スチームパンクで復讐なTVアニメ動画ランキング 3

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87.4 1 スチームパンクで復讐なアニメランキング1位
甲鉄城のカバネリ(TVアニメ動画)

2016年春アニメ
★★★★☆ 3.8 (2064)
10000人が棚に入れました
世界中に産業革命の波が押し寄せ、近世から近代に移り変わろうとした頃、突如として不死の怪物が現れた。鋼鉄の皮膜で覆われた心臓を撃ち抜かれない限り滅びず、それに噛まれた者も一度死んだ後に蘇り人を襲うという。後にカバネと呼ばれる事になるそれらは爆発的に増殖し、全世界を覆い尽くしていった。

極東の島国である日ノ本の人々は、カバネの脅威に対抗すべく各地に「駅」と呼ばれる砦を築き、その中に閉じ籠もることでなんとか生き延びていた。駅を行き来ができるのは装甲蒸気機関車(通称、駿城)のみであり、互いの駅はそれぞれの生産物を融通しあうことでなんとか生活を保っていた。

製鉄と蒸気機関の生産をなりわいとする顕金駅に暮らす蒸気鍛冶の少年、生駒。彼はカバネを倒すために独自の武器「ツラヌキ筒」を開発しながら、いつか自分の力を発揮できる日が来るのを待ち望んでいた。

そんなある日、前線をくぐり抜けて駿城の一つ甲鉄城が顕金駅にやってくる。車両の清掃整備に駆りだされた生駒は、義務であるカバネ検閲を免除される不思議な少女を目撃する。
その夜、生駒が無名と名乗る昼間の少女と再会するなか、顕金駅に駿城が暴走しながら突入してきた。乗務員は全滅し、全てカバネに変わっていたのだ!
顕金駅に溢れ出るカバネたち。パニックに襲われる人々の波に逆らうようにして、生駒は走る。今度こそ逃げない、俺は、俺のツラヌキ筒でカバネを倒す!

──こうして、本当に輝く男になるための生駒の戦いが始まるのだった。

声優・キャラクター
畠中祐、千本木彩花、内田真礼、増田俊樹、梶裕貴、沖佳苗、伊瀬茉莉也、逢坂良太、佐藤健輔、宮野真守
ネタバレ

ossan_2014 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3

ゾンビの社会学

*誤記訂正

幕末を思わせる武家社会に蒸気工学が入り込んだ架空の日本で、「カバネ」とよばれるゾンビの襲撃を退けて生存をはかるスチーム・パンク世界。

壁の内部に浸透しようとする圧倒的な脅威を、生存をかけた決死の努力で押し戻そうとする物語は、人種問題、階級と支配、移民と棄民、他者との結びつき、社会からの承認、若者の成長といった諸問題を、トッピング全部乗せのカレーのように、これでもかといった勢いで盛り込んでいる。

ちょっと盛り込みすぎではないかと思うものの、流麗な映像に導かれた視聴者を、それぞれの好みに応じた視点と見方によって楽しませることを可能にするのものだ。


成長する若者が他者との結びつきを獲得していく物語は、上記のような理由で、ちょっと違う視点から鑑賞することが可能だ。

{netabare}この架空の「日本」では、政治的には「武士」によって支配されているようだ。
経済的には「豪商」のような影響力を持った「商人」が描写されているが、「武士」が政治権力を所持しているのは、階級としての「武士」集団がこの社会で唯一の「暴力装置」であるからだ。

暴力装置と一体化した権力には二面性がある。
構成員の暴力を支配して禁じるとともに、暴力の生じる現場において唯一の主体として暴力を行使すること。

物語の序盤において、甲鉄城の内部で、武士が支配者然として権力的に振る舞うのと同時に、「農民」や「町人」を代表する「商人」から安全を要求される=安全を与える義務を持つものとして描写されるのは、「武士道」のような倫理性ではなく、このような暴力装置の二面性に根拠がある。

社会がカバネのような暴力的に対立する脅威に直面したとき、唯一の暴力装置である「武士」が、これを排除しなければならない。
全社会的な危機管理という点では、不十分とはいえ一定の効果を持つ「銃」という量産可能な武器があるのだから、広くこれを配布して迎撃するのが効果的だろう。
が、暴力装置としての権力の維持のためには、他の階級に暴力を分配することは許されない。
この社会体制を自明のものとして内在する「農民」や「町人」たちも、自ら暴力を担うことは発想できないし、武士に対して暴力を行使せよと要求することしかできない。
「暴力」をすべて「武士」に委ねることによって、他の全ての階級は武士の権力に屈服すると同時に、武士に対し「暴力」でなければ解決できない問題を一手に引き受けるよう強制する。

だが、カバネの脅威を武士の暴力だけで排除できなくなったとき、この社会体制は揺らがざるを得ない。

「甲鉄城」内部の社会が、当初の階級対立的なギクシャクしたものから、やがて一体感のある結びつきが生じるように見えるのは、ジュブナイル的な「みんなの心が一つになる」という描写ではなく、外圧によって破綻しつつある社会体制がリソースの統合と配分先の変更を強制されるという必然だ。

階級を問わず「戦闘力」のある者をすべて戦闘に参加させ、農民や町人の女子供も、いわば「兵站」のように戦闘員を生活面で補助する「甲鉄城」の「総動員体制」は、カバネに対する生存闘争という喫緊の最優先課題のために、社会体制を変更せざるを得ない事態を表している。

社会の潜在的なポテンシャルをすべて戦闘に集中して、脅威を退けること。

全員が戦闘に加担する「総動員体制」下で、暴力を担う「唯一」性を喪失した「武士」が、支配的な「権力」をも喪失し、全乗客と融和して行くような描写は、このように「心のつながり」とは位相の違う必然性による。


「甲鉄城」内で一種の体制転覆を生じさせたものは、カバネの脅威が「武士」の行使する武力の限度を超え、「甲鉄城」という「社会」全体を抹殺しつつあるという事態が生じたからだ。

逆に言えば、カバネの脅威が、武士の武力によって、社会が崩壊しない限度内にとどまるものであるならば、この社会体制が揺らぐことはない。
中盤にカバネの脅威がそれほど深刻ではない「駅」が登場するが、そこでは武士による支配と秩序が安定的に機能している描写に、それは現れている。

いや、もっと積極的に、カバネの脅威が武士によって撃退可能と看做され得るなら、カバネの存在は「暴力装置」の権力と支配を一層強固なものにするだろう。

カバネによる被害が「武士」のコントロール下に制御可能となれば、カバネという脅威は、「武士」という唯一の「暴力装置」の権力を強化する原動力ともなる。

「解放者」美馬による「壁」の破壊が反感を呼び起こすのは、「無辜の」一般人を危険に直面させるからではない。
「平等に」危機と闘わせると称しながら、対カバネ戦闘のノウハウや研究成果を独占したまま暴力装置の「唯一」性を手放そうとはしないからだ。
圧倒的な脅威に襲われ、これと戦わずには生存できない状況では、戦闘と無縁の「無辜の」人間は存在できない。
この意味では、社会の全構成員を戦闘に引きずり込むことには一抹の正当性がある。
が、それならば戦闘の「ノウハウ」や「研究成果」を公開しなければ筋が通らない。
それらを秘匿したまま戦闘=生存闘争を強制するのは、「唯一」性を担保した権力構造の強化でしかない。

これに対し、ラストで、冒頭で「要求」するだけだった「豪商」が、「甲鉄城」の一員として避難民の誘導に従事する描写は、甲鉄城「社会」が、暴力の唯一性が解体されて全員に拡散する「総動員体制」として再編され終えたことを示している。


再編の原動力は「いつか米を腹いっぱい食べたい」という「夢」を全員が共有したことだが、これもジュブナイル的な「みんなの心が一つになる」ドリームではなく、社会が機能するためには何らかの価値の共有が必要であるという必然に過ぎない。

これは社会が機能するためには「目標」を掲げなければならない、という事ではない。
何らかの共通価値を「たまたま」共有できたとき、「結果として」その社会は生き延びる「可能性」が統計的に高い、という事だ。

甲鉄城「社会」を甘っちょろいドリームと嘲笑う事も可能だが、その前に、ほぼすべての社会で「正直に生きろ」という価値観が支配的であることを考えてみるべきだろう。
そんなものは綺麗事で他人をだました方が得だ、と考える人間は、有史以来数えきれないほどいたに決まっている。
にもかかわらず、「正直は美徳」という価値観が支配的であるのは、「結果として」正直を尊ぶ社会の方が数千年の歴史の淘汰を乗り越えて生き延びるために効果的であった、という事を意味している。

「夢」の下に「総動員体制」で階級の区別なく結束する甲鉄城「社会」は、生き延びる「確率が高い」だろう。
美馬の一見して「本音」ふうの社会改変よりも、甲鉄城の社会再編を優位に描く描写は、このような必然に支えられていると見ることができる。


若者の成長物語としては平板でありきたりだと感じた視聴者も、このような視点から見ると少し違った楽しみ方ができるかもしれない。{/netabare}

投稿 : 2024/05/04
♥ : 12
ネタバレ

sekimayori さんの感想・評価

★★★★☆ 3.5

D.C. 【53点】

カバネの脅威に晒された架空の日本で生きようとあがく人々を描いた、和風スチームパンク・パニックアクション。


■D.C.(演奏記号。「冒頭へ戻る」の意)
決して見どころの無い作品ではありません。
しかし、描こうとした(ように私には思えた)主題については、その提示とリフレインに終始してしまった。
制作陣が「起承転結」の「転」「結」を意図したであろう後半数話で、物語が振り出しに戻ってしまった。
その意味で、私にとってのカバネリは、「承」までしかたどり着けなかった物語。
{netabare}

私がこの作品に心惹かれたのは、作品世界を覆う構造的な病理を1話で露わにし、打ち払うと宣言したからです。
階級的社会制度、そこに巣くう内向きで臆病な規律。
それを喝破して、弱い自分たちが残酷な世界に真正面から立ち向かうべきだと叫んだ。
「弱い僕らが、それでも生きていくということ」という、強迫観念的にまで切実な命題を(単純ながら、それゆえに普遍的なひとつの社会シミュレーションの上に)立てたように思えて、『進撃』的なものの正当発展系を見せてくれる予感を抱きました。

実際に前半のプロットは、その期待に応えてくれるものでした。
2話では、弱い者のルサンチマンと生への執着、弱さによってそれを手放そうとしてしまう生駒の無力さ、そしてそれを救い出す無名の強さを。
3・4話では、弱い者たちの衝突と共闘、新たにする「生きてゆく」決意を。
5話・6話で無名の弱さを明らかにし、7話で甲鉄城の女性たちのしたたかさ(漢字では“強さ”と書く)を描き。
そして、単に生き延びるだけではなく、その先でいかに「生きてゆく」のか、ビジョン(田を耕し、親の想いを継ぐという、人としての生を回復する)の発露を見せてくれた。
穂積と名付けられた娘が「お米をお腹いっぱい食べたい」と願うことは、「生きてゆく」ことが生存のみに留まらない豊かな営みであることを再確認するようで、サバイブ系作品としても貴重な視点だったと思います。
設定や細部の物語展開は粗削りながら、画面の熱量と甲鉄城に乗って泥臭い生の物語が疾走してゆく様は、王道終末活劇として見ごたえがありました。

で、以上の「起承」を受けて物語が転がりゆく後半。
生駒たちの前に、美馬が立ちはだかります。
テーマレベルで言えば、生駒たちに「生きてよいのは強者のみ」という“アンチテーゼ”がぶつけられた、ということ。

だけど、ちょっと待てよ?
「承」で広げられた問いは、「どのように」生きてゆくかのはず。
「生きてゆく」こと自体の是非、もっかい問い直しちゃうの?
そこはスルーしても、「生きてよいのは強者のみ。だからみんなカバネに襲われて淘汰されてしまえばいいんだ」という主張の現実性・妥当性がわからない……。
つまるところ、私が見る限り、美馬の主張は“アンチテーゼ”として成り立ってなかった。

美馬の間違った「強さ」は弱く臆病な将軍が生んだものであり、美馬自身も(最後に自ら語るように)臆病者として描かれています。
自らが臆病者であるという認知は、「弱さを受け入れて、なお抗いながら生きる」ために、必要な過程ではある。
しかし、それは既に前半で描かれていたこと。
将軍の弱さが人の作り上げた社会制度に裏打ちされていることを踏まえると、そうした歪みによって生まれ、世界の脅威よりも自己のエゴを人々に押し付ける美馬を生駒が否定するというのは、1話で見せた展開そのものです。
(そもそも、美馬がそーゆー存在として描かれたのかすら自信を持てないけど。
復讐に満足したかと思えば「次は何を壊そうか」だし、次の瞬間には生駒殺そうとしつつ視聴者の知らない内に白血漿打って助けてるし、何がしたかったのか)
「起」「承」と来て、なんで「起」を繰り返すんだってばよ……
そりゃ、ラストも無名ちゃんがセリフで「承」の内容リピートして終わるしかないよね……。
人とカバネの狭間、「カバネリだ!」という在り方も、「人」の中で「生きてゆくもの」と「臆病者」が対比されて生駒が前者にカテゴライズされてる以上、機能していなかったように思えます。


なまじ前半が(「アクションすげー、無名かわえー」だけじゃなく)全うに物語してただけに、なぜかD.C.を食らって物語が終わらず尺だけ尽きたのが、とても悔しい。
最初の命題をリフレインするなら「一周回って」くらいのケレン味が欲しいところだし、作中で命題を広げる希望を示したからには、それを展開させてほしかった。
もし本作が2クールなら、生駒の対、影たる美馬との対峙として納得できる1クール目後半だったんだけど。
総集編映画より、続編が望まれる作品だと思います。
プロットの話だけで断じるのは失礼だけど、私にとって始まった物語が終わらないこと以上の苦しみはそうは無いので、この評価で。
一人の兄の、後悔と回復の物語と読むなら悪くはないんだけど、でも主眼そこじゃねえよなぁ……{/netabare}


■雑感
{netabare}・作画は素直に鳥肌ものでした。
 今なお魅力的な美樹本デザインも凄いけど、それをこうも動かせるのかと(撮影班死にそう)。
 戦闘の演出もカッコよかったです、ベタだけど来栖のカバネブレードが心臓貫くとことか。
・澤野BGMは印象的なだけに、こうも頻繁にお見掛けすると食傷気味に感じちゃうのがもどかしい。
・意外に小物(ex.生駒グラス)等を使った演出は細かくて見ごたえありました。
 一方で設定は放逸っぽくて、エモーションに振った作品だな、と。
 設定厨気質なので、世界観から逸脱するような演出にはハマれなかったかな。
・帰宅部員としては千本木さん(九重クレア先輩)の無名役に感動、益々のご活躍を祈念します。
・キャラは巣刈、侑那さん、鰍ちゃんが好きなので、もっと活躍するとこ見たかった。
・無名ちゃん、10話と11話の間でタクミの手から形見石取ってたのか…手癖悪いなw
・最終話、生駒を投げる一瞬前にぎゅっと抱きしめて胸に顔を埋めてたのが、マイベスト無名ちゃん(`・ω・´) {/netabare}


【個人的指標】 53点

投稿 : 2024/05/04
♥ : 30

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★★ 4.1

キャッチコピーは「死んでも生きろ」「貫け、鋼の心を」。

この作品の持つ話題性から、放送前より沢山の情報が飛び交っていました。
それも仕方ありません・・・
アニメ版「進撃の巨人」を手がけたWIT STUDIOによるオリジナル作品である事に加え、制作陣が半端ありませんでしたから・・・

監督:荒木哲郎(進撃の巨人)
シリーズ構成・脚本:大河内一楼(コードギアス 反逆のルルーシュ)
音楽:澤野弘之(ギルティクラウン)
キャラクター原案:美樹本晴彦(超時空要塞マクロス)

紹介した作品は1作ずつですが、他にも多数の名作を輩出された方々がタッグを組む・・・これだけで話題性としては十分です。
でもこの作品はそれだけではありません。放送前に発表されたカットの美麗さ・・・私は、無名が両手を頭の後ろに組んで「ピロピロ」を吹いているのを最初に見ましたが、正直作画の緻密さとキャラデザの可愛らしさが鬼がかっている・・・としか思えませんでした。
その位、この作品のインパクトの大きさは半端ありませんでした。

でも、次に気になるのが、この作画レベルをラストまで維持できるか・・・ということです。
勿論気持ち的にはラストまで頑張って欲しいという思いはありますが、人の出来る事にも限界がありますので・・・

こうして期待値MAXで一話を視聴しましたが・・・期待を裏切らない出来映えだったと思います。
それに声優さんも良いんです・・・内田真礼さん演じる菖蒲さまが出てきた時点でテンションもMAX・・・(//∇//)
そして内田さんがベタ褒めしていた無名役の千本木彩花さんの演技も素晴らしかったと思います。

物語は、人間とまるでゾンビの様に噛み付いた人を同種にしてしまうカバネとの熾烈な戦いを描いた作品です。
このカバネですが、ほぼ不死身ともいえる存在で唯一の弱点である心臓も金属皮膜で覆われていて貫くのは至難の業・・・そして一度噛まれたら人としての生涯を終えてしまう・・・そんな絶対に近づきたくない存在です。

そしてカバネは・・・集団で襲ってきます。まるで日本全土の生き物を全てカバネに変えることを使命付られているかのように・・・
そんなカバネに対抗できる術を持たない人間は、唯一の移動手段である装甲蒸気機関車が停車する駅を中心に外界と隔離する高い壁を作ってその閉鎖された空間の中で生活していました。

この物語の主人公である生駒は、装甲蒸気機関車の蒸気鍛冶で生計を立てながら、カバネに対抗できる手段を独自に模索していました。
その取り組みもようやく光が見えてきた矢先・・・カバネが壁を乗り越えて駅に侵入してきたのです。
壁にできた僅かな綻びがカバネによって破壊されるのにそう時間はかかりませんでした。
大量のカバネに駅を襲撃される・・・対抗手段を持たない人間にとって、それは安住の地を放棄する事を意味します・・・

人々は駅に停車していた装甲蒸気機関車の甲鉄城に避難を始めます。生駒も避難しようとした矢先、カバネに噛まれてしまうんです・・・
彼が咄嗟に取った行動・・・それはこれまで研究してきたカバネに抵抗できる術を自身の身体で試すことでした・・・

生駒は一命を取り留めました。その変わり大きな代償を背負う事になるのですけれど・・・
そして生駒は生きるために甲鉄城に向かい・・・物語が動いていきます。

作画は高いレベルで安定していて、物語の中で生駒が味わう理不尽の訳も・・・周囲の冷たさも・・・そして何より無名の可愛らしさも・・・
飢えに耐え・・・嘆願する生駒・・・全てを受け入れる菖蒲さま・・・常に変化への恐怖と隣り合わせであるにも関わらず、カバネの群れに身を挺する覚悟・・・
「名作」という領域に向かって敷かれたレールを突っ走っている作品だったのではないでしょうか。

ただし・・・それも中盤まででしたけれど・・・

時を重ねて隔たりが小さくなっていく甲鉄城・・・振り返るとピンチの連続でしたが、その試練が彼らの結束を固めた・・・といっても過言ではありません。
ここまでの展開は本当に最高・・・

でも、天鳥 美馬という無名が「兄さま」と慕う輩が登場してから・・・全てはおかしくなってしまったような気がしてなりません。
見た目は決して悪くありません。美男子だし、何よりカバネに奪われた土地を奪還し続ける英雄なんですから・・・
これだけ見ていると無名が兄を慕うのも十分理解できます・・・

そんな時間は束の間でしたけれど・・・

美馬が何をしたかったのか・・・気になる方は是非本編でご確認下さい。
私個人的には彼の卑劣で狡猾な仕打ちが大嫌いでした。
少なくても人の上に立つ者としての器じゃ無かったとしか思えません。
責任が重くなればなるほど大切なのは公平さなのに・・・
しかもやり過ぎるし・・・
だから彼の受けた報いは当然・・・なんだと思います。
美馬が登場する前までが素晴らしすぎただけに、この展開は残念としか言い様がありませんでした。

オープニングテーマは、EGOISTの「KABANERI OF THE IRON FORTRESS」
エンディングテーマは、Aimer with chelly (EGOIST)さんの「ninelie」
ここでEGOISTが起用された事も個人的には好評価です。
何せ楪いのりちゃんのファンなので・・・(//∇//)
EGOISTで唯一の難点・・・といえば総じて歌が難しいことでしょうか^^;?
今回の曲も最高に格好良かったです^^

この作品も1クールか2クールかの情報が無く最後までドキドキでしたが、
1クール全12話の作品となりました。
甲鉄城の旅は未だ終わっていません。物語に一区切りは付きましたが、彼らは安住の地を手に入れていないのです。
カバネとの戦い・・・これから今まで以上に熾烈な局面があるかもしれません。
でも今の甲鉄城の乗組員だったら、どんな困難にも屈する事なく立ち向かっていけると思います。

美馬の件では一悶着ありましたが・・・それでも絆を取り戻しいつか安住の地を手に入れるため奔走する・・・こんな続編があったら間違いなく飛びつくでしょうし、物語の評価も変わると思います。
そう考えると、是非2クールで放送して欲しかった作品でした。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 35

70.9 2 スチームパンクで復讐なアニメランキング2位
THE ビッグオー(TVアニメ動画)

1999年秋アニメ
★★★★☆ 3.9 (177)
1078人が棚に入れました
時は今から100年後、ところはかつてマンハッタンと呼ばれていた「記憶を失った街」パラダイム・シティ。この街の住人は、40年前に起きた“何か”によって、パラダイムシティを残し他全ては死滅、そしてそれまでの記憶(メモリー)を―その“何か”に関する事も含めて―全て失っていた。しかしメモリーは、時に思わぬ形でその姿を表す。
主人公のロジャー・スミスは、凄腕のネゴシエイターとしてパラダイム・シティで仕事をしている。過去の記憶を失って40年、ようやく再建されはじめた街の法秩序は完全ではなく、ネゴシエイションを必要とする場面は多い。だがしかし、そんな街において交渉だけで事が済む場合は少なく、荒っぽい暴力に訴えてくる相手も多い。そんな時、彼はメガデウス・ビッグオーを持ち出し、力に力で対抗する。そんなある日のこと、ロジャーはひとつの依頼を受ける事になる。令嬢誘拐犯とのネゴシエイトという、彼にとっては朝飯前の依頼だったが……。
やがて彼はこの世界の謎と向かい合い、過去のメモリーと相対することになる。パラダイムシティを支配するアレックス、謎の女エンジェル、存在するはずのない「異国」。ビッグオーとロジャーとの関係が深みを帯び始め、主人公であるロジャー、アンドロイドであるドロシー、全ての登場人物が自分を取り巻く世界を信じられなくなった時、ロジャーはこの謎だらけの世界と対峙する。

声優・キャラクター
宮本充、矢島晶子、清川元夢、玄田哲章、篠原恵美、辻親八、石塚運昇、堀勝之祐、納谷悟朗、大塚芳忠
ネタバレ

yuugetu さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

難解だけど全部好き

1999年10月~2000年1月放送のテレビアニメ。1期全13話。
2002年11月~2003年9月に2期(second season)が放送。2期全13話。
1期と2期を一緒に評価しています。
ロボットのデザインはこの作品が一番好きだったり。

1期のストーリーは凄くシンプルで、毎話メモリーを巡る事件が起こりそれをロジャーとビッグオーが解決するお話。
2期では連続性が強くなり、メモリーと世界の謎が解き明かされていきます。ただ、1期の時点では2期を制作する予定は無く、大まかな部分は決着がついているものの、難解な部分もあり考察を必要とするため好みが分かれます。

少し暗く洒落た世界観、クラシックな街並み、雰囲気作りが上手いですね。
巨体感のあるレトロなビッグオーのデザインがかなり好きで、特に重量感を重視したロボットアクションも秀でています。サンライズらしい外連味の利いた戦闘は見所。モノクロのコントラストを活かした画面作りと演出は一見の価値ありです。

キャラクターも好きです。
ロジャーは本人が格好付けているのが若干滑稽に描かれていて、かえって嫌味がありません。
ドロシーもまた皮肉っぽさと可愛らしさが絶妙にブレンドされた秀逸なヒロイン。
エンジェルはトラブルメーカー的な役回りの前半、女性らしい弱さが露呈する後半でがらりとイメージが変わり、個人的にはとても共感できるキャラクター。
完璧超人でありながら飄々とした執事ノーマン、悩み多き堅物警察官ダストンもまた素晴らしいです。

何年か毎に繰り返し見るほど味わいが増し理解が深まる、個人的には名作です。
謎多き作風ですが本筋の解釈については色んな所で考察がなされているので、私が細かく書く必要もないかな。
なので私がこの作品を好きな理由をネタバレ全開でいくつか。


【ロボットのデザインについて】
{netabare}
2017年サンライズフェスティバルで本作のオールナイト上映が決まった際に片平一良監督のインタビューがアニメ雑誌に掲載されていました。

当時のスタンダードなロボットは「結局、行き着くところは四角いブロックの塊でしかないから、まずそれはやめようと思いました。」
「とにかく『今まで見たことないシルエットのロボットを作ろう』というのが目標でした」とのこと。
私もそこに惹かれたクチですねw
それに加えて、繰り返しになりますがロボットアクションの重量感、外連味のあるバトル。サンライズのアニメーションの特に良い所が凝縮されている感じ。{/netabare}


【世界観の表現とラストシーンについて】
{netabare}
上記のインタビューには世界観についても記載されていました。

記憶を失った街というアイデアについては、シリーズ構成の小中さんの仕掛けで、「あれは実は『方便』なんですよ。」とのこと。
細かな世界観の設定に尺を使いたくないので、語らずに済ませたい。だから最初から存在しないものとして、誰も覚えていないから語られないという形にしたと。本当は意味がなくて、あるはずのないもの(メモリー)にこだわる人が事件を起こしたり巻き込まれる構成になっている。
でもセカンドシーズンで「カートゥーンネットワークが製作に加わる時『その意味を描いて、世界観に決着をつけて欲しい』と言われて、みんなで頭を抱えました(笑)。」だそうですw


つまり謎はあるように見せているだけで本当は意味がないということが肝だったのですね。
それをどう表現するかが問題だったと思うのですが、1期の設定を極力使いながら謎を解き明かす作劇が出来ていてとても丁寧だったと思います。描きたいことはそのままに、枠物語というギミックを使うことで「メモリーは最初から存在せず意味がない」ことを描いて見せた。

枠物語とは、知っている人も多いと思いますが、劇中で別の物語が展開する物語。千夜一夜物語が有名ですね。
物語の中から外側を知ろうとする者たちの徒労、その無意味さ、それを知った者たちのアイデンティティの揺らぎが、この世界を揺さぶりました。

舞台の外には何も存在しないことに絶望したエンジェルは、その舞台をリセットしようとします。彼女が欲しかったのは自分の存在意義です。それをメモリーに求めましたが、物語の作者であり演者でもある彼女が知らないものはこの舞台には存在しない。
2期ではアンドロイドもメモリーを持つと言われています。その理由はアンドロイドが蓄積したデータは基本的には書き換えられることが無い、アンドロイドは忘れないからだと考えられます。それと同時に、ドロシーには心があり、「記録」と共に「記憶」も持っている。

肝なのは「記録」と「記憶」は似て非なる物だということではないでしょうか。
この世界には40年前より以前の記録がない。あるのは誰かが突然に思い出す記憶のみ。記録が無いのに個人の記憶は存在するという矛盾が発生する。


エンジェルとドロシーがなぜメモリーなのか。
二人はその特殊性により「記録(客観)」と「記憶(主観)」を両方持っているからではないでしょうか。

そして本作のロボットの呼称である「メガデウス」は物語を強制終了するデウス・エクス・マキナから来ています。

メモリーたるエンジェルとデウス・エクス・マキナ(ビッグヴィヌス)に交渉を持ちかけられるのは、同じくメモリーたるドロシーを同乗させたビッグオーを操るネゴシエイター、ロジャーのみだったのではないでしょうか。
エンジェルに対するロジャーの説得は、物語の中であっても自分たちのこれまでの生き方を肯定すること。自分たちが築いてきた関係性を拠り所に再び歩き出そうということです。
私はこのとても前向きな結論が好きなんですよね。
自身の記憶を捨て去りながらもその幻影に苦しめられたロジャーだからこそ、その言葉には説得力がありました。

表現や台詞回しこそ難解ですが、パラダイムシティは演劇の舞台でありその外にも過去にも何もないと理解すればそれで良い。
思わせぶりに挿入される謎の映像も、今は自覚せず登場人物を演じる役者が過去に演じた他の演目・他の役だと理解すればそれで良いのかなと思います。{/netabare}

ついつい考えてしまう人間にはとても面白いですし、何も考えず世界観を楽しむことも出来る作品です。(2018.6.11)

投稿 : 2024/05/04
♥ : 23
ネタバレ

しんばくん さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

40年前以前の記憶が無い世界の物語【4.5】

物語:4.4 作画:4.4 声優:4.3 音楽:4.7 キャラ:3.8 【平均:4.3】                           (78.3)
物語:4.9 作画:3.9 声優:4.8 音楽:4.4 キャラ:4.8 【平均:4.6】second season                 (90.6)

ジャンル        :ロボットアニメ
話数          :全26話(first+second season)
原作          :矢立肇、片山一良
アニメーション製作 :サンライズ
監督          :片山一良
シリーズ構成     :小中千昭、片山一良
キャラデザイン    :さとうけいいち
製作          :バンダイビジュアル、サンライズ
音楽          :佐橋俊彦
主人公声優      :宮本充
OP           :「BIG-O!」歌・作詞・作曲・編曲 - 永井ルイ
             :「RESPECT」作曲・編曲 - 佐橋俊彦
             :「Big-O! Show Must Go On」歌・作詞・作曲・編曲 - 永井ルイ
              (2007年のアニマックス再放送時の新オープニング)
ED           :「and FOREVER…」歌 - ROBBIE DANZIE with 高尾直樹 / 作詞 - Chie / 作曲・編曲 - 島               健

参照元        :Wikipedia「THE ビッグオー」

【あらすじ】
 40年前に起こった「何か」によって、地球は壊滅に近い状態に陥り、同時にそれ以前の記憶(メモリー)を失った街「パラダイムシティ」。そのパラダイムシティで、随一のネゴシエイター“交渉人”として活動する男がいた。彼の名はロジャー・スミス。ある日、彼が大富豪のソルダーノから請け負った依頼は誘拐された令嬢の居場所をつきとめる事。だが、犯罪者から取り戻した少女は人間ではなく、精巧なロボット=アンドロイドだった―
 メガデウス・ビッグオーを操り、アンドロイドのドロシーと共に過去の記憶(メモリー)の謎に迫る。 THE ビッグオー公式ページ「Story」より一部抜粋

【特徴】
①巨大ロボット、アンドロイド
②ディストピア
③洋画的(セリフ等)
④渋い雰囲気
⑤1話完結(一部次回へ続く)
⑥考察を要する

【長所】
①一話完結型のストーリーが多いが、其々のストーリーの繋がりは強い
②ロボットでの戦闘シーンが小難しい話の緩衝材的役割を果たしている

【短所】
①一部考察を要する部分がある(人によっては長所)

【短評】
{netabare} 前半の謎は後半で解決する1話完結タイプの話で構成される物語。主人公のロジャーはパラダイムシティを守るために殆どの回でビッグオーに搭乗し、敵や問題を解決してゆきます。そして本筋は40年前以前の記憶が消えた謎に迫るという少しミステリアスな部分のある作品。

 まず長所①です。回を追うごとに視聴し終えた話の真実が徐々に明らかになるところに魅力を感じました。なので1話毎のストーリーを吟味しつつ、物語全体としても楽しめる作りにお得感を感じました。
 続いて②です。話の構成から対話シーンが謎解決シーンを理解出来るか否かの鍵となっています。その為、対話を聞き漏らしてしまうと良く理解出来ずに終わってしまうと思います。要するに、構えて視聴する必要があり、疲れてしまうという事です。一方、ロボットでの戦闘シーンは感覚的に視聴する事が出来、頭を使う必要が無いので息抜き出来る訳です。また、対話シーンとの温度差が大きく、マンネリ化防止に一役買っていると思いました。因みに、ビッグオーは重量感のあるロボットなので機敏な動きをしません。しかし、ロジャーの正義感溢れるセリフが熱く、それと同時に繰り出されるパンチは絶大な破壊力を持っており、爽快感の得られる戦闘シーンとなっていました。

 次に短所です。特徴⑥にも書きましたが、謎の解決を視聴者に委ねる部分もあります。そういった部分は確たる解を得られず、消化不良を起こす可能性があります。しかし、この様に考察を必要とする部分は本作の魅力のうちの一つでもあると思います。{/netabare} 

【総括】
 全体的に渋くてレトロな雰囲気でしたが、ロジャーがビッグオーを操縦し、正義の鉄槌を下すシーンは非常に熱いです。そして第1、第2シーズン共に1話完結の話は奥深く見応えがあります。また、第2シーズンは次回への引きが第1シーズンより強く、魅力的でした。尚、物語以外での魅力的な部分は渋い声の声優が多数出演しており、作品の渋い雰囲気作りに大分貢献していた事です。凝った物語、レトロな作画、熱い展開などを目当てに作品選びをしている人にはとてもお勧め出来ると思いました。



【思った事・蛇足】

難しかったです。


なので分かるまで何回も観直しました。
こういった捻りの利いたストーリーは
理解出来た時にとても面白く感じるので私は好きです。


1話ごとの構成は
『カウボーイビバップ』『蟲師』と似た
結末の部分で真実が明らかになるタイプの話が多かったです。


しかし、短評でも書いたように
1話ごとの繋がりが強く
全体としての物語がとても重厚感のある作品でした。


尚、辻褄の合わない部分が出てきますが
最期まで観る事で納得出来る・・・かもしれません。


けれど雰囲気で楽しむ事が出来れば
別段深く考える必要は無いかもしれません。


どうしても理解出来ない事が癇に障るという事であれば
考察をまとめたページを見てしまうのも良いかもしれません。


それと一応注意しておいた方が良い事は
公式ページのキャラクター説明はネタバレを含み
Wikipediaもネタバレを含みます。
なので最期まで観終えてからの閲覧が好ましいでしょう。




あと、どうでもいい事なんですけど
ロジャーのキャラデザイン
『逆転裁判』の主人公「成歩堂龍一」に似ているような。
というより
逆転裁判の方が後なので
成歩堂龍一がロジャーに似ているのかw


・・・


似てないですか?w

投稿 : 2024/05/04
♥ : 8
ネタバレ

ossan_2014 さんの感想・評価

★★★★★ 4.4

拒絶するという力

2期ラストまで通しての感想。
【話の流れで、例として他作品の名前を出しています。知らない方ごめんなさい】


どこか懐かしさを感じさせるような、1950年代アメリカ風の舞台。
直接知っているわけではないが、なんとなく聞きかじって覚えがあるような時間的な遠近感が、実体のない「懐かしさ」を醸しだし「記憶喪失の街」に絶妙に共鳴する。

数々の謎の回収が必ずしも明示されずに幕を閉じる物語だが、少なくとも、最大の謎「なぜ『ネゴシエーター』が巨大ロボットを操る主人公なのか」には、最終回ラストの5分間で回答が与えられる。

{netabare}メタ化が重層し、何が「実体」であるのか不明の、混沌のただなかに放り込まれる物語世界は、終幕、舞台となる記憶喪失の街が、文字通りの、人(?)工的な「舞台=ステージ」として設定されている(らしい)ことが明かされる。

ステージが崩壊を開始する中、再創造の前に立ち尽くす創造主に対し、ステージが自らの「世界」である登場人物=キャラクターの立場から背中を押す主人公は、まさにこのために配置された「ネゴシエーター」だ。

本作の独創を感じるのは、間接的な世界創造ともいえるこの「ネゴシエーション」で、主人公ロジャーが、再創造されたパラダイムシティもろとも、記憶消失の自分を引き受けることだ。

何度かこのような「ネゴシエーション」が行われてきたらしいと暗示される作品世界で、一種の安全装置らしい「ネゴシエーター」は、「世界の秘密」を知っていた方が、より機能的なはずだ。

「ネゴシエーション」を通じて、自らに秘密の記憶を残すよう働きかけることは、主人公にとってたやすい。
が、ロジャー・ザ・ネゴシエーターは、街とその全住民とともに、自らの記憶喪失を選択する。




ところで、どのような物語であれ、「物語=ストーリー」を動かすには、何らかの「力」、駆動力が必要になる。日常系のように「力」のない物語世界では、逆に「進行する物語」が無いことが作品の特徴になっていることを想起すれば、理解してもらえるだろうか。

バトルものに典型的だが、戦いを描くアニメ作品では、何らかの「秘密組織」が、その作品世界で物語を動かす「力」を持つことが圧倒的に多い。
『エヴァンゲリオン』が一番わかりやすい思うが、その作品世界内での「権力」を持つケースも少なくない。

これら「秘密組織」の「力=権力」の源泉は、「秘密」そのものだ。
いや、正確には、秘密を「知っている」こと。
組織自体が非合法な秘密のものでなくとも、「世界の秘密」を排他的に理解している、という事が力をもたらす。

この「秘密を知っている=他人は知らない」という非対称性が、自分(たち)は「知っている」が奴らは「知らない」という構造が、権力の根源だ。

したがって「秘密組織」は、必然的に「知らせない」ことが本能となる。
『攻殻機動隊』の「公安9課」が、事件の初動で例外なく情報の封鎖と操作を行おうとするのが、典型的だろう。
彼等が情報公開することは、絶対にない。
『ネルフ』が全人類に向けて「死海文書」を公開する日も、決して来ない。


本作で、ロジャーは記憶喪失を引き受ける。放棄された「記憶」は、すなわちパラダイムシティでの、作品世界での「権力」だ。
「世界の秘密」を「知ること」による「力」を、ロジャーは拒絶する。
万人が「秘密」を知ってしまえば「世界」が分解してしまう「ステージ」上で、「知らない」人々に「知っている」ことをもって君臨する立場を、否定する。

製作者による、「知ること」の非対称による権力性への拒否を、「力」を死守するために「秘密」を囲い込もうとする身振りの浅ましさへの強い批評性を、ここに感じる。

「秘密組織」によって駆動される物語が量産される限り、{/netabare}
この作品が視聴される意義も薄れることはないと思う。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 5

68.9 3 スチームパンクで復讐なアニメランキング3位
ヴァニタスの手記(TVアニメ動画)

2021年夏アニメ
★★★★☆ 3.5 (174)
589人が棚に入れました
吸血鬼が存在する19世紀のフランス。吸血鬼の青年ノエは、吸血鬼に呪いを振り撒く魔導書「ヴァニタスの書」を探すためにパリへ向かい、その途中の飛行船の中である事件に遭遇した。その最中、吸血鬼の専門医を自称するヴァニタスと名乗る青年がノエの前に現れるが、ヴァニタスはノエの探す「ヴァニタスの書」を手にしていた。
ネタバレ

ぺー さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8

ある吸血鬼フェチの実像

原作未読 分割クールの前半12話


“手記”と書いて“カルテ”と読みます。
いわゆるヴァンパイアものですがわりと変化球。
不老不死吸血鬼と命限りある人間が対峙する物語とは違い、吸血鬼に降りかかる災厄が柱となります。
その吸血鬼の“真名”いわば魂みたいなものが奪われちゃうと正気を失って、まるで渋谷交差点ど真ん中で佇むTウィルス感染済の中島美嘉ちゃんみたいになってしまうという呪いに怯えているのが本作の吸血鬼“ヴァンピール”たちです。その呪いからヴァンピールを救うお医者さん役を担うヴァニタス(CV花江夏樹)と呪いについて含みありそうなヴァンピールのノエ(CV石川界人)のW主人公もの。
作中で言うところの“呪い持ち”になったヴァンピールは発症すれば殺処分の運命が待ってるわけですが、唯一ヴァニタスのみが手持ちの“ヴァニタスの書”を使って真名を取り戻すことができる唯一無二の存在というのがポイントです。ジョーブ博士みたいなもんですかね。またこっちは名前を返してもらう書ですが、名前を返してあげる『夏目友人帳』と本質的には変わらなさそうな作品でもあります。

前置きそれくらいで、事前情報からはこちら↓

 ボンズ制作 梶浦由記劇伴

こちらが吸引力となりました。まあ綺麗ですもんね。梶浦さんは事後知りましたがくどいくらいドラマチックで壮大ないつものノリは控えめな印象です。さはさりながら19世紀後半のパリの情景にはよく似合うBGMなのはさすが。美術は総じて美しく印象的だったのはOPアニメーションでの早朝太陽の光具合。綺麗な朝焼けです。ちな本作の吸血鬼は太陽の光浴びても灰にならない設定です。

一通り前半終わってポジティブな印象を持ってます。理由は3点

1.綺麗
 →前述の通り
2.続きが気になる
 →{netabare}「そして…その旅路の果てに」「彼をこの手で殺すまでの物語」{/netabare}
  第1話ノエのモノローグが示唆する結末はぜひ見てみたい
3.俺の好きなヴァンパイア
 →吸血鬼ものにはどこか“退廃”“耽美”を求めがちな私の趣味に合っている

とりわけ3はフェチシズムの世界ですね。美形男子のバディもので女性作者とバイアス入りがちなのですがどうなんでしょう。矢印はノエ→ヴァニタスでも性格や見た目に惹かれてというより「ヴァニタスの血が美味そう」と吸血鬼の本能に則した動機ではあるんでそれほどでもないなぁと見ております。
それよか禁じられているとされる人間への吸血行為の描かれ方が素敵。まぁえっちいです。欲求・衝動・理性との葛藤ないまぜの吸血シーンは親と一緒に観てると確実に気まずくなる水準です。
やはりヴァンパイアものは“耽美”なとこないとね。作品評価は分割前半のため例によって保留ですがこれは好物です。来たる後半待ち~



※余談

■ペース配分

ここ一年くらいで『SLAM DUNK』『空手バカ一代』『カウボーイビバップ』『エヴァンゲリヲン』とクラシックを堪能してたからかもしれません。
{netabare}近年の深夜アニメの1クール2クールサイクルでの話の詰め込みっぷりに慣れてる自分に気づきます。本作は新作の中ではゆっくりめ。
昔のって最初から最後までやるんですよ。なんかしらの大筋があって伏線張りながらゆっくりめの尺の中で丁寧に回収する感じ。最近は大筋があっても描写を削ってスピード解決します。それに慣れてるから“ゆっくりめ”と感じるんですよね。
普通の早さの作品が遅く感じる弊害みたいなのはあって、期を跨ぐものやとりわけ分割クールものにそれは如実に表れると思います。とどのつまり「遅せーな」と感じてしまう。{/netabare}

{netabare}ジェボーダンの獣と新展開をチラ見せして中締めしてエンタメの体裁は保ってるものの、展開自体は??が依然として謎のままのハーフタイム。

 丁寧にやってるので期待がもてる or よくわかんねーまま終わったよ

私は前者の感覚ではありますがみなさんどうでしょう?
分割ものは後から一気にGOも手段でして、とりわけ本作のゆっくり展開でこそアリな選択肢かも。{/netabare}


■耽美

{netabare}ジャンヌ(CV水瀬いのり)良かった。
まずは水瀬さんやってるとはわからんのが良かった。
古今東西チョロイン枠って顔を赤らめてもじもじして照れ隠しのプンプンするようなリアクション芸に長けたの出しときゃ安パイなのに彼女は自ら欲求を満たそうと行動するんですよね。
ハリウッド映画ならそこチューするだろ?みたいなとこでなにもしないのがアニメに対する数少ない不満だったりするんですけどそこを突破する本作のヒロイン。
なお、ただのチューよりいやらしかったです。
ロエの幼馴染ドミニク(CV茅野愛衣)も悪くない。{/netabare}



視聴時期:2021年7月~9月 リアタイ   

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2021.09.19 初稿
2021.11.16 配点修正 -0.1

投稿 : 2024/05/04
♥ : 32

♡Sallie♡☆彡 さんの感想・評価

★★★★★ 4.5

わたし好みのテイストです✧

原作は知らなかったのですが,タイトルに惹かれて観てみました。
わたしが好きな19世紀が舞台で吸血鬼もの,そしてスチームパンク!!
19世紀やスチームパンクというと,イギリスを舞台にしがちだと思うんですが,こちらはフランスはパリ。
そこら辺は珍しいと思いました。
出てくる用語もフランス語が用いられてて雰囲気あって良いですね☆
こちらは分割2クールでやるらしいのですが,第2クールはまた別に出るかもしれないので,取り合えず第1クールまでのレビューをしようと思います。

話自体はファンタジックでとても好みですし,雰囲気も好きです。
ただ,原作を読んでいないこともあり1回観ただけでは用語を覚えられずなんだかよく分からないままお話が進んでいった感はあります。
そもそもこの第1クールでは謎が多すぎて結局それぞれが何を目指しているのか分からないまま終わってしまいました。
ただ,それぞれの回自体は面白くて毎回時間があっという間に感じました。
あとちょいちょい出てくる色っぽいシーンのエロ度が丁度よくて好きでした(笑)。

作画はとてもきれいだと思いました。
まぁ,そもそも元々の原作のキャラクターデザインがあまり好きではないとは思いつつも,背景の19世紀フランスはほんとに素敵だと思ったし,飛空船もとても美しかったです。
最近同じ時代のイギリス・ヴィクトリア朝を舞台にした小説を読んでいて飛行船が出てきたり,パリでタイムトラベルをしちゃう「ミッドナイト・イン・パリ」という映画を観たり,別の吸血鬼もののアニメを観ていたりしたのでなんだか今の気分にもぴったり合っていて観るべくして観たという感じでした。
特にOPの夜のパリはうっとりしちゃいますね♪

キャラクターは上記のとおりデザインがあまり好きじゃないなと思いましたが,キャラの性格自体は割と好みでした。
主人公がトリックスターな感じも他にはあまり無いのでわたしは好きです。
最初,ヴァニタスの髪型がどうなってるのか気になって仕方なかったけど(^-^;
ノエはヴァニタスに振り回される役ですね。
この2人は夢枕獏「陰陽師」の安倍晴明と源博雅の感じに似てると思いました。
初め,ヴァニタスはめっちゃ強い奴なのかなって思ったんですけど,1話目で早くも無様にやられてて面白かったです。
彼は最初からトリックスターな雰囲気が出ていたので,ジャンヌにいきなり無理無体をはたらいた(笑)のにはびっくりしました。
色恋には興味ないキャラかと思ってたので…。
しかも歯の浮くようなこと平気で言うし…(´∀`)
でも,ほんとにジャンヌに惚れてる感じはしなくてただからかってるだけに見えるけどね。
ジャンヌはジャンヌで業火の魔女とかいうからどんなキャラかと思ったらチョロQだし…。
そこら辺も面白かったです。
彼女の性格は好きなんだけど,わたしはショートヘアの女の子のキャラクターがあまり好きではなくて…。
それに,19世紀にショートヘアの女性なんて居なかったよね!?
それが残念でした。
もっとわたし好みの女の子が出てきてくれたら嬉しいのに…。
1番好きなのはルカ様かな。可愛すぎますね,彼は♡
あとムルのふてぶてしい感じも可愛い♪
あと,やばそうな人シリーズですが…
ベロニカはなんで着物を着ているの!?
ジャポニズムがお好きなのかしら??
あと,先生とルスヴン卿は怪しいですよね。
ルスヴン卿はいかにも悪役っぽいですけど,先生の得体の知れない感じも怖い。

OP・EDはわたし好みでした♪
アニメーションも好きです,特にOPの!!
オープニングテーマはそれ自体は良い曲ではあるんだけど,このアニメに合ってるかと言われると合ってないと思いました。
日本的な楽曲だと思ったので…。
エンディングテーマは合ってると思います。

正直,まだまだ分からないことだらけなので第2クールに期待です☆
第2クールは来年の1月~らしいです。
待ち遠しいなぁ。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 10

Ka-ZZ(★) さんの感想・評価

★★★★☆ 3.9

呪いと救いの吸血鬼譚

この作品の原作は未読です。
2021年夏アニメにおける花江夏樹さん主演3作品のうちの一画に位置する作品です。


蒸気機関による技術が発達し、吸血鬼(ヴァンピール)が存在する19世紀のフランス。
吸血鬼の青年ノエは、吸血鬼に呪いを振り撒く魔導書「ヴァニタスの書」を探すためにパリへ向かい、
その途中の飛行船の中である事件に遭遇した。

その最中、吸血鬼の専門医を自称するヴァニタスと名乗る青年がノエの前に現れるが、
ヴァニタスはノエの探す「ヴァニタスの書」を手にしていた。

吸血鬼そのものとも言える刻まれた真名を崩して狂わせることも、
そして復元して正気に戻すこともできる機械仕掛けの魔導書。
それをめぐる人間と吸血鬼の物語。


「ヴァニタスの手記」「あらすじ」でググった結果を引用させて頂きました。

この作品のジャンルは「ダーク・ファンタジー」や「スチームパンク」に分類されるのだそうです。
「スチームパンク」の作品といえば、「甲鉄城のカバネリ」や「プリンセス・プリンシパル」が代表格かと思いますが、言われてみると雰囲気が合っている気がします。

完走して振り返って思ったこと…
やっぱ同クールで花江さん主演3作品はちょっとお腹いっぱいになりますね。
特徴のある声質なので、花江さんだと直ぐに分かりますし…

一方、いのりちゃんも今期は3作品に主演として出演されていました。
・「現実主義勇者の王国再建記」のリーシア・エルフリーデン
・「死神坊ちゃんと黒メイド」のヴィオラ
・「ヴァニタスの手記」のジャンヌ
こちらについては、全く違和感を感じませんでしたけどね^^;

この作品に出演していたいのりちゃんや、かやのんもですけど、一時期に比べてTVアニメ出演する作品が減っているような気がするのは私だけでしょうか。
…と思ったら、お二人ともゲームのCVを沢山演じられているようでした。

しかし、お二人の演じているゲーム作品を改めて見てみると、膨大なゲーム数は世の中に蔓延しているのが実感できます。
正直、これほど需要があるかは疑問ですけれど…

私もアサルトリリィのラストバレットをプレイしていますが、本格的なゲームは正直1つで限界です。
ガチャ回すのもそれなりにお金掛かりますし…

ヴァニタスの内容から思いきり逸れてしまいましたが、分割2クールの前半クールが終了した段階なので、現時点での評価は難しいかな。
個人的には、終盤でのジャンヌの…いのりちゃんの「デレ」が最高だった、というところでしょうか。

物語の方は最終話で次の展開が頭出しされるという、分割2クールならではの構成でした。
100年以上前に人々から恐れられた輩が出現するという、これまでとは全く異なる展開が後半クールで展開されるようです。

作画もしっかりしていて見易い作品だったと思います。
気になる方は是非本編でご確認頂ければと思います。

オープニグテーマは、ササノマリイさんによる「空と虚」
エンディングテーマは、LMYKさんによる「0 (zero)」
個人的にはエンディグの方が好みでした。

1クール全12話の物語でした。
そう言えば、この作品は分割2クール作品ですが、後半クールがいつ放送されるかは情報がありませんね。
後半クールの視聴も楽しみにしています。

投稿 : 2024/05/04
♥ : 17
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