shino73 さんの感想・評価
4.2
生命の息吹
宮崎駿の最高傑作は!?と問われれば、
必ず「ナウシカ」の原作だと答える。
そう僕が言えば、
玄人の方は「雑草ノート」だろと答える。
どちらも理由は同じです。
他者の介在が極めて少ないからです。
若い頃に照葉樹林文化に触れた宮崎氏が、
集大成として15世紀を舞台に選んだのは、
アニミズムが衰退し、
神から貨幣へと信仰の対象を変え、
日本人の精神性に根差した自然観に、
変革が起こったのだと確信したからでしょう。
土地に根差した信仰を捨て、
現代に通じる価値観が生まれ始まる。
森は本来、不気味なものの象徴であり、
幾多の生命を育む場所であったはずが、
時代の流れとともにその価値も薄れていく。
現代人はシシ神はおろかトトロさえ視認出来ない。
この作品からは「慈愛」と「凶暴」さを併せ持つ、
「森」が本来の形で写されています。
主人公アシタカに主体性はなく、
サンはまともなコミュニケーションを取れない。
過去作に比べ魅力の乏しい主人公とヒロイン。
宮崎氏が描きたかったのは、
ジゴ坊とエボシではないのか!?
ジゴ坊は天子様の命でシシ神の首を追う、
帝はシシ神の絶対的な力を手に入れ国を統べる。
森の神に対する反逆、草木は枯れ生命は衰退する。
自然との共生を描く物語の結末はご存知の通りですが、
制作時の宮崎氏の苦闘は「生きろ!」ではなく、
「滅びよ!」に傾いてはいなかったのかと感じます。
聖なる場所としての「森」と「生命」を、
鮮烈に描き切ったこの作品を、
彼の最高傑作に推したいと思います。