ボルタと言えばボルタ電池、学校とかでレモン電池とか作った人もいると思いますが、あれの始祖に当たる電池のお話です。

今回は活劇描写などが多めに入っていたせいか、科学解説の部分についてかなり物足りない印象を受けました。電解液とか、イオン化とかの説明をちょっとだけでも入れて欲しかった所です。

あとタイトルにマリ・ワカと入っているのに、4話になってもワカの活躍が殆ど無いとはこれいかに? 2人揃って過去に行けば、科学の不思議に対してそれぞれが別々の疑問を提示する事も出来るかも知れないので勿体無い気がします。

そしてこれもタイトル関連ですが、タイムトラベルについて、古典的な付け足しルールによるタイムパラドックスの回避のアイディア(大宇宙の謎の法則が過去の自分自身に出会う事を許さないとか‥)は論理性に欠けるので量子論を概念的にでも説明する方が説得力があった様に思います。

でも次回に期待。
{/netabare}
5話~6話 マイケル・ファラデー
{netabare}
ファラデーの電気と磁気を同じ力の別の相とした功績は科学界の一大事件と言えます。さらにそれに光子を加えた理論の構築に至るまでには、光電効果を発見したアインシュタインの登場を待たねばなりません。

未来から来たワカの活躍でデイビー卿の心が動き、ファラデーの未来が変わる? 量子論では現在(いま)が観測されると、過去が決定すると言われていますが、過去を変えても、※枝分かれした無数の未来に向かうだけという解釈があります。ファラデーの歩む未来はワカの帰還する未来とは違う未来になるでしょう。なればマリのお父さんはタイムトラベルを通じて何を行おうとしているのでしょうか? 出来れば何らかの科学的解釈を与えて欲しいと期待してしまうブリキ男なのでした。

また今回のお話では、前半にクイックサイエンスのコーナーがありました。子供もこういうコーナーは喜ぶと思うので、なるだけ毎回やって欲しいものですね‥。(ぜ~たくな希望)

今回を持って、ワカも晴れて"タイムトラベル少女"となりました。今後の活躍に期待。

※:量子論の概要が直感的に感じ取れる"ファインマン・ダイアグラム"を見る事を推奨。量子論を扱う一般書では大抵載ってます。
{/netabare}
7話 サミュエル・モールス
{netabare}
今回はワカは置いてけぼり。マリだけで過去へ飛びます。何というか‥いつもマリ一人でタイムトラベルしてるけど不安じゃないのかな‥。

さておき、私、モールスが画家で点描画を描いていた事はこのアニメ観て初めて知りました。どんな経験も無駄にはならず、何らかの形で昇華されていくものなのだなぁと感慨深いものを受け取った次第。点描からモールス信号、繋がるんですねぇ‥。

そしてエピローグのシュン兄ぃの「人はね、みんな、解らない事だらけなんだよ‥」に始まる台詞について、知識の蓄積と視野の拡張を相転移になぞらえて説明されている所に大いに共感出来ました。一見無駄に見える様な、気の赴くままに貪った知識も、いつか繋がり合い、より高い認識へと成長していく過程を巧みに表す表現でもあり、一足飛びに結果だけを求めるきらいのある競争社会に釘を刺すありがた~い言葉でした。あっぱれ。

今回も科学考察は急ぎ足な感じでしたが、科学延いては勉強全般に対する謙虚な姿勢を示す意義のある回だったと思います。

初回では悪者の印象が強かった御影さんも、前回あたりから茶目っ気を披露。秘書のさつきさんも面白キャラである事が判明して安心。どちらかというと子供向け番組ですものね‥。

次回も楽しみです。
{/netabare}
8~9話 グラハム・ベル
{netabare}
別荘でバカンスを楽しもうとクルマを走らせるマリワカ家族。そこに都合良く(わざとらしく)現れた、御影さん。クルージングへのお誘いからの焼肉奉行コンボに大笑い。この流れを終始クールにやってのけるとは中々の度量。何かたくらんでいるし底知れぬ人だけど、どこかしら間が抜けているし良い人なのでは?とか思ってしまいました。そんな御影さんの誘惑をはねつけるマリのお母さんはそれよりも強し、凛とした態度が素敵でした。

続くお約束のタイムトラベル。今回は図らずもマリだけが過去へ飛びます。1876年のアメリカ、フィラデルフィアの万博会場近くの噴水広場にスク水+パーカー姿で! 普通に考えれば事件になりそうな事態でしたが、マリパパがすぐ近くにいたので何とかなりました。なけなしの所持金をはたいてパパが買ったワンピースにご満悦のマリ。同時代のイギリスのサンドレスと比べると、かなりラフな感じのデザインでした。やはりアメリカ?

後半、万博会場でのベルによる公開デモンストレーションの様子が少しだけ描かれました。

音波というのは磁力や光と少しだけ違って、空気を振動させる事で生まれるもの。水中で体を動かすと波が出来るのと同様に、空気中でも体を動かす事で波が生まれます。その波の振動を感知出来るのが私たち生物の耳です。

宇宙空間の真空と比べて、地球の大気は実は重い物質だらけのどろどろのシチュー状態、見方によっては海の中とほんの少ししか変わりません。このどろどろのシチューを声帯の振動で圧して波を発生させるのが声、その波を我々は音と捉えます。

グラハム・ベルはその空気の振動を、昨今の様にデジタルデータを仲介をせず、そのまま電気信号に変換しました。その電気信号を導線で伝え、その先で音声に再変換する、これが電話です。

さておき、今回も身近な不思議への疑問や興味を触発させるありがた~い台詞が‥「運命の中に偶然は無い」とか「興味を持った事を調べてごらん。それが好きの入り口だ‥。」とかマリパパ、カッコ良いですね。ワンダフル!

お話と全然関係ないけれど、OPのシュン兄ぃのフェンス飛び越えアクションに毎回笑ってしまいます。何やっても絵になる人なのは確かなんだけど、何となくセンスが70~80年代‥でもシュン兄ぃだから許せる?
{/netabare}
10話 ハインリヒ・ヘルツ
{netabare}
今回はヘルツのお話。

前回は有線通信のベルで、今回は無線通信のヘルツ、密接な繋がりが見られます。初回から脈絡のある電磁気に関する発見のお話を連ねているマリワカですが、通しで見た時にはさらに記憶に残りやすくなる事請け合い。良い構成だと思います。

今回のお話では過去の科学者の人たちに「あなたの研究は決して無駄にはならない」と未来人の立場から勇気付けるのがマリパパの目的の一部である事がはっきりとしてきました。これは過去に生きた全てものたちに言うべき言葉なのかも知れません‥。

一方で、これまでちょくちょくとギャグパート?もこなしていた御影さんですが、今回は初回近くの悪者然とした雰囲気に戻りました。ニセの警官(本物の警官を懐柔してるとかだったら、かなりコワイ)まで使って企み事を巡らします。でも目的は未だ不明、タイムマシン(物質転送装置)を手に入れて何をするつもりなのでしょうか? でもOP見る限りではこの人、悪人には見えない‥。失意のエジソンの肩に手をやって優しげな表情を浮かべているし‥。

電気のお話を中心に着実な歩みで綴られてきたマリワカも、残すところ後2回、急展開になりそうな予感です。

次回のお話はトーマス・エジソンです。

※36歳の若さで亡くなったヘルツの死因は多発血管炎性肉芽腫症という名称の病気で、当時は不治の病に近いものだったらしい。

Wikiによればヘルツは自らの実験について「それは何の役にも立っていない……単にマックスウェル先生が正しかったことを証明しただけの実験だ。我々の肉眼では見えない不思議な電磁波は確かに存在する。しかし、単に存在するだけだ」という言葉を残しているという‥。結婚して2人の娘もいたのに不遇過ぎます。
{/netabare}
11~12話 トーマス・エジソン
{netabare}
エジソン回、目的はやっぱりビジネスの為、マリパパを探し出すためにマリを人質に取る形で過去へ飛んだ御影さん。

あるべきでないもの同士がひと所に集まる事によって起こる時空の歪み、タイムパラドックスの解釈については、初回近くから懸念していた事ですが、結局明確な説明はありませんでした。頭脳明晰なシュン兄ぃも今回は「分かりません」と言う回数が多かった様子。分からない事を分からないと答える事も知性の一つのあり方です。

理論上可能性が認められていても、観測した人がいない問題について無理に説明しようとすると、ファンタジーになりかねないので妥当な判断だったと思います。

「出来たものを消費するだけのあなたなんかに、彼ら(科学者達)の事を侮辱なんてさせない。」マリの言葉には力がありました。

科学の歴史は無数の人々の聖人の如き努力、あるいは狂人の如き情熱の上、その積み重ねで作り上げられてきました。科学の恩恵を受けるばかりで、その重みを痛いほど知っているはずの私達は、過去に生きた人たちへの畏敬の念を決して忘れてはならないと私も考えます。

脱線から戻ってアニメのお話。過去に置き去りにされた御影さんの扱いがかなり不遇でした。取り決めに従って行動していただけなら悪人にはならなかったはずなのですが、人をだまくらかして懐柔しようとしたり、暴力とか強引な方法に頼って権利を行使しようとしたのが罰を受ける原因だったのかも知れません。

エジソンも努力の人でもあるけれど、自らの利益の為に※悪どいプロパガンダ活動をして科学を踏みにじったり、とある映画を権利者に無断でコピーして売却して暴利を貪ったりと悪人としての一面もある人。

エジソンと御影さん、両者が良きパートナー同士となるという顛末をみると、複雑な心境です。歴史が変わってしまいそうな不安を残しました。

それとお父さんの規約違反とナポレオンから贈られた黄金杯の件は全然清算されていなかったのも気になる‥。

エピローグは未来のお話。ここにもやはり原因不在のパラドックスがありました。この部分はパラレルワールドと割り切ってみるべきなのかも知れません。

今回のシリーズでは電磁気のお話に焦点が当てられていましたが、電磁気の本があるなら同じ様な他の分野の本も‥とか思ったり‥。もし続編が作られるなら、数学とか物理とか天文とか生物とかテーマは無数にありそうです。タイムトラベルの問題も消化不良だし、続編を期待するついでにそんな事をちょっとだけ想像してしまいました。

※:直流送電と交流送電、どちらが理にかなった送電方法であるかを問う、トーマスエジソンとジョージ・ウェスティングハウス・ジュニア、ニコラ・テスラの間に起きた抗争"電流戦争"の名で知られる事件の中で、エジソンは交流電流の危険性(ウソ)をアピールする為に何の罪も無い野良犬や野良猫、家畜の豚、牛、馬など多くの動物を殺しました。象まで‥。電気椅子の開発とこれによる死刑執行もコマーシャルの為。エジソンは偉い人かも知れないけれど、酷い人でもありました。本作ではそんな彼を過度に美化する事を避けている様にも見えます。
{/netabare}

科学は世界を見るための唯一の方法ではありませんが、人類の歴史を通して、常に反証可能な方法であった事は認めなければならないのではと思います。言い換えるならば、一つの見方としては確立したものであると評価出来ると思います。でも科学一辺倒の思考に陥ると、多分偏屈人間になってしまうので、幽霊とか魔法とかもあるかも知れないと考えられる様なイイ加減な人間になりたいものです。


※:御影さんが美女?をはべらせてウイスキーをロックであおってるシーンには閉口(汗)。バブル時代ですか!?


[おまけ~ことばが通じる不思議について~]
{netabare}
先ずマリのアーミラリーコンパス(天球儀状のペンダント)の中身について説明をば、この中にはCPU、RAM、翻訳ソフトと音声読み上げソフトを書き込んだメモリ、電池、入力、出力としてマイク、スピーカーが内蔵されていると思われます。(PCに似てます。)

マリが聞く時
1.英語とかをマイクから入力。
2.入力した音声を翻訳ソフトで解析し、日本語に直す。
3.音声読み上げソフトを介してスピーカーから日本語を出力。

多分直前に聞き取った日本語以外の音声言語(例えば英語)を読み取って、フォーマットが行われ、以後、マリの方から喋る際にも英語に翻訳される様になるのだと思います。もしそうならペンダントのマイクがイタリア語を聞き取ったらマリの声もイタリア語になります。言語解析の為、最低でも1フレーズ位は音声を入力しなければならないかも知れません。

マリが喋る時(フォーマット"英語"の場合)
1.マリの発した日本語をマイクから入力。
2.翻訳ソフトで解析し、直前に聞き取った言語"英語"に直す。
3.音声読み上げソフトを介してスピーカーから英語を出力。

音声読み上げソフトには入力された声紋に従って声のトーンを決定、調整するプログラムも含まれていると思います。

でも言語の種類によって文法が異なるので、マリワカ作中の様な同時翻訳は、上の方法では不可能です。タイムラグを経て翻訳される形式を取る事になりそうです。(こういった言語翻訳機は現代でもほぼ実用化されてます。)

もう一つ考えられるのは恐縮ながらブリキ男の創案した"脳波を読み取る方法"(もしかしたら既出のアイディアかも知れません。)

これは相手が脳に思い浮かべた言語の概念(脳波)を電気信号としてペンダント内の受信機で読み取り、日本語に変換するというもの。マリが喋る場合はマリの脳波を読み取り、他言語に変換する。

脳波は微弱で、現代では頭に電極刺したり、電極の着いた帽子を被ったりしないと読めないので難しいかも知れませんが、超高性能な受信機があれば不可能ではないのではと思います。

でも同時翻訳だと二つの言語(翻訳前と翻訳後)の音声が同時に発せられてしまい、聞き取り辛くなる事が難点です。

問題を解消する方法の一つは、スピーカーから翻訳音声を発すると共に、聞こえなくとも良い翻訳前音声と逆位相の音声も発し、※ノイズキャンセル効果を使ってそれを消してしまう事です。脳波は音よりも先んじて届くので理屈の上では可能だと思います。多分‥。

またペンダントにはタイムトラベルをする際、位置情報を確認する為の電波送受信機(ケータイとかスマホみたいな)も内蔵されていると思います。でも実際にタイムトラベルに必要な、現在と過去を繋ぐワームホールに相当するゲートを生成するのは大きさからして、実験室の方の機械だと考えるのが妥当でしょう。元いた世界に戻る際、位置情報の確認は必須なので、電波を送受信する現在と過去を繋ぐ素粒子レベルの大きさのゲートは常に開いているのかも知れません。

科学が進歩すればタイムトラベルは可能になるのか?という問題については理論上の問題なので、ブリキ男でも本当の所は全く解りません。しかしながらアニメを見てこういった考察出来るという事自体、とてもぜいたくな楽しみと言えます。なるほど‥これが愉悦か‥。

※:かんたんに言うと音で音を消すという事。作曲の仕上げなどに用いられる波形編集ソフトとかには、こういう機能が使えるものも多くあります。音の波長を表すギザキザの、山になっている部分に同じ大きさの谷をぶつけると無音になるのです。これによって雑音を綺麗に消せます。
{/netabare}

以下は作品本編とは殆ど関係ない面白実験コーナー。
{netabare}
[面白実験その1 これで君もレールガン?]
空気の乾燥した冬の日などに毛足の長い毛布などを掌で撫で擦ると静電気が生じて小さな小さな稲妻が出来ます。湿気が多い時期は水にエネルギー(電気)を奪われるので出来ません。真っ暗な部屋でやってみると青白い火花が確認出来て綺麗ですよ。(ちょっと手がちくちくするけど)セーターとかでも出来るので色々と実験してみるのも面白いかも?
{/netabare}

投稿 : 2024/06/01
♥ : 18
ネタバレ

剣道部 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

昨日は今日になり、今日は明日になる。全てが繋がって、今になる。

[文量→大盛り・内容→考察系]

〈2016夏 個人内ランキング 6位〉

録画溜めといたんですが、キャッチさんの影響で視聴開始w

【総括】
子供向けアニメと思い、侮ることなかれ。かなり優秀なシナリオに、度肝を抜かれます。タイトルや絵柄だけで敬遠してはいけないアニメの代表格かと。

科学や科学史に詳しい方にとっては当たり前すぎる内容なのかもしれませんが、私のような文学畑の人間にとっては初めて知ることもあり、純粋に知的好奇心も刺激された。楽しいし学べるし、ホントにNHKで流してほしいw

《以下ネタバレ》

【視聴終了(レビュー)】
{netabare}
なんだこのアニメ? かなり面白いぞ!

確かに子供向けで、あざとい部分や安易な部分はありましたが、それを補って余りある良シナリオ(特に2話目)。電気の発見から製品化まで、あっさりしっかり学ぶことができました。

力のある大人が本気で子供向けアニメを作ったらこうなった、という感じ。

自分の中では2016夏アニメのダークホース。

この作品の主題は、「現在の生活は、過去の偉人(科学者)達の挑戦の上にある」ということ。すべてが繋がって、今がある。きちんと大人が観られる子供向けアニメでした!(強いて言えば、最終回の一部にだけは不満大)

最終回は、ある意味で10話が伏線になっていて、だからこその感動がありました。どこまでも科学者に優しいアニメで、全体としては良いです。

一点だけ気になったのは、マリ達が御影を過去に置き去りにした行為は、故意ではないとはいえ、結果的に御影を「殺す」に近い行為なのに、マリ達のリアクションが軽いこと。子供に対し、勧善懲悪をイメージさせたかったのかもしれませんが、御影はそこまで悪い奴じゃないと思います。実際、科学の研究には莫大なお金がかかるわけで、そのお金を出しているのは、実用化された時には支出以上の利益があると踏んでのこと。別にボランティアで研究費を出しているわけではないでしょう。だから、御影の言葉にも一理はあって、商人と科学者は、時には対立し、時には共存共栄する密接な関係にあると思います。「このアニメだからこそ」そこには深く切り込んで欲しかったし、出来たと思います。まあ、御影がエジソン一味となって成功したことを示すのが救済になっているんだろうけど、だとしても、せめてその写真を見るまでは落ち込んだり悲しんだり、なんとか過去に戻って御影を助けようとする姿勢を見せるべきでした。御影がいなくなった(現代人からすれば死んだも同然の)中、当人を慕う部下(おそらく恋人か片想い)には「仕方ない、もう手遅れだ」とアッサリ言い放ち、自分達だけは家族の久々の再会を泣きながら喜ぶマリ達……ちょっと怖かったです。御影にだって、家族はいたでしょうに。

ただ、この作品がタイムリープ系には珍しく、「パラレルワールドオチ」にしなかったのは偉いと思いました。「orange」なんかまさにそうだけど、パラレルワールドってアニメにするには都合が良いんですよね、誰も傷つかなくて。でも、「マリ・ワカ」では、過去も同じ時間軸にあって、全てが繋がって今があるというのは主題なので、(んじゃ現在の改変はどうなるの?というツッコミどころもありつつ)必要な設定でした。

ラストのラストである未来編は、個人的には好印象。マリがお婆ちゃんになっててショックでしたwが、過去が今になるように、今は未来に変わっていくのだから、同然であり自然な姿なんだと思います。思いは受け継がれ、発展していきます(どうせなら、旬兄もお爺さんになって、一緒にいるところを観たかったです)。私たちのような萌え豚野郎に配慮しないところが素敵でした(笑)
{/netabare}

【各話感想(レビュー含め)】
{netabare}
第1話
AED、何度か講習受けたけど、かなりリアル(笑) 学習アニメ×女子中学生……「もしドラ」的な感じなのかな? 初めの科学者がギルバートか、(エジソンとかじゃないところが)渋いね。でも、マリを見てすぐに「東洋人」って、ギルバートが活躍した時代、日本は戦国時代とかでしょ? すんなり出たワードに(まあ中国とかもあるけど)歴史的にやや違和感w 私は文系なんで、理系の話は知らないことだらけで楽しみ♪

第2話
マリが、ちゃんと(良くも悪くも)中学生くらいの知識量ってとこが、徹底されてるね。地磁気とケーキとAEDが繋がってるところが上手いね! 科学って、人類の歩みって繋がってるんだな~と思った。ギルバートの理論も全ては地球が球体であるってことが前提なわけだし、それ自体が科学者の発見なわけで、こうやって人類が1歩ずつ歩を進めてきたってことが伝わる、良シナリオ!

第3話
ちょっと驚いたのは、科学との対比のためとはいえ、宗教をここまで正面から否定的に描いた教育アニメってのも珍しい(第2話も含め)。でも、当時の科学者にとっての最大の敵だったということですね。凧の実験は死者も出てるし、ガチで危険。良い子どころか、悪い子も絶対に真似しちゃだめだよ(汗)。

第4話
のオーストリアが台頭してくるあたり、歴史を感じますな~。今回は「電池」の発明者の「ボルタ(ト)」ですが、科学の恩恵というよりは、違う面を見せたかったのだと思います。それは、「科学の戦争利用」(防弾チョッキやスタンガンはその比喩)。この時代以降、科学と戦争は切り離せないものになっていくしね(ノーベルが鉱山夫の安全の為に作ったダイナマイトの戦争利用。アインシュタインの基礎研究を基に作られた核爆弾とか)。前回は科学の発展の為の宗教批判、しかし、今回は科学そのものの負の側面を見せてくるあたり、真面目ですな~。

第5話
欧州サッカーの目標が、プレミアやリーガじゃなくて、セリエかリーグ1って、意外と堅実w お~、マンネリ化しそうな辺りで、ちゃんと展開変えてきたね~(拍手)♪ 出会う科学者も、「電気」という関連性が強い方ばかりで、色々欲張らずに、good!

第6話
これまであまり活躍のなかったワカにスポットを当てた2話でしたね♪ ワカのツンデレは安定してますw これまで、冒頭の現代での発言や行動を伏線にし、過去の科学者との出会いにより、マリやワカが成長し、終末の現代で伏線回収するという、良シナリオに感服しています。

第7話
電気が少しずつ進化していき、ついに通信まで。胎児が母体の中で一気に進化の過程を経験するように、このアニメの中で電気が一気に進化している感じ。旬君、良いこと言うね~。有名な話ですが、ドラクエの作曲家「すぎやまこういち」さんは、ドラクエの序曲をわずか5分で書き上げたそう。それをインタビュアーに、「どうやったら5分で名曲を生み出せるのですか?」と問われ、「あの曲は、54年と5分で作ったのですよ」と答えたらしい(当時すぎやまさんは54歳)。これ、大好きな逸話なんです! とっさの判断や閃きに見えても、そこには人生の全ての時間の過ごし方が濃縮されたいる。つまりは積み重ねることの大切さ。旬君が言ったのもそういうことですね♪ 科学を学ぶだけでなく、タイムトラベルものとしても、楽しめる内容になってきましたね!

第8話
出だしが「コナン」っぽいのだがw「それ文法違うから~(違うから~)」は、可愛かった♪ 珍しく日常回、緩急が効いてるね。

第9話
お父さんは、どこから来て、どこに帰るのかな? 今回のマリワカのクイックサイエンスは面白かった(し、分かりやすかった)。光ケーブルの仕組み、初めて知ったw

第10話
例えばエジソンのように、電球や蓄音機などを「発明」できた人は、自分の功績が世の中を変えていく様子に出会えて幸せなのだろう。でも、その「発明」を支える基礎研究に生涯を捧げた「科学者」は、幸せを実感できたのだろうか……という部分に光を当てた回。救いがありました。現実世界でもいよいよ、盛り上がりをみせてきましたね♪

第11話
正論vs正論。この作品の作風上仕方がないかもしれないけど、歴史変換による影響に対する危機感が皆無なんですよね、皆が。まあ、良いんだけどね、タイムトラベルは一種の装置であって、伝えたいのは科学の仕組みだからね。なんか急にSFになりましたね(いや、今までもSFでしたがw)。

第12話
御影の、「研究のよろこびなんて下らないセンチメンタリズムだよ」って発言は、このアニメを根底から覆そうという問題提起であり、1つの真実。また、「自分達(商人)がいてこそ、科学は価値をもつ」というのも、ある意味正論。それに対してマリの「出来たものを消費するだけのあなたなんかに、彼等のことを侮辱なんてさせない!」って反論……ぐうの音も出ませんな。
{/netabare}

投稿 : 2024/06/01
♥ : 22

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

こういう真面目な作品…どちらかというと好物だったみたいです。

この作品の原作は未読です。ただでさえ2016年夏は視聴数が多かったので、子供向けの休日朝の番組から切ろうと思っていて、この作品もその対象でした。
ですが、1話目から面白いじゃありませんか…完走して振り返ってみると切らずに視聴を続けて良かったと思えた作品でした。
そう…アニメには「子供向きかな…?」と思っても実際に視聴してみると面白い作品があるから中々切れないんですよね。

この物語の主人公は早瀬 真理…3年前に失踪した父親から「アーミラリーコンパス」と呼ばれているペンダントを大切に身に付けていました。
ある日、親友の和花の家に遊びに行ったとき、彼女の兄の部屋にあった1冊の本に触れた途端、アーミラリーコンパスが反応して真理の姿が忽然と消えてしまったのです。

ふと気づくと、真理は和花の家ではなく全く知らない場所が目の前に広がっていました。
そこは1600年のイギリス…真理は400年以上昔にタイムスリップしていたのです。
そこで出会ったのはウィリアム・ギルバート…医者の仕事の傍ら、静電気と磁石の研究を行っていた科学者だったんです。
こうして世界の高名な科学者を巡る真理と和花の物語が動いていきます。

現在私が生きている現代の文明…それには必ず元となる礎がある訳ですが、この作品では礎を生み出した科学者を8人ピックアップしてその人に会いに行って世紀の瞬間を目撃する…という改めて考えてみるととっても贅沢な旅行でした。

ウィリアム・ギルバートを除く7人の科学者は以下の通りです。
・ベンジャミン・フランクリン:18世紀に凧を用いた実験で、雷が電気であることを明らかにした科学者。
・アレキサンドロ・ボルタ:18-19世紀にボルタ電池を発明した科学者。
・マイケル・ファラデー:19世紀に電磁気を利用して回転する装置(電動機)を発明した科学者。
・サミュエル・モールス:19世紀にモールス電信機を発明した科学者。
・グラハム・ベル:19-20世紀に世界初の実用的電話を発明した科学者。
・ハインリッヒ・ヘルツ:19世紀に電磁波の放射の存在を実証した科学者。
・トマス・エジソン:19-20世紀に蓄音器、白熱電球、活動写真を発明した科学者。

大概の人が知っている高名な発明家ばかりです。彼らは何も無いところから形有るものを産み出した科学者ですが、全員が頭脳明晰かというと決してその様な事はありませんでした。
マイケル・ファラデーが良い例です。ファラデーは高等教育を受けておらず、高度な数学もほとんど知りませんでしたが、史上最も影響を及ぼした科学者の1人とされており、科学史家は彼を科学史上最高の実験主義者と呼んでいるそうです(wikiより)。

彼らが共通して持っていたのは不屈の闘志です。
100回失敗しても101回目に成功すれば良い…
失敗は成功への道しるべ…
だから誰一人として失敗を恐れていないんです。
中には本職の傍らで発明を行っていた科学者もいましたし、実験道具も不十分だったので、遅々として進まない時もあったでしょう…
でも成功への道を諦めなかった…
彼らの不断の努力の上に今の豊かな生活があると思うと偉大なる発明家の皆さまには脱帽します。

そんな偉大な発明家に出合える機械をなぜ真理の父親が作ったのか…
一人の科学者として世紀の瞬間に立ち会える喜びはもちろんあったと思いますが、それだけじゃ無かったと思います。
気になる方は是非本編でご確認下さい。

オープニングテーマは、A応Pさんの「希望TRAVELER」
エンディングテーマは、エラバレシさんの「ミス・ラビット」
この作品はアニソンまで手が出せませんでした。

1クール13話の作品でした。内容は極めて真面目ですが、発明家の特徴を良く捉えている上、タイムスリップのタイミングが絶妙だったので、総じて楽しめた作品でした。
今回は磁石と電気が題材でしたが、他の史実を題材にしても面白くなるんじゃないかと思いました。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 23

71.5 2 2016年度の科学アニメランキング2位
キズナイーバー(TVアニメ動画)

2016年春アニメ
★★★★☆ 3.5 (774)
3695人が棚に入れました
舞台は、埋立地に作られた街・洲籠市。

かつては未来型都市として栄えたこの街に住む高校生・阿形勝平は、なぜか痛みを感じない不思議な身体を持っていた。

夏休み目前となったある日、勝平は謎の少女・園崎法子の手引きにより、痛みを共有する仲間「キズナイーバー」の一人に選ばれてしまう。

そして、同様に「キズナイーバー」として繋がれたクラスメイトたち。

しかし、彼らは本来なら仲良くなることのない別々のグループに属していた。

園崎は言う「これは、争いに満ちた世界を平和に導くための実験なのです。」

その言葉とともに数々の試練が彼らに降りかかる。

互いの傷を背負うことになった、少年少女たちのひと夏の物語がここから始まる!

声優・キャラクター
梶裕貴、寺崎裕香、島﨑信長、久野美咲、山村響、前野智昭、佐藤利奈、西山宏太朗
ネタバレ

フリ-クス さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

強制的に突き崩される『ハリネズミのジレンマ』

いきなりですが『ハリネズミのジレンマ』って言葉、
実は『ヤマアラシのジレンマ』というのが大元らしいですね。
心理学で言うところの『Porcupine Dilemma』。

それが新世紀エヴァンゲリオンの三話でリツコとミサトに語られ、
さらに四話「雨、逃げ出した後」のサブタイトルに、
「Hedgehog's Dilemma(ハリネズミのジレンマ)」ってついていたことから、
日本にハリネズミが定着したとかしないとか。

ただし、英語圏では
『Porcupine Dilemma』『Hedgehog's Dilemma』どちらも用いられていて、
(実際、WIKIにはHedgehog's Dilemmaで載ってました)
『Hedgehog』ならハリネズミで正解じゃん、との声もあり、
この辺になると僕ごときの語学力では何が真相なのかちっともわかりません。
  誰かわかる人教えてくださいませ。

閑話休題。

さて、本作はTRIGGER制作、岡田麿里脚本というビックカップルの作品です。
そして僕が個人的に思うには、
あにこれで最も過小評価されているTRIGGER作品でもあります。

これまでTRIGGERが制作したアニメで
ショ-トアニメ『宇宙パトロールルル子』を除くあにこれ総合順位は
  キルラキル            171位
  ダーリン・イン・ザ・フランキス 282位
  SSSS.GRIDMAN          282位
  リトルウィッチアカデミア    325位
  異能バトルは日常系のなかで   701位
  BNA ビー・エヌ・エー      905位
  SSSS.DYNAZENON         914位
  本作              1217位
と、ぶっちぎりの最下位。まさかの「ベスト1000落ち」です。
いやよくここまで嫌われたもんだ。

もちろん人さまの評価をあれこれ言うつもりはありませんし、
そんな資格など誰にもないわけですが、
僕は個人的にこの作品を、TRIGGERの代表作の一つに位置付けています。

物語は、とある実験都市で、
自分または他者の痛みを公平に分配して共有する仕組み、
『キズナイーバー』の手術を無理やり施された七人の高校生たち、
そしてそれを推進する謎の美少女高校生を含めた
八人の群像劇として進行していきます。

  まず、この設定が示唆に富んでいて抜群に面白い、です。

自分の好きな人ともっと親しくなりたい、距離を詰めたいという思いは、
誰にでもあるものだと思います。

だけど相手との距離が近づけば近づくほどに
  見せたくないものを見られ
  見たくないものを見せられ
というリスクが少しずつ膨らんできます。

それは、言葉を変えて表現するなら
  自分が傷つきたくないという身勝手な気持ち
  相手を傷つけたくないという思いやりの気持ち
が綾のように折り重なっている状態です。
それにより人は、人と距離を詰めることに二の足を踏んでしまいます。 

ところが本作『キズナイーバー』では、
外科手術により、まず『身体の痛み』という領域で、
このジレンマが強制的に取り払われます。

  一人の痛みを数人で分配し、分かち合う。
  これによって一人が受ける痛みの量は軽減されますし、
  他人の痛みを知ることもできます。
  こんなに素晴らしい、
  人と人が仲良くなれる画期的システムは他にありませんよ。

そういう、新興宗教の戯言みたいな考え方によって、
七人の若者が強制的に手術を施されて繋がれ、
さらに、様々な『仲良くなるための課題』に取り組まされるわけです。

もう、この段階で、
「友だちとの絆がいちばん大事」「みんながいるからがんばれる」
なんて言ってる安物アニメへの強烈なアンチテーゼになっています。

  同じ部活だから、同じ魔法少女だから、
  そういう『たまたま一緒になった』ことが絆を築く理由になるのなら、
  『たまたま手術で繋げられた』もアリだよね、と。
  痛みを分配して分かち合っているぶん、
  むしろこっちの方が『絆』は最初から深いわけで。

もちろん本編では、繋がれた七人は、そんなことに納得はしません。
夏休みが過ぎたらキズナが解除されるということで、
いやいや、しぶしぶ、計画にお付き合いすることになります。

そして、なんのかので関係性が深まっていくうちに、
その刻まれたキズナの効果に、
思いもよらなかった画期的な変化が生じます。

{netabare}
  他人の『心の痛み』を感じるようになる。

それは、最初はもわっとしたようなどんよりしたような、
単純に重苦しいだけのイヤな感覚でした。
だけど、その感覚が次第に研ぎ澄まされています。

  そしてついに嵐の夜、『心の声』が聞こえるようになります。

もはやこうなるとヤマアラシもハリネズミもありません。
聞かせたくない声、知られたくない思いがダダ漏れ状態です。
結果として事態がよくなることは何もなく、
七人はボロボロに傷つき、
散り散りに家路へついて夏が終わるまで引きこもることになります。

しかし、これがそもそも『キズナ計画』の目標でした。
ただ『痛み』を分配するのが目的ではなく、
むしろ技術的に『痛みぐらい』しか共有・分配できなかったのが、
この実験で大進歩をしたと、
研究者たちは手放しで大喜びをします。

もうなんか、痛い痛いと言ってるハリネズミたちを、
紐でぐるぐる巻きにして強制的にくっつけ喜んでいるみたいな、
マッドサイエンティスト色が濃厚だなあ、と。

ただ、その研究者たちにしても、
過去の失敗により廃人同様にしてしまった子供たちや、
投薬がなければ日常生活も送れなくなった園崎法子を何とか助けたい、
その一心で非道上等と腹を括ってやっており、
そこには救いようのない負の連鎖が存在しているわけです。

{/netabare}
そして、物語が後半に近づきキズナ計画の真相が明らかになるにつれて、

  そもそも人と人とのキズナとはなんぞや、

みたいなことにお話がフォ-カスしていきます。


通常生活において他人との『絆』を見い出せず、
キズナシステムへ狂信的に傾倒してしまう園崎法子。
そのキズナシステムが解除サされ、
改めて『絆』というものへフラットに向き合い、
おそるおそる足を踏み出す被験者たち。

最終話では双方が激しくぶつかり合い、せめぎ合います。
{netabare}
  そしてついに法子が、
  『キズナ』を手放すことで『絆』を手にいれる一歩を踏み出すという、
  それしかないよね的な大団円を迎えます。
{/netabare}
事件後、ほのぼのとしたエピローグの中で、
最後の最後に見せた法子の笑顔は、
悔しくなるぐらい素敵な、魂の込められたラストカットです。


ちなみに原作の岡田麿里さんは、
小学五年生から高校卒業まで筋金入りの不登校児でした。
集団生活の中で自分を動かす『絆』を見いだすことができなかった、
まさにリアル園崎法子だったんですね。

だから言葉が鋭い。まさにキレキレです。

被験者たちを『七つの大罪』に例えてこきおろすところなんか、
ああ、岡田さんにはクラスメイトがこんなふうに見えていたんだなあ、
そう思わせるだけの圧倒的なリアリティがあります。

そんな岡田さんだからこそ、この作品が書けたんじゃないのかな、と。

同じ学校、同じクラスに押し込められる。
そんなのは『キズナ』であって、決して『絆』なんかじゃない。
  じゃあそれを『絆』に昇華させるにはどうしたらいいんだろう?
  私は学生のとき何を見誤っていたんだろう?
そういう自戒と過去の自分への決別がこの作品の原点であり、
同時に根底に流れるテ-マであるのかな、と。

もちろん、そんなのをストレートに書いても鬱アニメにしかならないわけで、
いろんなギミックを仕込んでエンタメ作品に仕上げてますが、
それにしてもこんな難しいテ-マ、よく1ク-ルでまとめたもんだなあ、と。

ただ、他の方のレビューを読ませていただくと、
ギミックが強烈過ぎてテ-マが全然伝わっていないという、
残念作品の典型みたいになっちゃってますが。


作品のおすすめ度としては、僕の趣味嗜好が入ってますが、Aランクです。

よく練り込まれ、メッセージ性に富んだ脚本。
トリガーさんらしい、ちょっと荒いようで実は繊細な作画。
動と静のメリハリが見事で、見せどころをきっちり魅せる演出。
世界観をしっかり織りなす劇伴とOP、ED。
欠点らしい欠点が見当たりません。

  ただ、ギミックに目を奪われ過ぎると何も見えてこなくなるので、
  しっかりお話を楽しみながらも、
  ちょっと俯瞰的な視点を持つことが必要かも。

キャラ、お芝居という観点からは『秀逸』の一言です。

痛覚がなくなったことで感情の起伏を失った主人公の勝平と法子。
この二人は「起伏を失った」だけで、
綾波レイみたいに感情を「知らない」のではなく、
個人としての感情は、動きにくいだけで、残っているんです。

この難しい役どころを、
梶裕貴さん、山村響さんがしっかり演じきっています。

この二人が『静』のキャラである分、
天河、仁子の二人がややデフォルメ気味な動的キャラに描かれ、
しっかりメリハリがついているのも、さすがだな、と。

そして『凡人』キャラの千鳥と由多が物語にリアリティを持たせ、
さらに『変態』キャラの日染が、一歩高い位置で全体を俯瞰しています。
素晴らしいキャラ構成ですし、
それぞれの役者さんが期待された役割をきっちりこなしています。

そして、なんと言ってもレールガンこと佐藤利奈さんのお芝居がすごい。

ク-ルを装いつつ見事によじけた穂乃香というキャラが、
佐藤さんの力で何ランクもパワーアップしています。
{netabare}
とりわけ第九話の名シ-ン、
台風の中での語り言葉に続く「なっちゃいけない」というモノローグは、
聴く者の心臓をわしづかみにするような、後世に残したい名演です。

  ちなみに、穂乃香といえば七話のBパ-ト最終カット、
  「わたしも……」という台詞からED曲につながる演出も秀逸ですが、
  あれ、レッド・ツェッペリンのセカンドアルバム、
  『Heartbreaker』から『Livin' Lovin' Maid』への繋ぎの、
  素晴らしく出来のいいオマージュではないかと。

  わかる方、ぜひぜひ聞き比べてみてくださいませ。
  絶対、わざとやってますから。
{/netabare}

話は変わりますが、ED曲の『はじまりの速度』って、
作詞は岡田麿里さんなんですね。
ほんと名曲です。個人的に何回聞いたかわからないほどに。

この曲、三月のパンタシアのメジャーデビュー曲ですね。
それ以来気にかけてはいるのですが、
いまだにデビュー曲を越えられないでくすぶっているようです。

なんとかがんばって欲しいです。
てか、
いまさらじん君の曲なんか歌わないで欲しいんですけど。個人的に。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 17
ネタバレ

westkage。 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.7

どこか次世代のアニメを感じさせる作風は高く評価したい。但し独特すぎる部分も多くアニメ初心者には理解されにくい為、多くの支持を得られないという課題を抱えた作品☆

本作は「キルラキル・ニンジャスレイヤー」などを手掛けた「株式会社トリガー」によるアニメ作品です。キャラクター原案にPSP専用ソフト「セブンスドラゴン2020」のキャラ原案なども担当した‘三輪士郎’を起用。 各作品で絵コンテや演出などを担当してきた経歴を持つ‘小林寛’の初監督作品となりました。2016年の4~6月において全12話が放映されています。


あらすじ…主人公の阿形勝平は「身体の痛みを感じない」という特異体質の持ち主であった。そしてその特異過ぎる体質のせいで、幼いころから同級生たちに殴られ放題の文字通り「サンドバック」のような扱いを受けていた。
ある日彼が通う「私立洲籠高等学校」から勝平を含む男女6人が謎の組織に拉致監禁される。何らかの手段で意識を失わされていた6人は目を覚ますと1つの部屋に集められ、少女「園崎法子」と対面する。そして困惑する勝平に彼女は告げた。
「これはお祝いです。貴方がたは何よりも強い傷の絆で結ばれた。」
「この世界は争いが絶えません、我々には自分以外の他者の痛みを知りようが無いからです。他者の痛みを、苦しみを、自分の事のように考え譲り合う事が出来たら争いなど起こりようが無い。けれど人の想像力には限界がある。」
園崎は意識を失っていた6人の身体に手術を行い‘キズナシステム’という処置を施した事を説明した。キズナシステムとは「一人が受けた痛覚を同じシステムにリンクしている他者に等しく分配する」というシステムである。余りに突飛過ぎる話に困惑する6人だが、勝平が園崎にスタンガンを浴びせられた衝撃を5人全員が同時に受ける事で、この話が事実である事を確信する。
そして園崎は高らかに宣言する。
「キズのキズナで結ばれた仲間と数々の難関に立ち向かっていく。そう、今日から貴方がたは、キズナイ―バーなのです!」


この作品の評価に移る前に一つ語っておきたい事があります。それはこの作品の主題歌を担当している「BOOMBOOMSATELLITES(ブンブンサテライツ)」についてです。彼らは1990年に結成されたロックバンド。だが彼らを‘ロックバンド’と一言で括るのは余りにも失礼、それほど偉大なミュージシャンでした。狭義としては「ビックビート」と言われるテクノから派生したジャンルに属します。ジャンルで言われてもピンとこない方は代表格である「ケミカルブラザーズ」や「プロディジー」と聞けば解るだろうか。テクノとロックを融合させた彼らの音楽は聞く者を魅了し、海外でも高い評価を受けています。
そんな彼らが2016年5月、26年に及ぶ音楽活動に終止符を打ちました。そして彼らの最後の作品となるのが本作の主題歌「LAY YOUR HANDS ON ME」です。勿論私自身も若い頃から大好きなミュージシャンの一人でしたので活動終了は残念に思いますが、最後に彼ららしく素晴らしい曲を聴けたなと感じました。
実はキズナイ―バーを視聴する前に彼らが主題歌を担当している事実を知らなかったので、最初に聴いた時は鳥肌が立ちましたね。こう言うアニソンがもっと増えれば良いのに、と心から思います。


総評として…「どこか次世代のアニメを感じさせる作風は高く評価したい。但し独特すぎる部分も多くアニメ初心者には理解されにくい為、多くの支持を得られないという課題を抱えた作品。」と言った感じです。難しく言えば「抽象絵画のような作品」。簡単に言うと「ふわふわしている作品」という表現になるでしょか。アニメーションや漫画の様に空想的な世界を表現する作品は「どこまで空想を取り入れるか」によって分類されると考えられます。
レベル1(全てありうる)=ちびまる子ちゃん・サザエさん・クッキングパパなど…いわゆる大衆アニメ
レベル2(世界設定が有り得ない)=ドラゴンボール・ワンピース・ガンツ・進撃の巨人など…準大衆アニメ。世界設定に空想が入るが、登場する人物の内面的な部分には共感できる部分が多く、感情移入が誰にでも見込める作品。
レベル3(内面的なキャラ設定が有り得ない)=我々が愛するほとんどのアニメ…「こんな人間が現実に居る訳無い」と考える人にとっては感情移入しづらいため、受け入れられる人口が限定される。外見では無く、あくまで内面である事に注意。
レベル4(キャラクターの行動原理が理解できない)=本作はここに位置します。理不尽な要求にも関わらず、本作の登場キャラクター達は意外と素直に展開を受け入れます。また、途中で何度も襲われる敵キャラクターに関しても「既に身内である事が明らか」になっているにも関わらず真面目に応戦します。悪く言えば「とんだ茶番」ですよね。


上記では4つに分類しましたが、もっと細分化する事も可能だと思います。ただ余りにも長くなるため割愛しました事をご了承ください。ひとつ言える事として、アニメと言うものは「?」が増えるたびに「受け入れられる人口の絶対数が減少していく」という構図が存在する事は理解頂けたと思います。つまり有り得ないが多すぎて‘ふわふわしている’と言う事ですね。


さて、どうもここまでの解説では「本作を酷評」しているようにも思えますが、決してそんな事はないのです。上記分類では「レベル4」と位置付けましたが、本来「行動原理が理解できない作品」は「駄作」と紙一重なのです。ですが本作を決して駄作とは思いません。では本作と駄作は何が違ったのでしょう?
答えは「アニメを形作る‘外枠’がしっかりしている」という事だと考えます。つまり眼に見える部分がしっかりしていると言う事です。キャラクターのデザイン・アニメーションの作画・構成・音楽がしっかりしているからこそ、この作品は中身がふわふわしているにも関わらず外側でそれを漏らす事がなかったのです。これは非常に高いレベルを維持しないと実現しない事だと思いますので、その点に関しては監督の力量を伺えた作品であったと評価したいと思います。


一言でまとめますと「一部のマニア受けはするものの一般的な人気を確立出来ない」作品ですね。ただトリガーの作品はどれもそう言った作品が多いので、これは社風なのかもしれません。‘気の合う仲間たちが集まって自分達のやりたい事をやっている’というべきでしょうか?そう言った社風は「クリエイティブな活動」が可能となるので、当たり外れはあれど‘新しい物を作っていく’という原動力に満ちていると思います。そこがこの作品に感じた‘次世代のアニメ’という印象なのかもしれませんね。新しい物は反論も多くなる、これはもはやアニメに関わらず宿命かもしれません。ただ‘自分達のやりたい事をやる’という事は一般的な同人誌の活動と根本的な所では同じです。トリガーが「革新的な作品を生み出して皆をあっと言わせる会社」になるのか「いつまでも利益を追わない作品ばかりで世間に見放されていく会社」になるのか、今後の活動に期待したいところであります。


*以下はネタバレを含むため閲覧注意です!

{netabare}
11話後半で漆原睦が「ありがとう。キズナシステムが無くても、それが可能だと教えてくれて」と言いましたが「10代の若者が気付けないならまだしも、20代の大人なら自分で気付けよ」と感じたのは私だけでしょうか?山田と漆原はのりちゃんに負い目を感じているからこそ、そこに気付いてはいても‘彼女のやりたいようにやらせてあげている’のだと思っていましたので、ちょっと違和感を受けてしまうセリフでした。

そもそも感情が繋がれてしまったら人類はそこで停滞します。何もかもが1つの意思にまとめられてしまうので、競争が起こらず、イコール発展は存在しえません。もし1つの意思にまとまってしまえば人類は人類で無い‘別の何か’となるでしょう。そしてその‘何か’は‘大いなる意思’のままに行動をする…それでは‘自然現象’と何ら変わりは無いのです。人類は宇宙の自然現象の一部としての活動を繰り返す事になるでしょう。今までの人類を、過去を否定する事は未来を否定する事に他なりません。人類は今までの過ちを認め、決して無かった事にしてはいけないのです。
そこに気付かず、大真面目に研究を取り組んでいたのでは「危ないカルト集団」と言わざるを得ませんね。

良かった所はやはり9話後半でしょうか。グラウンドで皆の心の声がキズナシステムによって漏れてしまう所、溢れだす若い感情がとても良く描かれていました。声優陣の演技も迫力が伝わってとても良かったと思います。あとニコちゃんの切ない願望が良かったですね。「要らないならテンガくん頂戴…」のセリフが切なすぎて可愛いです。‘ちょっとドロドロし過ぎて観ていられない…でも指の隙間からこっそり観ちゃう’みたいなシーンでしたw この辺りの演出は優れているなぁと感心できました。
前述しましたがキャラクターデザインも好感が持てましたね。昔のアニメって原色に近い色合いが多かったですが、今作は色づかいもキレイでセンスが感じられました。今作に限らず、最近はそういうアニメが増えて嬉しいです。

あにこれでも‘悪くは無いけど…’くらいの評価が多いのではないでしょうか?点数も伸び悩んでいる感じですね。どこか幻想的で定義しづらい作品でしたが、ピンポイントで良い部分も沢山見る事が出来た作品でした。トリガーの次回作に期待です。
{/netabare}

投稿 : 2024/06/01
♥ : 43

タケ坊 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

ユニークかつ興味深い設定と巧みな脚本構成で描き切った青春群像劇

原作TRIGGER&岡田麿里による1クール、オリジナルアニメ。

タイトルの「キズナイーバー」とは一見意味が解りませんが、
内容を観ていくと、「キズ(傷)」「キズナ(絆)」「ナイーブ(繊細な)」な「バー(~な者達)」
という4つの単語を組み合わせて作られたものだということが解ります。
そして、タイトルロゴの「ナ」の部分だけ赤字で(ネタバレになるので書きませんが)ここも凝ってますね。


世界平和を目指すという崇高な目的の名のもとに、
キズナの会によって選ばれた、本来なら出会う事も仲良くなることもない7人のクラスメートが、
キズナシステムで強制的に「痛み」を分け合うキズナイーバーとして繋げられ、
夏休みが終わるまでの間、課されるミッションをクリアしていく事になる...といった感じのあらすじ。


☆物語の見どころ☆

最初は純粋に「肉体的な痛み」を分け合うだけだったキズナイーバーたちが、
ミッションをクリアしていくなかで、分け合うものが変化、増加していく過程。

キズナ実験の真の目的とは?

キズナイーバーの中でもひときわ閉鎖的な(ホノカ)が抱える心の闇、トラウマとは?

痛みを感じない、感情に乏しい主人公(カツヒラ)がなぜそのような体質になったのか?

(ノリちゃん)が頑なにキズナシステムで繋がることに拘る理由とは?
(カツヒラ)と同じく感情に乏しく見える(ノリちゃん)が抱えている秘密とは?
この二人の過去&「12年前のキズナ実験」が明らかになる終盤は特に観ごたえがあり、
物語はクライマックスへと向かいます。

キズナイーバー達の男女間に芽生える恋愛感情、
純粋に恋愛物語としてもキャラクターたちの心情が細やかに描写されており、充分楽しめると思います。


☆感想☆

1話観ただけではちょっと地味で面白そうにない!?と感じるかもしれませんが、
観終わってみれば、前半から終盤までよく練られた構成で、各エピソードの繋がりがスムーズで、
尺が足りないということもなく無駄がない。

そして尻上がりに物語は盛り上がっていき、最後はとても綺麗に纏まっていて、
ここ最近の作品の中では、シリアスでありつつ、かつユニークで興味深いテーマ&設定で、
ここまで巧く描き切った本格的な青春物語は稀だったように思います。

本作は同じく岡田麿里さんの手がけた作品「あの花」と比較してみても面白いと思いました。
「あの花」は過去に繋がっていた友人同士の絆を再び取り戻す事を目的とした物語でしたが、
本作は強制的にシステムで繋げられた、「作られた関係」から、
登場人物たちがお互いをさらけ出し、感情を理解&共有することを経て、
システムに頼らない本物の絆、友情で繋がっていく過程を描いた物語。

恋愛面や各キャラの内面の描き方など、なるほど同じ人が作ってるなぁというのがよく判ります笑
「あの花」ほど泣きの演出が全面に押し出されていなかった事もあり、
分り易い感動や泣き、というのは得られ憎いかもしれませんが、
こちらはジワジワと来るものがあり、
テーマ&設定の妙、シナリオの完成度的には勝るとも劣らないくらいによく出来ていると自分は思います。


自分はまずキズナシステムが目指したもの、コンセプト自体が非常に興味深いと思いました。
第一話で「争いが絶えないのは他者の痛みを知りようがないから」「人の想像力には限界がある」
とは(ノリちゃん)が語った言葉ですが、まさしくこれは的を得ていると思うし、深い言葉ですよね。

他人が受けた「痛み」はいくら「共感」することが出来ても、
その人が受けた痛みと同じだけのものを感じることはどう頑張っても出来ない。
所詮は他人事なんですよね。。

でも他人事だからこそ、痛みを感じることが出来ないからこそ、
如何に接し振る舞うべきなのか、「他者への思いやり」と言ってしまえば軽いですが、
人間としての生き方や本質に関わってくるところですよね。。

また、一話(ノリちゃんの)「みんな誰かと繋がっていたい」というのもよく理解できるところ。
自分含め皆さんが「あにこれ」を利用しているのも、きっと誰かと繋がりたいから、なはず。
昔に比べて社会での人間関係、地域でのコミュニティが希薄化してきつつある現代においても、
やはり人は誰かと繋がっていたいんですよね。
だからこそ、SNS等様々なツールを使って繋がろうとする。
そんな現代に則したようなテーマと内容は興味深く、また観るべき意義のあるものでした。

本作では友情という絆で繋がっていく青春物語の方向へ物語が向かいましたが、
キズナシステムが世界中に広がった後の世界、を描く社会派SF作品、
という物語でも非常に面白い壮大なスケールの作品が作れそうな気がしました。


☆声優☆

個性豊かなキャラクター一人一人に合わせたキャスティングが見事にハマってますね。
人気や経験だけじゃなく、キャラクターのイメージを第一に考えて選んだんだろうな、というのが本当によく判ります。
もちろん個々の演技も感情を豊かに表現するキャラの演技、
逆に感情の起伏を極力現さないキャラの演技はとても良かったですね。

中でもニコを演じた久野美咲さんは、キャラ的にもとてもハマっていましたが、
演技自体もこれまで観た作品の中でも特に上手く演じられてたなぁと思いました。


☆キャラ☆

登場人物個々の特徴や個性が非常に豊かでありつつも、かつ多すぎないので、
1話観ればほぼ全て覚えられますね。
そして、各キャラの抱えている想いや苦悩といったものも、丁寧に掘り下げられており、
視聴者に解りやすく共感ができるように描かれているのは好感が持てます。

TRIGGERの「熱さ」、岡田麿里さんの「繊細さ」、
この組み合わせの相乗効果がよく表れている描かれ方のように思います。

突拍子もない不思議系でありながら、ここぞという場面で重要な役割を果たす(ニコ)、
変態的な性癖を持ちつつも、実は周りの状況を一番冷静に俯瞰で見ていた(ヒソム)、
この二人のキャラが居ることで、作品がシリアス一辺倒にはならずに、
ユーモアにも溢れた絶妙のバランスを保つことに貢献していたと思います。

「あの花」に出てきた(あなる)と本作の(ちどり)の描かれ方なんかは、
主人公との関係性も含めて、凄く似てましたね笑


☆作画☆

TRIGGER作品以外では殆ど見られないようなキャラクターデザインが特徴的で個性的。
一人一人の特徴を解りやすく捉えて区別して描かれていますね。
また、色彩感覚がとても美しく鮮やかなのも印象的で、
作画全般良い仕事をされてるなと思いました。


☆音楽☆

OPは幻想的かつ浮遊感のある楽曲で、個人的に春アニメでは一番お気に入りの曲だったので、
最終話までOPを省かずに流してくれたのは嬉しかったですね。
英詩ですが作品の内容、OPアニメーションとの相性も抜群でした。

EDの方が楽曲的にはOPよりも個人的には印象は薄いんですが、
こちらは脚本の岡田麿里さんが歌詞を手がけているんですよね。
さすがに作品そのものの世界観をずばり歌われてて、この点はアニソンとして高く評価するべきでしょう。

OP,EDの出来に比べると、やや作中のBGMは盛り上げ方が少々地味だった気もしますが、
(音量がちょっと小さいかも?)、
逆にあまり入ってこないくらい集中して観ることが出来たのかも知れませんね。


「オリジナルの1クールアニメ」としては、派手さも控えめで馬鹿でも楽しめるようなエンターテイメント性も薄く、
正直爆発力は無いとは思いますが(唯一惜しい点)、非常に真面目な作風で好感が持てます。
声優、作画、音楽などのクオリティ面も優れており、完成度の高い作品に仕上がっていると思いますね。
なんとなしに観るんじゃなく、最後までじっくりと作品を観れる方にはオススメしたいですね。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 12

79.3 3 2016年度の科学アニメランキング3位
天鏡のアルデラミン(TVアニメ動画)

2016年夏アニメ
★★★★☆ 3.7 (901)
4999人が棚に入れました
隣接するキオカ共和国と戦争状態にある大国、カトヴァーナ帝国。その片隅で一人の青年が戦乱に巻き込まれようとしていた。名はイクタ・ソローク。戦争嫌いの怠け者で女好きという、およそ軍人とはかけ離れた人物だ。幼馴染であるヤトリシノ・イグセムとともに高等士官試験を受けた彼は、二次試験への送迎船で、看護学校出身のハローマ・ベッケル、旧軍閥名家のマシュー・テトジリチ、そしてヤトリと同じく忠義の御三家の一角、レミオン家のトルウェイ・レミオンと出会うこととなる。道中、彼らと賑やかな時間を過ごしていたその時、突如船が座礁する。総員退艦となり脱出する5人……だが、そこで一人の少女が船から海へ落ちる姿が目に入る。ためらわず、大荒れの海に飛び込むイクタ。そして、彼は少女の小さな手を握った。時に帝歴905年。それが後に常怠常勝の智将と呼ばれた男と、帝国最後の皇女と呼ばれた女の初めての邂逅。“約束された敗北"へと向かう、物語の発端である――。

声優・キャラクター
岡本信彦、種田梨沙、水瀬いのり、金本涼輔、間島淳司、千菅春香
ネタバレ

yuugetu さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

内容の詰まった戦記物でキャラクターを見るのも楽しい

2016年夏アニメ。ライトノベル原作、全13話の戦記物です。
原作は2巻途中まで読了。ペースとしては原作3巻までのアニメ化のようですね。
原作より全体的に地味な印象に作られたアニメというのも珍しいかも。

キャラ物と戦記物のバランスの良さが良いですね。これは原作の良さでもあり、きちんとアニメにも反映されていると思います。
原作からのカットや短縮が沢山あるだろうと思っていたのですが、原作の内容もかなり詰まっているのであまりカットしていませんね。全13話でストーリーをキリの良い所まで進めるためにどうしても詰め込み気味になってしまった印象。
カトヴァーナ帝国の斜陽ぶりがわかりにくくなっていることと精霊の活躍が少なくなっていること、軍事関係のシーンが少なめになっているのも勿体無い点ですが、原作の進み具合からしてここしか切りようがなかったと思われます。
必要な情報を言葉での説明に頼らない(あるいは尺のために削らざるを得ない)ため、繰り返し視聴する人向きだと思います。

キャラクターは全体的に個性がわかりやすくイクタ以外のメインキャラクターが皆常識的なので、かなり見やすいと思います。人間関係もさっぱりしていてとても印象がいいです。
イクタは女たらしだったりと癖のある性格で、何話か進まないと良い所がはっきりと出てこないので苦手な人は苦手だったようですが、私はとても好きですね。{netabare}「人材の適材適所」という考えがイクタ本人にあるため、汚れ役を引き受けることが多くて痛々しいシーンもあるのですが、そこが良いバランスになっています。{/netabare}

キャラクターの配置も上手で、完璧系キャラと成長型キャラの両方が味方におり、それぞれに抱える問題・はっきりした美点欠点が設定されているため、誰にも感情移入できるし、好みのキャラクターは見つけやすいと思われます。

精霊も可愛くて好きですね!
見た目はちょっと癖がありますが動きや仕草が可愛らしく、主人に対する献身が健気ですし、物語に必要な存在として大切に描写されマスコット然としていないのが好印象です。……ねじまき要素は原作でも大分後にならないと出てこないという話。それはちょっと残念です。

キャラクターデザインに原作イラストよりずっと地味な絵柄を選択したのはチャレンジだったと思います。
でも堅実な世界観を作るという明確な意図が感じられて面白いですし、それぞれ良し悪しはありますが、個人的にはマシューのキャラクターがしっかり嵌っているのはアニメ版の絵柄だと思います。

戦闘シーンに作画全力投球というのが徹底していて素晴らしいです。接近戦に力が入るのは勿論ですが、長距離狙撃のシーンも本当に丁寧な作画ですし。
他の部分も常にきちんとしていて、コンテ演出も常に安定していて映像面で違和感は全くありませんでした。

OPは絵と歌詞の意味が物語が進むにつれ分かって行く作りで、最後まで見るととても感慨深かったです。じわじわ嵌って行きました。

{netabare}
第5話で子ども時代のイクタのヤトリに対する「君がいないと僕怪物に食べられちゃう」の台詞が色々想像させられますね…怪物とは狼の群れなのか、他の何かなのか。
むしろ人間を襲撃したものの返り討ちにあい、群れを崩壊させられた狼達のほうが喰われた側という描写なのが意味深です。
狼たちも幼少のイクタとヤトリも、戦った理由は生き残るため。弱肉強食ならぬ弱肉弱食とでもいうべき構図がやりきれない。
(※「弱肉弱食」という言葉は何年も前にどなたかのブログで見かけました。ブロガーさんのことも内容のことも今ではうろ覚えなのですが、酷く象徴的なこの言葉が忘れられません。)

人間もまた、正常な感性を持ち泥を被ってでも誰かを守ろうとする人(リカン中将、トァック少佐、カンナ、デインクーン)ほど腐った国に、あるいは周囲の大きな意思に喰われ飲み込まれていきました。
主人公であるイクタでさえ相手を納得させる言葉を用意することで自分の意志に他人を巻き込んでいくのですが、そこに理性と誠意があるからやりきれないものにはならずに済む。
他者と関わり合いながら生きていく上で人は「喰らわずにいられない存在」なのかも知れませんが、喰うか喰われるかの関係にならずに済む方法も、イクタの生き方によって明示されているのが良いなと思います。

第9話「ささやかな面目の行方」での食堂のシーンは正直その時は笑って見ていたんですが、「戦士」「勇者」にさらには「騎士」と次話で「ケダモノ」という言葉が飛び出したことで、人間のサガと理性、第5話で示された喰うものと喰われるもの、第8話「いつか、三度目に」から繋がる守りたいものと守れないもの、と明確にテーマ性が纏まっていく興味深い構成になっていると感じました。
……まさか伏線なんて思わなかったよ、あの猥談シーンw 考えてみれば尺がカツカツなんだから無意味なシーン入れるわけ無いですねw

「戦士」と「勇者」を飾らない自分だとすれば、「騎士」は他者にいかに誠実に向き合うかという理想を自分自身に課す在り方なのではないかと思います。
そして「ケダモノ」は自分のために他者を食い荒らすことに抵抗感を持たない存在。それは仔のために人間を襲った狼にさえ劣る在り方です。

シャミーユが願う国の在り方は、国を人に見立てるならば「騎士」に近いものなのでしょうね。しかし、シャミーユは自身の目的のためにイクタを喰らい飲み込もうとしています。敗戦国の軍事最高責任者なんて、正しく“すり減らされて捨てられる英雄”であるのは間違いないのですから。
イクタにとっては大事な存在(ヤトリ)を喰われないために逃げ出すか、人を喰らうばかりでない国を作るかという二択になるわけですが、どちらにせよ、仲間や身近な人が喰らわれる可能性は非常に高い酷な選択です。

イクタとヤトリの信頼関係を象徴する演出として二人の背中合わせの構図が一貫して強調されてきましたが、向かい合うシャミーユとイクタは全く正反対の関係性なのですよね。喰うか喰われるかという緊張状態にさえ見えてしまう。
第1話からずっと見て来たこのOP、本当によく出来ているなと思います。
{/netabare}

他の人の感想にもあるとおり、先がすごく気になる作品になってしまいましたが、本作単品でも十分に楽しめるようにはなっています。
色んな理由で1クールでの構成が難しい作品だったと思われますが、ヤスカワショウゴさんのシリーズ構成凄く良かったです。
物語の入り口という形にはなってしまいますが、気になる人にはオススメします。(2016.11.17)

投稿 : 2024/06/01
♥ : 20

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★★ 4.3

あれ…ねじ巻きはどこに行っちゃったの…!?

この作品の原作は未読ですが、種田さん、水瀬さんが出演する事を知って視聴を決めた作品ですが、序盤の視聴ですっかりこの作品の魅力にハマってしまいました。

この物語の主人公は、17歳のイクタ・ソローク…彼は軍の名門イグセム家の令嬢であり幼馴染でもあるヤトリシノ・イグセムと高等士官試験に臨むため船出するところから始まります。

その船には、狙撃手のトルウェイ、旧軍閥のテトジリチ家の長男であるマシュー、衛生兵のハローマ…そしてなぜか帝国第三皇女シャミーユも乗船していたのですが、船が嵐によって沈没してしまうのです…

一行は地上に流れ着き一命を取り留めるのですが、流れ着いた先は帝国と戦争状態にある隣国のキオカ共和国だったんです。
彼らの選択肢は二つ…自国の領土まで逃げ延びるか、捕虜となって捕まるか…
紛争中の国境近くでもあるこの場所は敵の見張りの目も厳しく、簡単に逃げられる場所ではない事を認識させられるイクタ達…
きっと帝国第三皇女であるシャミーユ殿下は恰好の交渉材料となるでしょう…
でもそれは一つ間違うと戦局の大きく影響の出る可能性を秘めている…
こんな困難の中から物語が動いていきます。

この作品で第一に感じるのは、主人公であるイクタと幼馴染であるヤトリシノとの関係です。
ヤトリシノのCVが種田さんである事も相まって、彼女に流れるイグセムの血を重んじ、騎士として凛とあろうとする姿は堪らないくらいに魅力的…
でも、彼女が凛としていられるのは、傍らに必ずイクタがいるからにほかなりません。

このイクタ…「食わせ者」とは、正に彼の事を指す言葉といっても過言ではありません。
常日頃からいかに怠けるかを考えており、「怠ける時は怠けるが、怠けるための努力は惜しまない」が彼のモットー。
でもその実態はイクタが師と仰ぐ科学者アナライ・カーンの弟子一人で、彼が口にする「怠ける」とは「効率が良い」事と同義なんです。

例えば1日かかる仕事をやり方を工夫する事で半日しかかからなかった…
余った残りの時間は自分で好きなように使う…これがイクタの言う「怠ける」です。
人は面倒くさい事が嫌いで「安心・安全・安泰」が大好き…というのは本当だと思いますし、文明の発達もこの発想に基づいた部分が多いと思います。

でもイクタが怠ける事を追い求めた結果、彼に待っていたのは彼の人生における3重苦でした。
ただイクタにとっての3重苦が世の中全ての3重苦とはならない事を彼は知っており、軍人としての道を歩き始まるのです。
でも、イクタが軍人として歩むようになってからが面白さの本領が発揮された作品だったと思います。

それとこの作品の登場人物として重要なのが「精霊」の存在です。
火・水・風・光の4種類に分けられた精霊は手のひらサイズで、人間一人につき一体の精霊をパートナーとする事ができるんです。
精霊は武器の動力として使用できるだけでなく、人間に忠を尽くす存在なので一部では神から遣わされた存在として崇められています。

実はこの作品のタイトルを一目見た時から気になっていた事があります。
「ねじ巻き精霊戦記」です。精霊とねじ巻きって、アンマッチ過ぎ…だから物語の中でどの様な関わりを持っていくのかが楽しみで仕方ありませんでした。
でもそれは結局作品の中で触れる事はありませんでした…原作は10巻まで発行され、さらに連載も続いていますが今回アニメ化されたのは原作の3巻まで…つまりまだまだ序盤という事なので、そのうち制作されるであろう続編の中で明らかにされるのかもしれません。

イクタの前に広がるのは、見方の圧倒的不利な状況ばかり…
後に「常怠常勝の智将」と呼ばれるイクタでも味方の犠牲を一人も出さずに…という訳にはいきません。
それに智将よ呼ばれる人物は、この世でイクタ一人…という訳でもありません。
どんなに最善を尽くしても守りきれなかった命は一つや二つではありません。

自らの判断が…命の優先順位が間違っていると罵られた事もありました。
きっと普通に諭すことができるなら…そんな状況が許されるなら罵られる事もなかったでしょう…
でも戦争がそんな言い訳すら許してはくれないんです。
誰もがイクタの様に状況を俯瞰できる訳じゃない…
少しでも味方の犠牲を減らしたいだけなのに…
身に付けていたモノだけが淋しげに残されている…そんな状況を見たくないだけなのに…
気になる方は是非本編でご確認下さい。
私にとってダークホース的存在の作品でした。

この作品の続編は是非とも見たいところですが、乗り越えなければいけない壁があるのも事実だと思います。
最大の壁は声優さんの復活だと思っています。
この作品には、ヒロインのヤトリシノ・イグセム役に種田梨沙さん、そして藤原啓治さんも出演されていますが、お二人とも現在療養中です。
幾つかの索引では代役も決まったようですが、既に世に出回っている作品の出演者が変わるのは淋しい限りですし、ヤトリシノ役は種田さん以外は考えられないと思っています。

でも…wikiで彼女の出演した作品を見ると病気になるのも仕方ないような気がします。
出演される殆どの作品はメインキャラで、テレビアニメ、OVA、WEBアニメ、劇場アニメ、ゲームにドラマCD…それに吹き替えやラジオにまで出演しているんです。
それだけ彼女のニーズがあるからなんですけれど…
これだけ忙しかったら、自分の出演した作品もまともに見れていないのでは…と思ってしまいます。
絶対元気な姿をもう一度見たい…そう願っています。

オープニングテーマは、岸田教団&THE明星ロケッツさんの「天鏡のアルデラミン」
エンディングテーマは、鹿乃さんの「nameless」
相変わらず歌い辛いですが、岸田教団&THE明星ロケッツさんのオープニングは恰好良いの一言です。
しっとりとしたエンディングも好きでした。

1クール計13話の作品でした。物語的にも見どころがあり出演している声優さんも豪華…しっかり堪能させて頂きました。気になる続編…の前に療養されている声優さんの復帰を祈念しています。

投稿 : 2024/06/01
♥ : 26

青龍 さんの感想・評価

★★★★☆ 4.0

「殴りたいときに殴るのが原始人、攻めるべきときに攻めるのが軍人、そして、言うべきことを言いたいときに全部言うのがイクタ・ソロークだ!」

宇野朴人による原作小説は、『電撃文庫』(KADOKAWA)にて刊行中(全14巻、原作未読)。『第2回ラノベ好き書店員大賞』3位、『このライトノベルがすごい!』作品部門2位(2014年)。
『転生したらスライムだった件』などの川上泰樹によるコミカライズ版は、『電撃マオウ』(KADOKAWA)での連載が終了(全7巻、コミカライズ版既読)。
アニメは、全13話(2016年)。監督は、市村徹夫。制作は、『葬送のフリーレン』、『AIの遺電子』などのマッドハウス。
(2024.5.16投稿、5.27一部推敲)

本作は、単純にいうと、『進撃の巨人』、『銀河英雄伝説』、『ヘヴィーオブジェクト』、『幼女戦記』、『戦場のヴァルキュリア』、『終末のイゼッタ』、『86』あたりの「軍師」、「戦略・戦術」、「ミリタリー」要素高めだが、リアル志向に寄りすぎず、そこにファンタジー(非現実的)要素を追加した作品が好きだとハマる可能性が高いです。

ただ、いくつか人によって好みが分かれそうなところがあるので、そこを説明しつつ、個人的に好きな作品で続きが観たいので応援する意味を込めて今回レビューを書きたいと思います。


【あらすじ】
本作は、気球や狙撃銃(ライフル)が出始めの頃であることから19世紀のヨーロッパ的な世界観を基礎として、そこに「火・水・風・光」の四大精霊が人間のパートナーとして生きるファンタジー要素を追加した架空の世界が舞台。
そこに、貴族・官僚の腐敗により国力が衰え皇帝が傀儡と化した「カトヴァーナ帝国」、帝国からの難民や科学者などを積極的に受け入れ急速に勢力を拡大した「キオカ共和国」、両国に匹敵する国力と軍事力を保有しアルデラ教の総本山である「宗教国家ラ・サイア・アルデラミン」が鼎立。
(ちなみに、「アルデラミン」とは実在するケフェウス座のα星で、この星を調べるとネタバレに…)

カトヴァーナ帝国に住み、「昼寝と徒食と女漁り」を愛する主人公のイクタ・ソローク(CV.岡本信彦)は、幼馴染で「皇室の剣」であることを運命づけられた軍部の名門イグセム家出身の二刀流剣士ヤトリシノ・イグセム(愛称ヤトリ:CV.種田梨沙)を主席合格させるため、ヤトリと共に帝国の高等士官試験に臨む。しかし、その途上で船が嵐により沈没、同じ受験生や、まだ幼き帝国第三皇女シャミーユ(CV.水瀬いのり)と共に、帝国と戦争状態にあったキオカ共和国に漂着する。そこから彼らは、イクタが一計を案じて帝国に無事帰還することに成功し、「帝国騎士」に叙勲されることに。しかし、それはイクタが絶対になりたくないと思っていた軍人、貴族、そして英雄になることを意味していた…


【独特の世界観】
まず、19世紀ヨーロッパぐらいの文明レベルを持ちながら、精霊が実在するという独特の世界観が魅力的。例えば、ライフルの動力源が風の精霊だったりします。

ただ、この精霊、本作では謎があることをほのめかす程度ですが、本当に精霊なのかも含めて謎に包まれた存在です。

あと、主人公とその仲間以外の人たちが、あっさり死にます。また、民族差別や宗教問題なんかも出てくるので、この辺はリアル寄りの描写になってます。


【「常怠常勝の智将」イクタ・ソローク】
次に、本作は、後に「常怠常勝の智将」と呼ばれることになる主人公イクタのロジックに基づいた知略が見処になってます。

ただ、本作では、准尉という一番下の士官で本来動かせる兵員が少ないにもかかわらず、戦争の大局に影響を与えてしまうような活躍をするので、若干ご都合主義展開と感じるかも。

また、イクタは、その生い立ちに秘密があって、「常怠」と評されるように、ちょっと性格に一癖あるキャラクターになってます。

例えば、「殴りたいときに殴るのが原始人、攻めるべきときに攻めるのが軍人、そして、言うべきことを言いたいときに全部言うのがイクタ・ソロークだ!」なんて彼の自己紹介にそれがよく表れていると思います。

もっとも、そんなイクタも困難な状況に直面し物語の進行とともに成長していきます。


【イクタとその仲間たち】
あと、イクタが嵐にあって一緒に漂流し、その後仲間になる面々、イケメンが嫌いなイクタから嫌われるも人が良すぎて許される狙撃兵トルウェイ(CV.金本涼輔)、本作の普通の人枠で上昇志向が強く小太りの突撃兵マシュー(CV.間島淳司)、癒し系かと思いきや悪気なく本音を言ってしまう衛生兵ハローマ(CV.千菅春香)のキャラが立っていて、そのやり取りが面白い。

特に、お互いに複雑な事情を抱え明確な恋愛関係にはないけれど、言葉の要らない強い信頼関係に基づいて抜群のコンビネーションをみせる、軍師イクタと剣豪ヤトリの関係性が本作の見処の1つ。


【最後に】
もっとも、本作では、イクタとヤトリの今後について、これから二人が抗うことの難しい運命に翻弄されるような匂わせがあるものの、そこ止まりで終了。続きを作ってくれないかなあ…

投稿 : 2024/06/01
♥ : 8
ページの先頭へ